最近、AIとECに関するニュースを読むと、「AI経由の流入が急増している」「AIから購買行動を始める人が増えている」といった数字をよく目にする。
Salesforceは、AIアシスタントを購買行動の最初の接点として使う割合が、2025年5月から2026年5月にかけて200%増加したとしている。
Adobe Analyticsでも、2026年5月の米国小売サイトへのAI経由流入は前年比138%増。AI経由客は、その他の流入と比べてコンバージョン率が54%高く、Revenue per Visitも53%高かった。
確かに何かは起きている。
ただ、こうした数字を見るたびに気になる。
AI検索が150%増えたとして、AIの何が良くなった結果なのだろう。
AIそのものの商品探索性能が上がったのか。消費者が「AIは買い物にも使える」と認識するようになったのか。それともChatGPTやGemini自体の利用者が増えた結果なのか。
利用量の増加だけでは、そこは分からない。
そこでまず、現在のAIが実際にどこまで買い物を支援できるのかを見てみたい。
AIは実際、どこまで商品探索できるのか
AIの商品探索能力を測る研究は、すでにいくつか出ている。
2026年6月公開のEComAgentBenchでは、Amazonの実商品やレビューを使い、ユーザーの要求を「最初から明示される条件」「プロフィールに隠れている条件」「AIが質問しないと分からない条件」に分散させた662の購買タスクを評価した。
最も優秀なモデルでも総合精度は57.1%だった。
Amazonの研究者らによるShopping Reasoning Benchでは、525の購買ミッションについてGPT、Claude、Geminiなどを評価し、結果は57〜77%。さらに、会話が長くなるほど性能が4〜18ポイント低下した。
一方、正確な商品特定、専門的な比較、安全性判断まで求めるShoppingCompのような高難度ベンチマークでは、GPT-5でも11.22%だった。
もちろん、これらを横並びにして「AIの商品検索性能は60%程度だ」と読むことはできない。評価している仕事が違うからだ。
むしろ重要なのは、「AIショッピング」という単一の能力は存在しないということだと思う。
発見、要求整理、比較、適合確認、在庫確認、購入実行では、AIに求められる能力がまったく違う。
だから「AIで買い物する人が増えた」というニュースも、AIショッピングという一つの能力が上がり、その結果として利用が増えた、と単純には読めない。
何をAIに任せる人が増えたのか。そのタスクでAIの性能がどこまで上がったのか。そこまで分けて見ないと、実際に起きている変化は分からない。
いまAIが負ける仕事、勝つ仕事
現時点で、AIより既存システムの方が明らかに強い仕事はある。
価格、サイズ、色、在庫など条件が明確なら、構造化された商品DBとフィルターの方が正確だ。型番適合や最新在庫、配送可否も同様である。
「5万円以下、幅60cm以下、白、在庫あり」なら、LLMに考えさせるよりAND検索した方がいい。
一方で、すでにAIの方が強い領域もある。
一つは、商品名を知らなくても、用途や困りごとから商品やカテゴリを発見することだ。
ただ、私がそれ以上に面白いと思うのが、比較軸そのものを発見できることである。
例えばコーヒーメーカーを2台まで絞ったものの、自分が何を基準に比較すればいいのか分からないとする。
AIなら、
- 「一日に一杯しか飲まないなら立ち上がり時間」
- 「浅煎り中心なら温度制御」
- 「毎日使うなら清掃性」
- 「豆を頻繁に替えるならホッパー構造」
といった形で、商品ではなく選ぶための評価軸を提示できる。
これは商品検索とは少し違う。
ユーザー自身がまだ認識していなかった「選び方」を発見している。
さらにAIは、「軽い方がいい。ただし居住性を犠牲にするほどではない」といった条件間の優先順位を解釈したり、レビューや記事に散らばった情報から「実際には掃除が面倒」「幅広の人に合いやすい」といった公式スペックにはない特徴をまとめたりすることもできる。
検索対象を見つけるだけではない。
何を基準に選べばいいかまで一緒に考えられる。
ここは、従来の検索やフィルターとはかなり性質が違う。
購買におけるAIの役割を整理すると
現時点の役割分担を整理すると、だいたいこうなる。
| 役割 | ユーザーの状態・問い | AIが担うこと | 現時点で強い手段 | AIの現在地 |
|---|---|---|---|---|
| 発見 | 何を買えばいいか分からない | 悩み・用途から商品やカテゴリを見つける | AI | すでに強い |
| 要求整理 | 自分でも条件を言語化できていない | 会話から本当のニーズや優先順位を整理する | AI・人間の店員 | すでに強い |
| 比較軸の発見 | 何を基準に比べればいいか分からない | 選ぶべき評価軸を提示する | AI・専門家 | AIがかなり強い |
| 候補探索 | 条件はある程度決まっている | 条件に合う候補を広く集める | AI+検索・商品DB | AIが強くなっている |
| 絞り込み | 価格・サイズ・色など条件が明確 | 条件に一致する商品だけを残す | フィルター・DB | 従来手段が明確に強い |
| 比較支援 | 候補が数商品に絞れている | スペック・レビュー・用途を横断して比較する | AI | かなり強い |
| 非構造情報の統合 | 公式スペックだけでは判断できない | レビュー、記事、動画、FAQなどをまとめる | AI | AIが強い |
| 判断アシスト | 最後にどちらを選ぶべきか迷う | 優先順位に応じてトレードオフを説明する | AI・人間 | 強いが品質差あり |
| 適合確認 | この商品が自分の機器・環境に合うか | 型番・互換性・サイズ適合を確認する | 公式DB・構造化データ | 現状は慎重に扱うべき |
| 事実確認 | 在庫、価格、配送、仕様を知りたい | 最新の事実を返す | DB・API・検索 | 接続次第 |
| 購入実行 | 買う商品は決まっている | 最安・配送条件確認、注文実行 | EC・決済システム | 今後拡大 |
| 購入後支援 | 使い方や次に必要なものを知りたい | セットアップ、使い方、追加購入提案 | AI | かなり相性が良い |
こうして並べると、「AIで買い物をする」という表現がかなり大雑把であることが分かる。
発見と型番適合では、求められる性能がまったく違う。
比較軸の発見と在庫確認も別の仕事だ。
AIショッピングの普及率を一つの数字で見るだけでは、その中で何が起きているのかまでは分からない。
「AI検索150%増」をどう読むか
AIショッピングを見るとき、少なくとも三つは分けた方がいい。
「AIショッピング」を見るときの三つの区別
- AIの実性能:実際にどこまで購買タスクをこなせるのか。
- 消費者が認識している性能:どこまでAIならできると思っているのか。
- 実際の利用:どこまで商品探索や購買判断にAIを使っているのか。
今よく報じられている「AI経由流入が138%増えた」「AIから購買を始める人が200%増えた」という数字は、主に三つ目を観測している。
一方、McKinseyの2026年調査では、AIによる商品検索を試したい人は51%だったのに対し、完全自動注文まで任せたい人は20%。Gartnerでも、AIを買い物に使った人の54%が、回答内容を再確認する必要があったとしている。
利用は急速に増えている。
しかし、実性能が上がったからなのか、消費者の認識が変わったからなのか、それともAIそのものの利用人口が増えたからなのか。
流入増だけでは、その内訳は分からない。
おわりに|AIショッピングを見るなら、「どの仕事が移ったか」を見たい
今後、AI経由の商品探索や購買はさらに増えていくだろう。
ただ、私が知りたいのは「AI経由流入が300%増えた」という数字そのものではない。
人間は、買い物の何をAIへ任せるようになったのか。
商品の存在を発見する仕事なのか。
自分の要求を整理する仕事なのか。
比較軸を考える仕事なのか。
大量のレビューを読む仕事なのか。
候補を比較する仕事なのか。
それとも最終判断まで移り始めたのか。
AIが代替する対象には、Google検索だけでなく、比較記事を読む時間や、詳しい友人や店員に相談していた時間も含まれる。
そう考えると、AIショッピングは一つの新しい販売チャネルが伸びる話というより、購買前に人間がやっていた仕事が、タスクごとにAIへ移っていく話として見た方が分かりやすい。
そして、その移動速度を決めるのは、結局それぞれの仕事についてAIがどこまで使えるようになったかである。
だから「AI検索が何%増えたか」と同じくらい、
どの購買タスクで、AIが既存の手段を上回るようになったのか。
私は今後そこを追っていきたい。
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