AIを中心としたコマースの未来でSNSはもちきりだ
先日、Shopifyの開発者向けイベント「DotDev 2026」が開催された。
私は参加していない。
SNSには、日本から参加したShopifyパートナーの皆さんによる、現地の写真や発表内容が次々と投稿されていた。
「最新情報をキャッチアップしました」「コマースの未来を感じました」「Shopifyに関するご相談は弊社まで」
といった投稿を眺めながら、私は少しモヤモヤした気持ちでいた。
今回語られた内容の多くは、すでにShopify Editionsなどで発表されている。もちろん、現地でしか得られない情報や空気感はあるだろう。
ただ、我々支援企業目線で見た時に、また既存のクライアントの課題に何か直球で答えられるようなトピックスがあるかと考えると、個人的にはあまりピンと来なかった。
そこで、最新機能について評価する前に、一度過去を振り返ることにした。
今回、確かめたかったこと
- これまでShopifyが発表してきた機能は、実際にどれだけ定着したのか。
- 未来のコマースを変えると言われた機能は、その後どうなったのか。
- 当時は地味だったものの、現在では欠かせなくなった機能は何だったのか。
今回、2017年以降のShopifyの発表やアップデートを、可能な範囲で時系列に並べてみた。
※もちろんAIで調べた。
Shopifyのアップデートを1,234件並べてみた
Shopify Unite、Reunite、Shopify Editionsなどの公式発表を中心に、2017年から2026年までの主要な機能とアップデートを整理した。
収録した項目は、合計で1,234件になった。正確かはわからないし、一定の抜け漏れや、発表の形式が変わったことによるカウントの仕方の限界などがあるとAIは言い訳をしていた。
が、まーおそらくこんなものであろう。重要なのは数が合っているかどうかではない。
また、この1,234件というのは、すべてのDeveloper Changelogや細かなAPI変更を完全収録したものではない。名称を持った機能や一定規模のアップデートを中心に、発表年、ジャンル、対象地域、関連する親機能などでExcelに分類してもらった。
厳密なデータベースというより、Shopifyがどの領域に投資してきたかを俯瞰するための資料である。
Excelへ並べるには十分すぎる量で、一つずつ確認するのはかなり骨が折れて近視が進んだ。
一方で、見ていて楽しくもあった。
「こんな機能もあったな」と懐かしく感じるものもあれば、「これはこの年に導入されたのか」と改めて知ったものも多い。
たとえばSidekickである。
私の記憶では、昨年くらいに登場した比較的新しい機能という感覚だった。しかし一覧を見ると、発表はSummer ’23だった。
すでに3年近く前である。
9年間Shopifyを仕事にしてきた人間としては、少々お恥ずかしい。
記憶の中では最近の機能だったものが、気づけば何年も前から存在している。逆に、発表時は大きく取り上げられたのに、その後ほとんど耳にしなくなった機能も少なくない。
1,234件を並べて見えてきたのは、単なる機能の歴史ではなかった。
Shopifyが何に期待し、何を試し、何を諦め、どこへ継続投資してきたのか。
その試行錯誤の履歴だった。
Shopifyは衝撃的だった
2017年以前、私は別の会社で役員をしていた。
企業の要望を聞きながら適切なECカートを選定する、いわばECカートのコンシェルジュのような事業である。
そのため、Shopifyに出会う以前から、多くのECカートやECシステムに触れていた。
当時、自社ECを構築する選択肢は、大きく三つに分けられた。
SaaS、オープンソース、パッケージである。
SaaSは導入しやすく、サーバー管理やセキュリティ、アップデートを提供会社へ任せられる。一方で、標準機能を超えたカスタマイズには限界があった。
オープンソースは自由度が高く、独自要件へ対応しやすい。しかし、サーバー、セキュリティ、バージョンアップ、プラグインの互換性を、自社や開発会社が継続的に管理する必要がある。
パッケージは複雑な業務要件へ対応しやすいが、導入費用と開発期間が大きくなりやすかった。
どれか一つが明確に優れているわけではない。企業は予算や要件、運用体制に応じて選ぶ必要があった。
その前提でShopifyを見たとき、私はかなり衝撃を受けた。
ShopifyはSaaSである。
サーバーや基本的なセキュリティ、プラットフォームの更新を自社で管理する必要はない。それでいて、オープンソースのように、テーマ、アプリ、APIを活用すれば、従来のSaaSカートでは難しかった範囲まで機能や画面を拡張できた。
SaaSの運用しやすさと、オープンソースのような拡張性を組み合わせたEC基盤に見えた。
- GUIでページやデザインを編集できる。
- 足りない機能はアプリで追加できる。
- APIを使えば外部システムと接続できる。
- 海外の決済、物流、マーケティングサービスも利用できる。
- 国内向けに始めたECを、将来的には海外へ拡張できる。
Shopifyが提示していたのは、単なる新しいECカートではなかった。
ECを中心に、世界中のサービスや開発者が接続されるプラットフォームという考え方だった。
私が未来を感じたのは、ECカートを知らなかったからではない。
むしろ、多くのカートを見て、それぞれの限界を知っていたからこそ、Shopifyの構造が革新的に見えたのである。
現在でも、国内SaaSカートやオープンソース、商用パッケージの世界から初めてShopifyへ入る人は、同じような衝撃を受けると思う。
アプリの多さ、外部サービスとの接続性、APIによる拡張性、グローバルECへの広がり。
初めて触れた人がShopifyに未来を感じるのは、決して間違いではない。
Shopifyの理想と現実のギャップ
Shopifyの魅力をさらに強くしたのが、アプリの価格だった。
2017年前後は現在より円高で、1ドル100円台前半だった。
それまで数十万円、場合によっては数百万円の個別開発が必要だった機能を、月額数千円で試せた。
レビュー、定期購入、レコメンド、商品検索、会員施策、マーケティングオートメーション、物流連携。
世界中のTOP企業が作ったアプリを入れるだけで、高度な機能を追加できる。
すべてを最初から作る必要はなく、必要なものを安価に試し、不要ならやめられる。
このスピードとコストは、非常に魅力的だった。
しかし、安価に試せることと、実際のクライアント案件でそのまま使えることは別だった。
当時の問題を、「海外製だから日本の商習慣に合わなかった」と単純化するのは正確ではない。
もちろん、2017年当時、メルマガ機能がない、ポイント機能がない、マイページの姓名が逆、などなど他のカートならデフォルト機能であるものがない、というかなり致命的な問題も多かったし、配送日時指定、ギフト、のし、決済など、日本独自の要件へ対応しにくい場面は多かった。
しかし、それ以上に大きかったのは、成熟した日本のEC市場へ後発で入ってきたShopifyが、既存カートの仕様を背負った移行案件に直面したことだった。
当時、日本のECカート市場はすでに成熟し、選択肢も飽和していた。
Shopifyに興味を持つ企業の多くは、初めてECを始める企業ではなく、すでに別のカートで何年も運営している企業だった。
クライアントからすれば、基盤はShopifyへ変えたい。しかし、現在の機能や顧客体験、社内運用まで大きく変えたいわけではない。
そのため、相談の多くは、
「現在のECサイトと同じことを、Shopifyでも実現したい」
というものになった。
しかし、ShopifyにはShopifyのデータ構造、画面設計、チェックアウト、運用思想がある。海外製アプリにも、それぞれが想定する標準的な使い方がある。
我々のようにShopifyに初期から参入したパートナー企業も、「開発しようぜ!」、「デフォルトでいこうぜ!」のような派閥というわけではないが、それぞれの企業にスタンスが合った。我々はちょうど中間くらいだったが。
なんにして、他社製の既存カートで作り込まれたUI・UXや業務要件を、そのまま横展開しようとすると、当然合わない部分が出てくる。
機能の8割はアプリで実現できるが、残りの2割を既存サイトと同じ仕様へ合わせようとすると、結局は個別開発になる。
アプリの仕様上変更できないこともある。複数アプリを組み合わせれば実現できても、管理や運用が複雑になる。
さらに当時は、アプリがテーマコードへ直接処理を書き込むことも多かった。
- 新しいアプリを入れたら表示が崩れる。
- JavaScriptやCSSが干渉する。
- 購入導線の一部が動かなくなる。
- アプリを削除してもコードが残る。
- テーマを更新すると、過去のカスタマイズを引き継げない。
「アプリを入れるだけで機能が増える」という説明は間違っていなかった。
しかし実際には、アプリを入れるたびに、何かが壊れないかを確認する必要があった。
本来、プラットフォームを変更するなら、新しい基盤の思想に合わせてUI・UXや業務も見直す必要がある。
しかし移行案件では、既存の体験を維持することが優先される。
その結果、Shopifyの標準を生かすより、Shopifyを以前のカートと同じように動かすための開発が必要になった。
思想は先進的だったが、既存のUI・UXや商習慣、業務要件を引き継ぎながら、それを安定して実現するための製品基盤とエコシステムは、まだ十分に成熟していなかった。
Shopifyは、地味な基盤改善によって理想へ近づいた
その後、Shopifyは何年にもわたり基盤を改善してきた。
1,234件のアップデートを眺めて改めて感じたのは、Shopifyを本当に使いやすくしたのは、派手な新しい購入体験よりも、こうした基盤機能の積み重ねだったということだ。
代表的なのがOnline Store 2.0(Theme2.0の方が良く聞くかもしれない)である。
従来は、トップページ以外のレイアウトを管理画面から柔軟に編集しにくく、ページごとの表現を変えるにはテーマコードを触る必要があった。
Online Store 2.0によって、各ページでセクションを利用できるようになり、管理画面から編集できる範囲が大きく広がった。
Theme App Extensionsも重要だった。
以前のアプリは、テーマコードへ直接ファイルや処理を書き込むことが多かったが、これによって、アプリがテーマへ機能を追加する方法が標準化され、導入や削除が以前より安全になった。この辺りからクライアント企業のインストール済みアプリ数が爆増して、それはそれで問題だったが。。。
MetafieldsとMetaobjectsも実務への影響が大きい。
Metafields自体は2017年当時からあった気がするが、その活用は限定的だった。
現在は、商品、顧客、注文などに独自項目を追加できる。商品以外の構造化コンテンツも、Metaobjectsとして管理できる。
以前なら個別CMSや開発が必要だったことを、Shopifyの標準的な管理画面とデータ構造で扱えるようになった。
Shopify Flowによって、業務自動化も進んだ。
注文、顧客、在庫、アプリ上のイベントを条件に、さまざまな処理をノーコードで無料で実行できるのは大きい。
これも厳密には、自動化のアプリ自体はFlow登場以前からあったが、現在のようにアプリ横断でトリガーとアクションを設定できることなど含め、Shopifyがそのアプリ間でのやり取りにまつわる認証を代替することで理想的な状態になった。
Shopify Marketsは、越境ECを単なる多言語・多通貨対応から一段進めた。
言語、通貨、ドメイン、価格、商品公開などを、市場単位で管理する考え方を持ち込んだ。
我々の事業ドメイン上、Marketsが最もShopifyの独自機能としてお世話になっている機能だが、これも厳密にはMagentoなどで実現出来ていないわけではなかった。(たしか)
ともかく、これらのアップデートは、EC業界を一夜で変えた機能ではない。
しかし、2017年当時にShopifyが描いていた、
- SaaSでありながら柔軟に拡張できる
- アプリを安全に追加できる
- 管理画面から多くの情報を編集できる
- 外部システムと接続できる
- 国内と海外を同じ基盤で管理できる
という理想を、着実に現実へ近づけた。
Shopifyの理想は、一つの革新的な新機能によって実現したのではない。何年にもわたる基盤改善によって、少しずつ現実になった。
この点は素直に評価したい。
一方で、できることが増えた分、Shopifyは明らかに複雑にもなった。
Markets、Flow、Metaobjects、Functions、Extensions、各種アプリ。
概念も設定も増え、現在のShopifyは、単なる「ノーコードで使えるECカート」ではない。
AIの登場によってサイト構築が一瞬で終わる、というのもまだ幻想だ。
日本でも、Shopifyは難しいという印象を持つベンダーが増えている。
一般の事業会社にとっては、なおさらだろう。
しかし、それは必ずしも悪いことではない。
Shopifyは簡単なカートから、高度なコマース基盤へ進化した。
できることが増えた結果、設計や運用に専門性が必要になったのである。
Shopifyはエコシステムの拡大に大成功した企業
Shopifyを語るとき、本体機能だけを見ても全体像は分からない。
2017年以降、Shopifyでは大量の「○○連携」が発表された。
- YouTube、TikTok、Google、Facebook、Instagram
- Amazonなどのマーケットプレイス
- OMS、WMSや物流システム
- 決済、MA、CRM、レビュー、サブスクリプション
これらは、Shopify単体の機能が向上した例とは少し違う。
ShopifyがAPIやアプリ基盤を用意し、外部企業が自社サービスを接続したり、我々のようなパートナーがコネクタを開発したことで実現したものだ。
Shopifyは、すべてを自社で開発するカートとして強くなったのではない。
世界中の優れたサービスを接続できるプラットフォームとして強くなった。
Shopifyは、開発会社、SaaS企業、物流会社、決済会社、マーケティング企業を自社のエコシステムへ巻き込んだ。
その結果、本体の開発速度を超える勢いで、Shopify上で利用できる機能が増えていった。
これは非常に大きな競争優位だった。
一方で、エコシステムには不安定さもある。
- Amazon Payとの関係が変わり、以前と同じように使えなくなる。
- Mailchimpとの連携が不便になる。
- SNS側の方針変更で、販売チャネルが終了する。
- アプリ提供会社が撤退し、利用していた機能が使えなくなる。
パートナーシップは最大の強みである一方、Shopifyだけでは制御できないリスクも持っている。
それでも、この仕組みがShopifyの成長を大きく支えたことは間違いない。
1,234件の履歴から、Shopifyが最も力を入れてきたものが見える
Shopifyのアップデートや新機能はその当時の事業戦略を如実に投影している。しかしながら、その中には一貫している部分もあった。
一覧をジャンル別に見ると、APIや開発者向け基盤に関するアップデートが非常に多い。
Admin API、Storefront API、GraphQL、Webhooks、App Extensions、Checkout Extensions、Functions、CLI、App Bridge、Polaris。
共通しているのは、Shopifyの外部からShopifyを拡張するための仕組みである。
ここから見えてくるのは、Shopifyが最も力を入れてきたのは、特定の新しい購入体験ではなく、外部企業がShopify上で機能を作れる基盤だったのではないかということだ。
エコシステムが成長するには、開発者が安全かつ効率的に機能を作れなければならない。
- APIが不十分なら、優れたサービスは接続できない。
- 拡張方法が不安定なら、アプリを入れるたびにストアが壊れる。
- 権限やデータモデルが整理されていなければ、大規模な事業者は安心して導入できない。
Shopifyは、APIや拡張基盤を更新し続けることで、世界中の企業にShopify対応を促してきた。
その結果、他のECカートが単独では追いつきにくい機能範囲を作り上げた。
ただし、追いかける側は大変である。
近年のDeveloper Changelogは年間数百件規模になっている。
私のRSSリーダーもちょっとみてないとすぐに+99の更新になってゲンナリする。
Shopifyだけでも、毎週のようにAPI、テーマ、チェックアウト、POS、アプリ開発の変更が発表される。
さらにデバイス、インフラ、プログラミング言語、各種ライブラリ、ブラウザ、決済、物流、接続先システムの更新もある。
すべてを記憶し、すべてへ追従することは現実的ではない。
必要なのは、自社やクライアントへ影響する変更と、無視してよい変更を見分ける仕組みであるが、何も問題が起きなければ、その仕事は外から見えない。
新機能を作れば成果になる。
しかし、数百件の変更を監視し、事故が起きないように対応しても、顧客からは「何も起きていない」ように見えるが、1つ何か問題が起きると一事が万事だったりする。
実際には、何も起きていないのは、誰かが裏側で追従しているからなのだが。
Shopifyは「移行できない理由」を少しずつ潰してきた
Shopifyの新機能には、他社カートからの移行を促す役割もあった。
移行を促した2種類の機能
- 移行作業そのものを支援する機能。Transporter、Store Importer、各種データインポート、B2Bの移行ツール、旧テーマや旧APIからの移行支援、他プラットフォームからの移行ガイド。
- Shopifyを選べなかった理由を解消する機能。国内決済、ギフトカード、複数拠点在庫、B2B、サブスクリプション、バンドル、返品・交換、高バリエーション対応、複数法人、ローカル決済、日本語管理画面。
Shopifyが「他社から顧客を奪うため」と明言しているわけではない。
しかし、この機能がないためにShopifyへ移行できなかった企業を、移行可能にした機能と捉えることはできる。
Shopifyの成長は、未来的な機能を作った結果だけではない。
企業がShopifyを選べない理由を、一つずつ潰してきた結果でもある。
2017年当時なら、Shopifyでは対応できず、他のカートやパッケージを選ばざるを得なかった要件も多かった。
現在では、標準機能やアプリで対応できる範囲が大きく広がっている。
Shopifyは新しい市場を作りながら、既存市場から移行できる企業の範囲を広げてきたのである。
Shopifyの革新は、世界初の発明ではない
UCPは明らかに業界の先駆者としてのムーヴである。Tiktok連携も、Youtube連携も、Instagram連携も、それぞれいの一番にShopifyは対応してきた。エコシステムを活用したShopifyのお家芸は間違いなく世界一だろう。
しかし、今回考えたかったことは、Shopifyが世界初と言えるような革新的な顧客またはユーザー機能は何だったのか、ということだった。
ただ、「世界初」を証明するのは難しい。
業務自動化、構造化コンテンツ、多言語、多通貨、ヘッドレスコマース。
こうした考え方は、Shopify以前から存在していた。
そのため、Shopifyの革新性は、単純に世界初だったかどうかでは測れない。
たとえばShopify Flowは、業務自動化を発明したわけではない。
しかし、注文、顧客、在庫、アプリなど、EC上のイベントをノーコードで接続する仕組みを、広い加盟店層へ提供した。
Shopify Marketsも、多言語や多通貨を発明したわけではない。
しかし、言語、価格、ドメイン、商品公開などを「市場」という単位で管理する考え方を、一般的なEC事業者が使える形へ落とし込んだ。
Metaobjectsも、構造化コンテンツ自体は新しくない。
しかし、それをECの管理画面、商品、テーマ、アプリと自然につながる標準機能にした。
Shopifyの本当の革新は、以前は一部の大企業や高度な開発体制を持つ企業しか使えなかった仕組みを、一般的なEC事業者でも使える標準機能へ落とし込んだことにあるのではないかと思う。(あとはブランディングが上手すぎること笑)
これは発明というより、民主化や標準化に近い。
しかし、実務への影響を考えれば、世界初であること以上に価値がある場合もある。
発表された未来の多くは、日本の実務には定着しなかった
もちろん、発表されたすべての機能が普及したわけではない。
過去の一覧には、当時界隈で大きく話題になったものの、現在の日本のShopify案件ではほとんど使わない機能も多い。
- 3DやAR
- NFTやTokengated Commerce
- ゲーム内コマース
- 一部のSNS販売チャネル
HydrogenやOxygenも重要な開発基盤ではあるが、一般的な構築案件へ広く普及したかといえば、現時点では限定的だ。
これらを一括して失敗と呼ぶのは適切ではない。
一部の企業や業界では有効なものもある。
市場自体が育たなかったもの、制作や運用コストが高かったもの、Shopify自身の戦略が変わったものもある。
さらに、日本で提供されなかった機能も多い。
- Shopify Balance、Capital、Creditなどの金融サービス
- フルフィルメント関連の取り組み
- 北米中心のPOSやShop関連機能
グローバルで発表される「Shopifyでできること」と、日本の事業者が実際に使えることには、かなりの差があった。
2017年当時の私は、Shopifyが発表したものはいずれ日本にも来て、世界中で一般的になるのだろうと比較的素直に考えていた。(って言われてたし笑)
今は、過去の実績を踏まえて、発表と定着を分けて考えるようになったのだと思う。
企業の立ち位置的に最新機能に関しての発信をたまにはするが、我々の方針は目の前のクライアントの課題が解決されるかどうかがプライオリティだ。
Sidekickが無いと無理になりつつある
最近の機能でパートナー企業内でも評価が別れるのがSidekickである。
- 回答精度や文章の質では、現時点でChatGPTやClaudeの方が優れていると感じる。
- 対応できるタスクも、まだそれほど多くない。
- 分析もドリルダウン的なことはほとんど出来なかったりする。
- アプリを横断して操作する場面も、現状では限定的である。
そのためこの記事を書いてる時点でも、Sidekickが、他社カートからShopifyへ移行するほどの理由になり得る機能ではないと考えていた。
実際、ShopifyはAIに強いですよ、というふれこみで移行するという企業は、まだそれほど多くないだろう。
しかし先日、スタッフと話していて、少し評価が変わった。
「今からShopify以外のカートのコンサルを依頼されても、Sidekickがないので調査が面倒で、あまり受けたくない」
という点で意見が一致したのである。
Sidekickの回答が、常に高精度なわけではない。
しかし、対象ストアの状態を前提に質問できる。
設定場所を説明してくれる。
データを探す初動を短縮できる。
ChatGPTやClaudeの方が賢くても、対象カートの管理画面やデータへ接続するには、こちらから情報を渡す必要がある。
Sidekickは、頭脳として最も優秀ではなくても、最初から対象ストアを見る目と、管理画面を触る手と、入館証を持っている。
この差は非常に大きい。
Sidekickは、新規移行を促すキラー機能ではないかもしれない。
しかし、一度Shopifyを使った人が、他の環境へ戻ることを面倒に感じる機能にはなり始めている。
使う前には魅力が伝わりにくい。
しかし一度使うと、ない環境が不便に感じる。
Shopifyにとっては、こうした機能の方が強いロックインを生むのかもしれない。
おわりに|9年間見てきた今も、私はShopifyが一番だと思っている
2017年からのアップデートを並べると、Shopifyが発表してきた未来のすべてが実現したわけではないことが分かる。
今回のUCPやCatalog APIがどの程度定着して、重要な位置付けになるか、クライアントにどのようにソリューションとして提供するのかはまだイメージが湧きにくい。
しかし、Shopifyに期待しなくなったわけではない。
9年間付き合ったことで、発表された構想と、実際に定着する機能を分けて見られるようになっただけである。
DotDev 2026についても、発表内容だけを見れば、私はやや冷静な感想を持っている。
では、行きたくなかったのかと聞かれれば、話は別だ。
普通に行きたかった!参加した皆さんが羨ましい!
現地でしか聞けない話もあるだろうし、Shopifyの人たちや世界中のパートナーが集まる空気にも久しぶりに触れたかった。
多くのECカートを見て、実際の構築や運用を経験してきた上で、私は今もShopifyが一番だと思っている。
完璧だからではない。
問題の数まで含めて比較しても、なお一番だと思っている。
今回、1,234件のアップデートを振り返り、Sidekickがいつ発表されたかすら曖昧だったことも分かった。
だから、DotDevで発表された機能についても、今すぐ結論を出すつもりはない。
数年後、どの機能が実務に残っているのか。
また忘れた頃に、1,000件ほどExcelへ並べて振り返ればよい。
その頃もおそらく私は、Shopifyに多少文句を言いながら、Shopifyの仕事をしている。
関連コラム:食品の消費税が1%になったら、Shopifyでは何が起きるか(本記事で触れた「クライアントへ影響する変更を見分けて追従する」仕事を、実際の制度変更を題材に具体化したコラム)



