CRMやMAツールを導入したものの、思ったほど成果が出ない。
ECの現場では、こうした話をよく聞きます。
よくあるCRM導入の流れ
- カゴ落ちメールを設定した。
- 購入後フォローを設定した。
- 誕生日メールを設定した。
- 休眠顧客向けの配信も行った。
しかし、しばらくすると運用が止まり、結局は一斉配信が中心になる。
その結果、CRMは思ったほど売上に貢献していない、ROIが合わない、運用が大変な割に成果が見えにくい、という評価になってしまう。
もちろん、開封率、クリック率、メール経由売上、配信ごとのROIは大切です。
ただし、CRMをそれだけで評価すると、本来の価値を見誤るのではないかと思っています。
CRMは、1通のメールでいくら売れたかを見るための短期施策ではありません。
本来は、顧客との関係性を積み上げ、3年後・5年後の売上構造そのものを変えるための投資です。
現場でCRMは、ほとんどMAツールとして使われている
CRMは、Customer Relationship Managementの略です。
言葉の通り、本来は顧客との関係性を管理し、育てていく考え方です。
しかし、ECの現場では、CRMという言葉が実質的にMAツールやメール配信ツールを指していることが多いように感じます。
- カゴ落ちメール。
- 購入後ステップメール。
- 誕生日メール。
- 休眠復活メール。
- 一斉配信。
- LINE配信。
もちろん、これらは重要な施策です。
しかし、CRMをこうした配信施策の集合体として捉えてしまうと、議論はどうしても「どんなメールを書くか」「どんなシナリオを設定するか」に寄っていきます。
本来考えるべきなのは、その前段にあるはずです。
- どの顧客と、どんな関係性を築きたいのか。
- 初回購入した顧客に、次にどんな体験をしてほしいのか。
- リピート顧客に、ブランドをどう記憶してほしいのか。
- メール、広告、LINE、店舗、コンテンツを通じて、どのようなコミュニケーションを積み上げたいのか。
CRMの本質は、メールを自動で送ることではありません。
顧客との関係性をどう設計するかです。
多くのCRM運用は、鉄板シナリオを入れて止まる
MAツールを導入すると、多くの企業はまず鉄板シナリオを設定します。
- カゴ落ち。
- 誕生日。
- 休眠顧客向け配信。
- 初回購入後のステップメール。
このあたりは、多くのツールやベンダーが推奨している基本施策です。
もちろん、最初にこれらを設定すること自体は間違っていません。
問題は、その後です。
本来のCRMは、顧客の状態や関係性に応じて、継続的にコミュニケーションを改善していく必要があります。
しかし、実際にはそこまで運用しきれないケースが多い。
1to1マーケティングをやろうとすると、セグメント設計、文面作成、商品選定、配信設定、効果検証、改善案の作成など、非常に多くの作業が発生します。
しかも、メール配信だけのために専任の正社員を置けるEC事業者は限られています。
その結果、最初にいくつかのシナリオを設定した後は、日々の売上作りのために一斉配信のセリングメールが中心になっていく。
これは担当者の能力の問題ではありません。
CRMを継続運用できる目的、体制、設計がないままツールだけを導入してしまうことが問題なのです。
CRMを短期ROIで見ると、ほぼ判断を間違える
CRMが難しいのは、短期的な成果だけを見ると、その価値が見えにくいことです。
- メール1通あたりの売上。
- 開封率。
- クリック率。
- 配信ごとのROI。
- カゴ落ちメールの売上。
- 休眠復活メールの売上。
こうした数字はもちろん大切です。
ただし、CRMの価値をこれだけで判断すると、どうしても短期施策として評価してしまいます。
広告であれば、費用をかけて新規顧客を獲得し、その場で売上を作ることができます。
一方、CRMはすでに接点を持った顧客との関係性を深め、次回購入、継続購入、ファン化、紹介、ギフト利用などにつなげていく活動です。
また、ECの売上にはほとんどのケースで波動があります。自社の勝負の月に、想起してもらうためには、ちょうど良い距離感で関係を継続している必要があったりします。そのためには短期の売上につながらなくても、お役立ち情報を配信したりして顧客との接点を持ち続ける方が有利になります。
つまり、CRMの本来の価値は、短期的な売上だけではなく、顧客との関係値という資産を積み上げることにあります。
- 初回購入者を2回目購入につなげる。
- 2回目購入者を定着顧客にする。
- 定着顧客をファンにする。
- ファンを紹介やギフトにつなげる。
- 顧客理解を商品、ブランド、接客、広告に反映する。
これは1ヶ月では見えにくい。
しかし、3年単位で見ると、新規獲得に依存した売上構造から、リピート売上が積み上がる売上構造へ変わっていきます。
CRMを短期ROIだけで評価すると、この変化が見えません。
CRMの成果は、売上の“傾き”に出る
新規獲得だけに依存しているECは、売上が広告費や集客量に比例しやすくなります。
広告を増やせば売上が増える。
広告を止めれば売上が落ちる。
この構造では、売上を伸ばすために常に新規顧客を獲得し続けなければなりません。
もちろん、新規獲得は重要です。
ただし、新規獲得だけに依存していると、広告費の高騰や競争環境の変化に大きく影響されます。
一方、CRMが機能しているECでは、毎年獲得した顧客の一部が、翌年以降のリピート売上として積み上がっていきます。
- 今年獲得した顧客が、来年も買う。
- 来年獲得した顧客が、再来年も買う。
- 一定の顧客が継続的に購入し、ブランドとの関係性を深めていく。
そうなると、売上は新規獲得に対して単純な正比例ではなくなります。
新規売上に、過去に獲得した顧客のリピート売上が積み上がるからです。
CRMの成果は、メール1通の売上だけではなく、売上曲線の傾きに出ます。
3年後、5年後に、同じ新規獲得費用でも売上の伸び方が変わっているか。
ここがCRMの本当の評価ポイントだと思います。
メールだけで考えると、CRMのポテンシャルの一部しか使えない
CRMをメール配信として捉えると、どうしても「どんなメールを書くか」に議論が寄ります。
しかし、本来考えるべきことはそれだけではありません。
例えば、メールで購入する顧客には、メールで商品案内を送り続けてよいと思います。
メールを読んで、商品を理解し、購入する。
そういう顧客に対しては、メールは非常に有効なチャネルです。
一方で、初回購入が広告経由だった顧客にメールを送っても、なかなかリピートが起きない場合もあります。
その場合、もう一度広告で追いかけた方が自然なこともあります。
- LINEが効く顧客もいる。
- 店舗接点が効く顧客もいる。
- ギフト需要で動く顧客もいる。
- お役立ちコンテンツで関係性が深まる顧客もいる。
- セール案内で動く顧客もいれば、ブランドの世界観に触れて初めて動く顧客もいる。
つまり、本来考えるべきなのは、
「メールに何を書くか」
だけではありません。
最近の高機能なツールは、配信のタイミングも考えて配信してくれたりしますが、私はそれだけではまだ不十分だと思っています。
この顧客には、どのチャネルで、どんな文脈で接するのが自然なのか。
ここまで考えて初めて、CRMのポテンシャルを引き出せます。
メール単体で考えてしまうと、CRMの可能性の一部しか使えません。
CRMはメール配信の話ではなく、顧客ごとに最適なコミュニケーション手段を選ぶ設計なのです。
もちろんメールだけでも運用負荷はそれなりにあるので、始めからいきなりGoogle広告などとセグメントを連携させましょうとは提案しませんが、そういったことを見据えつつ取り組む必要があるし、CRMのポテンシャルが過小評価されてしまっていると私は感じています。
CRMが回らない本当の理由は、チャネルごとの組織分断にある
多くのECチームでは、チャネルごとに担当が分かれています。
- メールを書く担当者がいる。
- 広告運用は外部代理店に委託している。
- サイト改善は制作会社に依頼している。
- CRMツールは別のベンダーが入っている。
- 店舗は店舗で別のオペレーションを持っている。
この体制自体は珍しいものではありません。
むしろ、多くの企業で自然にそうなっていると思います。
ただし、この体制では、各担当者が自分のチャネルで成果を出そうとします。
- メール担当は開封率やクリック率を見る。
- 広告代理店はROASを見る。
- EC担当は売上を見る。
- 制作会社はCVRを見る。
- 店舗は現場オペレーションを見る。
それぞれは間違っていません。
しかし、顧客から見ると、メールも広告もLINEも店舗も、すべて一つのブランド体験です。
- メールでは値引きを訴求している。
- 広告ではブランドイメージを訴求している。
- 店舗では別の接客方針になっている。
- サイトではまた違うメッセージが出ている。
このように接点ごとの考え方がバラバラになると、顧客との関係性は積み上がりません。
CRMが回らない本当の理由は、ツールや運用負荷の問題だけではありません。
チャネルごとに分断された組織や外部パートナーを、顧客中心にマネジメントできていないことにあります。
CRMを組織横断で進めるには、経営が大義名分を作る必要がある
CRMを本気で機能させようとすると、必ず組織横断のプロジェクトになります。
メールだけでなく、広告、SNS、ECサイト、商品企画、ブランド、外部パートナーまで関わります。
しかし、組織横断プロジェクトを経験している人は、実際には多くありません。
だからこそ、CRMを担当者任せにしてはダメで、担当者のコミュニケーションコストを最小限にする御膳立てが必要になります。
経営者が、
「これは単なるメール改善ではない」
「顧客との関係性を作り、3年後の売上構造を変えるプロジェクトである」
という大義名分を作り、担当者や外部パートナーが同じ方向を向いて動ける地盤を作らなければなりません。
CRMを本来の意味で進めるには、各チャネルの改善だけでは足りません。
経営が目的を示し、部門を横断できる状態を作り、短期売上と長期的な顧客関係のバランスを取れるようにする必要があります。
ここがないままCRMを進めると、現場はどうしてもメール施策の改善に閉じてしまいます。
CRMの前に、自社らしさと顧客体験を言語化する必要がある
組織横断でCRMを進めるには、もう一つ重要な前提があります。
それは、自社らしさや提供したい顧客体験が言語化されていることです。
CRMでは、メール、広告、LINE、店舗、コンテンツなど、複数の接点を通じて顧客と関係性を作っていきます。
しかし、その前提として、
- 自社は顧客に何を提供したいのか。
- どんなブランド体験を届けたいのか。
- 顧客にどう記憶されたいのか。
- どのような距離感でコミュニケーションしたいのか。
- 売り込みと関係構築のバランスをどう考えるのか。
- 何が自社らしいコミュニケーションなのか。
これらが言語化されていなければ、各担当者や外部パートナーは判断できません。
同じセール案内でも、ブランドによって言い方は変わります。
同じ購入後フォローでも、伝えるべき内容は変わります。
同じ休眠顧客への接触でも、値引きで戻すのか、コンテンツで思い出してもらうのか、体験価値を再提示するのかは変わります。
CRMの設計には、ブランドの本質的価値や提供したい顧客体験の言語化が必要です。
これがないと、メール担当はメールの正解を探し、広告代理店は広告の正解を探し、制作会社はサイト改善の正解を探します。
それぞれの正解はあっても、ブランド全体としての一貫性は生まれません。
CRMとは、顧客との関係性を積み上げる活動です。
その関係性の土台になるのは、自社がどんな価値を提供し、どんな顧客体験を届けたいのかという考え方です。
CRMに必要なのは、シナリオではなくコミュニケーション設計である
CRMというと、どうしても配信シナリオを増やそうとしがちです。
しかし、シナリオが多ければよいわけではありません。
本当に必要なのは、顧客とのコミュニケーション設計です。
- どんな顧客を増やしたいのか。
- 初回購入後にどう関係性を深めるのか。
- どの顧客にはセリングが必要なのか。
- どの顧客にはお役立ちコンテンツが必要なのか。
- メールを読まない顧客にはどう接するのか。
- 広告、LINE、店舗、コンテンツをどう組み合わせるのか。
- どのタイミングで売り、どのタイミングで関係性を深めるのか。
こうした設計があって初めて、配信シナリオに意味が出ます。
逆に、設計がないままシナリオだけを増やしても、運用は複雑になり、継続が難しくなります。
CRMは、メール配信の運用ではありません。
顧客とのコミュニケーションのお作法を決める仕事です。
そしてそのお作法は、ブランドの価値、顧客体験、組織体制、チャネル設計とつながっていなければなりません。
AIによって、中堅ECでもCRMが成立しやすくなる可能性がある
CRMが大手EC向きになりがちだった理由の一つは、運用負荷の高さです。
- セグメント設計。
- 配信内容の作成。
- 商品提案。
- ABテスト。
- 結果分析。
- 広告連携。
- コンテンツ作成。
- 改善案の検討。
これらを少人数で継続するのは簡単ではありません。
しかし、AIによって、この負荷はかなり下がる可能性があります。
- セグメント案を作る。
- メール文面を作る。
- 商品提案を考える。
- お役立ちコンテンツを作る。
- 配信結果を要約する。
- 次の施策案を出す。
- 広告連携の方向性を整理する。
こうした作業の多くは、AIによって効率化できます。
これまで人手が足りずにCRM運用が続かなかった中堅ECでも、AIを活用することで、継続的なCRM運用に近づける可能性があります。
ただし、AIを入れれば自動的に成果が出るわけではありません。
目的や設計がなければ、AIによって一斉配信の本数が増えるだけになる可能性もあります。
AIが本当に価値を発揮するのは、自社が顧客とどんな関係性を築きたいのかが明確になっているときです。
CRMの目的、ブランドの方向性、顧客体験の設計があって初めて、AIは強力な運用支援になります。
まとめ:CRMは3年後の売上曲線を変える投資である
CRMは、短期的なメール施策ではありません。
開封率やクリック率、配信ごとのROIは大切です。
しかし、それだけではCRMの本質は見えません。
CRMで本来見るべきもの
- リピート売上が積み上がっているか。
- 新規獲得依存から抜け出せているか。
- 顧客との関係性が深まっているか。
- 顧客ごとに自然なチャネルで接点を持てているか。
- ブランドとして一貫した顧客体験を提供できているか。
- 3年後の売上曲線が変わっているか。
CRMは、メールを送るための仕組みではありません。
顧客との関係性を積み上げることで、売上構造を変えるための経営投資です。
そのためには、ツールだけでは足りません。
- 顧客体験の設計が必要です。
- 自社らしさの言語化が必要です。
- チャネルを横断したマネジメントが必要です。
- 担当者が大義名分を持って動ける地盤が必要です。
CRMは短期投資ではありません。
3年後の売上曲線を変える投資です。
だからこそ、CRMを導入する前に、まず考えるべきなのは「どんなメールを送るか」ではなく、
「顧客とどんな関係性を築きたいのか」
なのだと思います。
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