Shopify Editionsは、年に2回行われる大規模アップデートの発表イベントで、Shopifyが今どこに力を入れているのか、これからどんな方向に進んでいくのかを知るうえで、とてもいいタイミングです。
今回のSummer '25では、AIを活用した業務支援や越境EC、B2B取引など、日々の業務改善だけでなく、EC事業をさらに成長させるための土台づくりに関わるアップデートが多くありました。
もちろん、すぐに全部使いこなす必要はありません。しかし「自社にも関係ありそうだな」と感じるポイントがあるはずです。
この記事では、そんな観点から、特に注目しておきたいアップデートを8つに絞ってご紹介します。
\ こんな方におすすめの記事です /
- ECを今よりもう一段階、伸ばしたいと考えている
- 今後のShopifyの展開を見極めたい
- 全て追うのは大変なので、要点だけ押さえたい
目次
アップデート内容
AIで関税分類をサポート「Tariff Guide」
■ どういったことができるのか
Tariff Guideは、越境ECを行ううえで避けて通れない「HSコードの特定」や「関税率の把握」をサポートするAIツールです。
使い方はシンプルで、商品説明と出荷元の国を入力するだけです。
該当するHSコードと米国への輸出における参考関税率を自動で提案してくれます。
※HSコードとは、国際貿易で使う商品分類コードのこと
これまで専門知識が必要だった関税関連の初期調査が簡単になり、米国向け販売を検討している事業者にとって、役立つツールです。
■ 精度を検証してみた
実際の使い勝手と精度を確かめるために、「Green Tea Powder」を題材にして、Tariff Guideの提案内容と、米国国際貿易委員会(USITC)の公式HSコード検索ツール(Harmonized Tariff Schedule)を比較しました。
まずは、Tariff Guideに情報を入力します。
「See tariff rates」をクリックすると、商品に対しての質問事項が提案されます。
※ブラウザの翻訳機能の影響により、本来「2101.20.2010」と表示されるべき部分が「2010年1月20日」と表示されています。
今回はパウダーのため、一番下の「濃縮物」のカテゴリーを選択しました。
そして結果が表示されます。
Tariff Guideから出力された回答は、「HSコード = 2101.20」です。
そして、米国国際貿易委員会公式ページで「HSコード = 2101.20」に該当する物を検索して見ると、
Tariff Guideと米国国際貿易委員会公式ページの結果が一致しています!
分類の正確性という観点では、初期調査ツールとしては十分に実用レベルといえます。
一方、USITCの公式HSコード検索ツールでは、「Green Tea Powder」のHSコードは「2101.20.0000」であることが確認できます。
注意点
- 提示されるHSコード・関税率はAIによる推定であり、確定情報ではない
- 対応しているのは米国への輸入関税のみ(2025年5月時点)
- 提案された情報をShopifyの管理画面に反映する場合は手動入力が必要
- 正式な輸出入手続きには、税関や通関士への確認が不可欠
Shopifyの公式ガイドでも、「最終的な確認は税関・通関士に相談を」と明記されています。
実務でそのまま使うのではなく、関税のリスクや分類をあらかじめ把握しておくための初期調査ツールとして活用できます。
■ 今後の期待と展望
Tariff Guideは、まだ限定的な対応範囲ではあるものの、AIを用いた越境EC支援の第一歩としては非常に意義のあるアップデートです。
今後、対応国が拡大し、Shopify管理画面とより深く連携できるようになれば、関税対応にかかる手間を大きく削減できる可能性を秘めています。
越境ECのハードルを少しでも下げたい方、特に米国市場を視野に入れている方にとっては、今から注目しておきたい新機能といえるでしょう。
マルチチャネル施策を一元管理できる「Campaings」機能が登場
ECにおける集客施策はSNS、広告、メール、オフラインなど多チャネル化が進み、それぞれの施策の成果を横断的に把握する難易度が高まっています。
今回リリースされた「Campaigns」機能は、こうした分散するマーケティング施策を、Shopify上で統合管理・計測するための基盤です。
この機能を実際に使おうとしたところ「現在このストアでは利用できません」となります。
使用できる条件は今のところ不明ですが、代わりに公式からの情報 + 弊社想定を元にご紹介します。
■ 機能概要と活用イメージ
- 各種チャネル(Google広告、Instagram広告、Eメールなど)を1つのキャンペーン単位で管理
- UTMパラメータを生成し、トラフィックやコンバージョンを追跡可能
- オフライン施策向けにQRコードや共有リンクを発行し、計測対象に含めることも可能
- 各チャネル別のセッション数・CV・売上をダッシュボード上で可視化
■ 実務での想定ユースケース
- 外注広告と自社運用施策を横断的に評価し、チャネル別の投資対効果を比較したい場合
- ポップアップやイベントで配布したQRコード経由の売上貢献を測定したい場合
- 社内レポートや上層部向けの施策説明資料に、チャネル別の成果を明示的に記載したい場面
■ 今後への期待
Shopify MagicやSidekickとの連携により、今後はキャンペーン単位での最適化提案まで視野に入ってくる可能性があります。
現在は分析・計測に特化した機能ですが、EC事業のPDCAを高速化する基盤として押さえておくべきアップデートです。
Shopify B2B × NetSuiteがネイティブ連携
■ Shopify B2Bとは?
Shopify B2Bは、法人顧客との取引に特化した販売機能です。
法人アカウントごとの価格設定、支払条件、注文上限・下限など、B2Bに特有の商習慣に対応した機能を備えています。
Shopify Plusを利用している事業者であれば、Shopify管理画面からB2Cと並行してB2Bサイトを運用することが可能です。
■ NetSuiteとは?
Shopify B2Bは、法人顧客との取引に特化した販売機能です。
法人アカウントごとの価格設定、支払条件、注文上限・下限など、B2Bに特有の商習慣に対応した機能を備えています。
Shopify Plusを利用している事業者であれば、Shopify管理画面からB2Cと並行してB2Bサイトを運用することが可能です。
■ 今回のアップデートで何ができる?
NetSuite連携の強化により、B2B取引における「注文→出荷→請求→入金」までのプロセスが、より一体化されました。
以下は、実際に連携されるデータと、それによって実現される業務改善の概要です。
- 注文同期:Shopify B2Bで発生した注文は、NetSuite上でSales Orderとして自動作成。B2C注文と区別して処理できる。
- 会社・顧客同期:Shopify B2Bの「会社」構造は、NetSuiteの「親顧客・サブ顧客」構造と連携。法人管理の整合性を確保。
- 在庫・商品同期:SKUや価格、在庫数量が両システム間で同期。Shopifyでの販売数量もNetSuiteに即時反映。
- 請求・入金処理の自動化:Shopify上の注文に基づき、NetSuiteで請求書を自動生成。Shopifyでの入金もNetSuiteに紐づけて反映。
- 顧客前受金(デポジット)の処理:B2B注文に対して、注文時点で請求ではなくデポジット(前受金)として記録する設定が可能。
- 返金・調整の同期:注文の返品や交換も、両システム間で正しく連携し、在庫調整・財務情報が整合される。
- 支払ステータスの逆同期:NetSuiteでの支払処理がShopifyにも反映され、Shopify側のインボイスが「支払済」として自動更新。
Shopify BtoBの国際展開を加速する「Markets for B2B」機能
Shopify B2Bは、2022年〜2024年にかけて徐々に拡充されてきましたが、「多国展開・市場ごとの最適化」には制限がありました。
■ 以前の課題
- ✖ 各国ごとのB2Bカタログは持てない
- 商品の出し分け、価格のローカライズが限定的
(すべてのB2B顧客に共通のカタログが表示される) - ✖ 市場ごとのテーマの切り替え不可
- 海外法人向けにブランド訴求やUIを変えたい場合も、一律のデザインしか設定できなかった
■ 今回のアップデートでどう変わったか
- ✔ 市場ごとのB2B構築が可能に
- 国・地域ごとに販売する商品や価格を調整可能
- 「欧州向けはまとめ買い割引、日本向けは通常価格」などの戦略がとれる
- ✔ マーケットごとのフロントのデザイン
- 中東向けのレイアウト、欧米向けのレイアウトなど、地域ごとのデザインが可能に
■ 結果的にどうなる?
B2C向けに先行していた「Markets機能」がB2Bにも拡張されたことで、地域別のB2B販売戦略をShopify内で完結できるようになりました。
以前は、国ごとに別ストアを構築しないと実現できなかったシナリオが、1つのストアの中で実現可能になったのは、非常に大きな進化です。
注文金額の上限・下限が設定可能に
金額ルールで販売戦略を引き締める新機能(Shopify Plus限定)
Checkout Blocksアプリを使って注文金額の最小・最大制限を設定できる機能が登場しました。
例えば、「10,000円以下は購入不可」「1,500,000円以上は購入不可」といった金額ベースの制御が、ノーコードで構築可能になります。
■ 主な仕様(できること)
- Checkout Blocksアプリを使用
- Shopify Plus限定
- 適用範囲を「すべての顧客(通常のtoC)」または「B2B会社のみに限定」することが可能
- ストアのデフォルト通貨で制限を設定 → 顧客には自動で現地通貨換算が適用
B2B取引においては、最低注文金額を設定しているケースが一般的ですが、その管理を手作業に頼るのは現実的ではありません。
今回の機能を活用することで、取引先ごとに異なる最低注文金額をシステム上に反映できるため、人的ミスの防止や運用負荷の軽減が期待できます。
分割配送でも「一律送料」が設定可能に
■ 何ができるのか
これまでShopifyでは、同じ注文内で出荷元が分かれた場合(配送分割)、送料が「出荷単位」でそれぞれ加算される仕組みになっていました。
たとえば:
- 商品A(倉庫1から発送)→ ¥500
- 商品B(倉庫2から発送)→ ¥500
- → 合計送料:¥1,000
今回のアップデートでは、分割配送でも「一律送料(Flat rate)」を設定できるようになりました。
つまり、「複数拠点から出荷されても、送料は一律¥500」などのルールが適用できます。
これにより、ユーザーにとってわかりやすく、想定外の送料増加を防げるようになります。
■ 検証が必要なポイント
とはいえ今回の機能には、いくつかの検証課題が残ります。
たとえば、「冷蔵商品と通常商品は配送プロファイルが分かれていることが多いが、この場合も一律送料になるのか」や「"商品価格〇〇円以上の購入で送料無料"の施策にどのように適用されるのか」などです。
配送条件は複雑になりやすく、これらの仕様を正確に把握するには、ストアごとの設定状況に応じたテスト注文による実際の検証が必要になるかと思います。
管理画面からピッキングリスト作成が可能に
■ 何ができるのか
これまでピッキングリストは、主に外部アプリやサードパーティのシステムを用いて作成する必要がありました。
今回のアップデートにより、Shopify純正のアプリの
注文管理画面から対象となる注文を一括選択し、ピッキングリストを出力することが可能になります。
特にShopify POSと連携して在庫を管理している実店舗や、自社で発送業務を行っている小〜中規模の事業者にとっては、大幅な業務効率の改善が期待できます。
■ 活用シーンの例
- 実店舗での受注対応:オンライン注文の店頭受け取り(Click & Collect)に対して、店頭スタッフが効率よく準備できる。
- 倉庫内ピッキング業務:オペレーターが商品を取りに行く順番や個数を把握しやすくなり、出荷ミスの削減や作業時間の短縮に貢献。
チェックアウトの読み込み速度が約2秒の短縮
今回のアップデートでは、Shopifyのチェックアウトページの読み込み速度が平均で約2秒短縮されました。(Shopifyによる検証値)
対象はShopifyで標準的なチェックアウトを利用している全てのマーチャントで、特別な設定変更や開発は不要です。
すでに自動で反映されているケースがほとんどです。
■ なぜ重要なのか
チェックアウトの読み込み時間が1秒遅れるごとに、コンバージョン率が最大7%低下すると言われています。
ページの読み込みが遅いことで「あとで決済しよう」と意識が途切れたり、離脱中に別サイトで類似商品を見つけてしまったりと、一度離脱させてしまうと再訪を促すハードルが一気に上がります。
ECにおいて「最終的なボトルネックはチェックアウトである」ことが多いため、今回の高速化は売上に直結する地味だが重要な改善と言えるでしょう。
最後に
この記事では紹介していませんが、Shopifyテーマ(Horizon)でも大きなアップデートがあったように、最近のShopifyはAIへの開発にすごく力を入れています。
特に今回紹介した8つの中には、知っているだけで差がつくような機能が複数存在します。
とはいえ、全部を一気に導入する必要はありません。
まずは「自社に効きそうな機能」を1つ選び、試してみることが、半年後・1年後の差になります。
導入に迷ったら、お気軽にご相談ください。
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