ブランドらしい顧客体験は、ブランドらしさから考えてよいのか|花の咲き具合で入園料を決める、あしかがフラワーパークから考えたこと – 株式会社飛躍 | Premier Partners

無料セミナー開催中!詳細はこちら

ALL CLOSE

COLUMN

ブランドらしい顧客体験は、ブランドらしさから考えてよいのか|花の咲き具合で入園料を決める、あしかがフラワーパークから考えたこと

ここ2年ほど、ECサイトの中だけではなく、店舗、接客、予約、来店前後のコミュニケーション、購入後の体験まで含めて、ビジネス全体の顧客体験を考える機会が増えた。

ECサイトを使いやすくすることは、もちろん重要である。

しかし、顧客から見れば、ECサイトだけが独立して存在しているわけではない。商品を知り、購入を検討し、店舗を訪れ、接客を受け、商品を受け取り、その後も企業からさまざまな連絡を受ける。

その一連の体験を、どうつなげていくのか。

そのブランドらしい顧客体験とは、どのようなものなのか。

そんな中で、たまたま耳にしたのが、あしかがフラワーパークの料金制度だった。

花の咲き具合を見て、その日の入園料を決めるという。

自然物の鑑賞価値に、毎朝値段を付ける。

価格戦略として、自然を愛するものとして、かなり面白い。

最初は単純に、どのような仕組みで料金を決めているのかを知りたいと思った。しかし、詳しく調べていくうちに、価格制度そのものよりも、私が最近考えていた「ブランドらしい顧客体験」という問いの立て方について、少し不安になってきた。

もしかすると、解くべき問いを間違えているのではないか。

今回は、そんな話をしたい。

あしかがフラワーパークは、毎朝その日の庭園に値段を付ける

あしかがフラワーパークでは、季節ごとに入園料の価格幅を設定し、花の咲き具合によって当日の料金を変えている。

2026年の場合、藤の季節を含む4月から5月の大人料金は900円から2,300円。7月から12月の昼間は400円から800円と、季節によって価格帯そのものが大きく異なる。料金は当日の早朝に決定される。

公開されている運営会社社長へのインタビューによると、毎朝開園前に園内を回り、花の咲き具合と園全体のコンディションを確認し、その状況に見合う料金を設定しているという。単純に「藤が何分咲きだから何円」という表へ機械的に当てはめるのではなく、その日の園全体を見た総合的な判断と考えた方が近そうだ。

この制度は、ホテルや航空券でよく見るダイナミックプライシングとは少し性格が違う。

一般的なダイナミックプライシングは、予約数、残席、曜日、需要予測などを基に価格を動かす。

需要が高ければ高くなり、需要が低ければ安くなる。

一方、あしかがフラワーパークが対外的に説明している主な判断軸は、その日に来園者へ提供できる価値である。運営会社の早川公一郎社長も、需要ではなく、来園者が感じる価値に見合った価格への納得感を重視していると説明している。

つまり、人気だから高くするのではなく、その日に提供できる鑑賞価値が違うから価格を変える。

需要連動型というより、品質・提供価値連動型の価格設定と呼んだ方が近い。

満開の日に高くするより、咲いていない日に安くする

この制度を「花が満開なら高く取れる仕組み」として見ると、少し本質を外すと思う。

もちろん、見頃を迎えた藤に高い料金を設定できることには経済的な意味がある。

しかし、より興味深いのは、花が十分に咲いていない日に、同じ金額を取らないことである。

自然物は、工場で製造される商品とは違う。

広告や公式サイトで満開の藤を見て訪れたとしても、実際にはまだ咲き始めかもしれない。天候によって開花時期はずれ、同じ日付でも毎年同じ景色になるとは限らない。

それでも毎年、毎日、同じ入園料を取れば、顧客が期待した価値と、実際に提供された価値の間にズレが生まれる。

価格を下げることによって、「今日は満開のときと同じ状態ではありません」という情報を、入園前に顧客へ伝えることができる。

価格は売上を決める数字であると同時に、顧客の期待値を調整する情報にもなる。

運営側の公開説明では、こうした料金設定は、来園したその日が顧客にとってすべてであるという考えに基づき、納得感と満足度を高めるためのものとされている。

低価格にすることは、必ずしも安売りではない。

提供できる価値に対する、企業側の自己査定でもある。

もちろん、まじレスするなら、花が満開でもテーマパークである以上あり得ない人混みで満足度が下がるとか、雨でも花が綺麗な日があるよね、とかは考慮するべきかもしれないが、少なくとも企業の姿勢をPRするという点においては非常に良いムーブだ。

前売券では、自然変動のリスクを誰が負うのか

もう一つ面白いのが、前売券の扱いである。

現在販売されている電子チケットでは、購入時の価格と、オンライン上の最終販売価格との間に差額が生じた場合、対象となる予約について返金対応を行うと案内されている。

つまり、前売券を購入した後に花の状態などを踏まえて販売価格が下がった場合、購入者が高い価格のまま取り残されるわけではない。

一方、現在公開されている販売条件には、購入後に料金が上がった場合に追加料金を徴収するという記載は見当たらない。

顧客から見ると、

  • 花の状態がよくなり、価格が上がれば、購入時の価格で入園できる。
  • 期待したほど咲かず、最終販売価格が下がれば、条件に従って差額が返金される。

単なる前売割引というより、自然物の状態が確定する前に購入する顧客に対して、価格面で一定の保護を設けているように見える。

運営側は早期予約を受け付けられる。その代わり、提供価値が購入時の想定を下回った場合の価格リスクを、顧客だけに負わせない。

なかなかよくできた仕組みである。

少し横にそれてしまうが、別の記事で取り扱った覚えのある、品質か顧客満足かのような話に接続するなら、品質については企業努力である程度コントロールできるが、品質が高い=顧客が満足するというよりは、品質×価格の納得感=顧客満足のようなことを考えていたので、さぞかし顧客満足も高かろうと想像した。

素晴らしい事例ほど、横展開したくなる

ここまで聞くと、素晴らしい取り組みだと思う。

提供できる価値によって料金を変える。

価値が十分でなければ安くする。

前売客についても、状態が悪かった場合の価格リスクを軽減する。

価格を通じて、顧客との関係に誠実であろうとしているように見える。

こういう事例を知ると、実務家としては、すぐにそのエッセンスを抽象化して、自分の手元にある課題へ横展開したくなる。

  • 価値が日によって変動するサービスに応用できないか。
  • 品質が確定する前に予約を受け付ける商品にも使えないか。
  • ECや店舗の価格設計へ、この思想を持ち込めないか。
  • 国内店舗で買う時と、越境ECで購入する際の価格差の説明に持ち込めないか。

そして、「自分たちのブランドは顧客に誠実でありたい。だから、価値に応じて価格を変えよう」と考えたくなる。

成功事例を見つけて、抽象化し、別の事業へ応用する。コンサルタントが好みそうな作業である。

しかし、少し冷静になると、たくさんの「はてな」が浮かぶだろう。

それで、売上や新規顧客、リテンションにはどれくらい効いたのか

制度が面白いことと、経営成果に効いたことは同じではない。

この話を読んだ、せっかちな経営者や事業責任者であれば、おそらくこう聞く。

  • それで、売上はいくら増えたのか。
  • 新規顧客はどれくらい増えたのか。
  • 低価格日に来園者は増えたのか。
  • リピーター率は上がったのか。
  • 顧客満足度や口コミは改善したのか。
  • 前売券の購入率やキャンセル率には、どれくらい影響したのか。

当然の疑問である。ブランドについて考え、そういうサービスを提供しているとはいえ、私の専門はマーケティング戦略だ。数字が欲しくなる。

あしかがフラワーパーク全体としては、大きな成長を遂げている。

塚本こなみ氏が園長に就任した後、1年で黒字化し、その後、来場者数を5倍に増やしたと紹介されている。

塚本氏自身も、開花状況や天候、園全体のコンディションを考慮した料金制度を導入した結果、入園者数とリピーター数が大きく増えたと振り返っている。

現在も年間来園者数は約130万人で、コロナ禍前のピーク時には165万人に達していたとされる。

十分に説得力があるように見えるが、同園では料金制度だけを変更したわけではない。

藤を中心とした庭園の品質向上、広告やPR、季節ごとの植栽、イルミネーション、飲食、物販、園内演出など、さまざまな改革を同時に行っている。

そもそも藤そのものも成長している。

料金制度だけを切り出して、「この制度によって売上が何%伸びた」「この制度によってリテンションが何ポイント改善した」と測定することは、公開されている資料からはできない。

おそらく、当事者が詳細なデータを持っていたとしても、厳密に切り分けるのは難しいだろう。

現実の経営は、施策ごとにきれいな境界線を引いてくれない。

なので、これは私の若かりし時の教訓でもあるが、是非テイクアウェイとしてお持ち帰りいただきたいのだが、単体で効果を証明できない成功事例を、いったい何のために横展開しようとしているのか。

これは、成功事例を学ぶことを否定していない。

しかし成功事例から結局何を学ぶのか?という問いである。

成功事例を見て、解くべき問いを間違えていないか

あしかがフラワーパークの料金制度からは、顧客に対する誠実さを感じる。

花が十分に咲いていなければ安くする。

購入後に価格が下がれば、前売客にも差額を返す。

そのため、つい、「あしかがフラワーパークは、誠実なブランドを表現するために、この制度をつくった」と説明したくなる。

しかし、私は運営の当事者ではないし、あしかがフラワーパークも弊社のクライアントではない。

公開情報を読んだだけで、制度をつくった人たちの動機や、当時の議論まで断定することはできない。

確認できるのは、以前は年間を通じて一律だった入園料が見直され、開花状況や天候、園全体のコンディションを考慮する料金体系が明確になったことまでである。

そこから私なりに読み取れるのは、提供できる鑑賞価値と価格の間にある不一致を解こうとした結果として、顧客に誠実な制度に見えているのではないか、ということだ。

だとすれば、順番が重要である。

顧客体験を考える順番

  1. まず、顧客と企業の間にある不合理を見つける。
  2. その不合理を解く方法として、価格を変えることが適切なのかを考える。
  3. その解き方を続ける中で、企業の思想やブランドらしさが表れてくる。

「誠実なブランドらしい価格制度をつくろう」から始めるのではない。

この順番を逆にすると、危ないと思っている。

  • ブランドの誠実さを表現したいから、返金制度をつくる。
  • 革新的なブランドに見せたいから、新しい技術を導入する。
  • 上質なブランドだから、接客を手厚くする。
  • 環境に配慮したブランドだから、エコな包装にする。
  • 他社が翌日配送をしているから弊社でもそれを導入する。

どれも、それらしい施策ではある。

しかし、そこに顧客が実際に困っている問題がなければ、顧客体験の改善ではなく、企業側の自己表現で終わってしまう。

問題が価格ではなく、価値が伝わっていないことなら、必要なのは値下げではなく説明の改善かもしれない。

問題が予約の不便なら、価格ではなく予約方法を変えるべきかもしれない。

品質にばらつきがあるなら、先に品質を標準化するべきかもしれない。

成功事例の目立つ仕組みを先に持ってくると、企業はその仕組みで解けそうな問題を後から探し始める。

それがハマらないケースがないとは言わないし、世の中的にはそういったアプローチが賞賛されるという罠がある。

事例から学ぶのは考える労力や行為を大幅に削減してくれる一方で、解くべき問いを間違える危険性を多いに孕んでいるのである。

ブランドらしい顧客体験は、ブランドらしさから考え始めてよいのか

ブランディングプロジェクトでは当然、

  • このブランドらしい店舗体験とは何か。
  • このブランドらしい接客とは何か。
  • このブランドらしい購入後体験とは何か。
  • そのブランドが持つ誠実さや上質さを、どう体験として表現するのか。

といった話が出てくる。

そうした問い自体は重要だ。

ブランドの思想を店舗やEC、接客へ落とし込み、一貫した体験をつくる。ブランディングの文脈として正しい。

しかしある時から、その問いから始めてよいのか、少し疑問を持つようになった。

最初に、「私たちらしい体験とは何か」を問うのではなく、その前に、

  • 「顧客は今、何に困っているのか」
  • 「顧客と企業の間に、どのような不合理が残っているのか」
  • 「提供価値と価格、期待、手間の間に、どのようなズレがあるのか」

を問うべきではないか。

そして、その不合理を解く方法を考える。

どの問題を選び、どのような方法で解くのか。

そこに自分たちの価値観が表れる。

その解き方を繰り返した結果として、顧客から見たブランドらしさが形成されていく。

ブランドらしさは、施策を考えるための形容詞ではない。問題の選び方と、解き方に表れる。

売上が伸びていると、顧客の不合理は見えなくなる

さらに難しいのは、顧客体験に残る不合理が、業績が悪いときよりも、売上が伸びているときの方が見つけにくいことである。

売上が伸び、新規顧客が増えている。

その数字を見ると、現在の顧客体験は支持されているように感じる。

しかし、本当にそうだろうか。

商品自体の人気が高まっているだけかもしれない。

市場全体が伸びているのかもしれない。

広告投資を増やしたことで、新規顧客が大量に流入しているだけかもしれない。

既存顧客が少しずつ離れていても、それ以上の新規顧客が入ってくれば、全体の売上は伸びる。

  • 初めて訪れた顧客が、少し使いにくいと感じている。
  • 常連客が、毎回同じ手間を感じている。
  • 期待していた価値と、実際に受け取った価値が、わずかにずれている。

しかし、多くの顧客は、その程度では苦情を言わない。

レビューにもアンケートにも書かない。

静かに利用頻度を減らすか、次から別の店を選ぶだけである。

新規顧客が次々と入ってくる間、その離反は売上の数字に埋もれる。

好調なときほど注意したいこと

  • 売上が伸びていることは、顧客体験が正しいことの証明ではない。
  • むしろ、顧客体験に残る不合理を隠すことがある。

業績が悪ければ、企業は必死に原因を探す。

購入率が低い。離反が増えた。来店者が減った。何かが間違っていることは明らかである。

一方、業績が良ければ、明確に解くべき問題が見つからない。

すると企業は、「もっとブランドらしい体験をつくろう」「新しい体験を追加しよう」「先進的な技術を導入しよう」と考え始める。

顧客が困っている問題ではなく、自分たちが表現したいブランド像から施策を発明しやすくなる。

だから、事業が好調なときほど、解くべき問いを間違えやすい。

おわりに|この事例から持ち帰ったのは、制度ではなく問いだった

あしかがフラワーパークの事例から、私が持ち帰ったのは、変動料金制という答えではない。

「価値が変われば価格も変えるべきだ」という単純な教訓でもない。

誠実なブランドは、差額を返金するべきだという話でもない。

この事例を自分の手元にある課題へ応用しようとしたことで、むしろ、「自分が考えている顧客体験は、本当に顧客の不合理を解いているのか」「それとも、ブランドらしさを表現したいだけなのか」と考えることになった。

顧客体験を考えるとき、私たちはすぐに、どのような体験をつくるかを考える。

何を追加するか。

どんな機能を導入するか。

どうすればブランドらしく見えるか。

しかし、その前に問うべきなのは、今の体験の中で、顧客は何を不合理だと感じているのか、なのかもしれない。

そして、売上が伸び、新規顧客が増えているときほど、その不合理は意識的に探さなければ見つからない。

あしかがフラワーパークの価格制度は、私に答えをくれたわけではない。

自分たちが今、解こうとしている問いは本当に正しいのか。

そう聞き返してくる事例だった。

関連コラム:ブランド戦略は、どう実装されるのか|Brand Implementationから考える顧客体験とEC運用(ブランドの思想を体験へ落とし込む側から書いた回で、本記事はその出発点を問い直しています)

Contact

ECの構築・運用、プロと一緒に見直しませんか?

Shopify premier パートナーの飛躍が、ECサイトの構築から運用・グロースまで一気通貫でご支援します。まずはお気軽にご相談ください。