在宅勤務、リモートワーク、巣ごもりといった新語大賞候補がニュースや新聞をにぎわせない日がないほど、人々の働き方が激変しました。その影響はリアルなビジネスを直撃し、まさに業種によって悲喜こもごものようですが、こと通販業界に至っては、「巣ごもり消費」の恩恵を受けているようです。ヤフーの持ち株会社、Zホールディングスも、いわゆる巣ごもり需要でネット通販の売り上げが増えたことで、中間決算が増収増益だったと発表していました。そんな追い風が吹きまくる中、今まで以上に越境ECに活路を見出そうしている企業も急増しているようです。
Shopifyのような、
・システムのインストールやサーバーの設置が不要
・ネット販売に必要な機能を全てオンライン上で操作可能
・多言語・多通貨での決済や国際発送にも対応
まことに便利で使い勝手のいいプラットフォームが登場したこともあって、今後ますます越境ECに挑戦しようとする企業が増えてくるでしょう。
越境ECを始めるとき、国内ECとはなんとなく違うのだろうなということはわかっていても、何がどう違うかをちゃんと理解して始める人は意外と少ないです。特に越境ECを始める上で初めにぶつかる「取引条件とポリシー」はなかなか手ごわい相手。すでに手広く越境ECをやっているセラーであっても実のところあまりわかっていない方も多い。そこで「取引条件とポリシー」について解説をしたいと思います。
貿易の世界では、取引条件のことをインコタームズ(Incoterms)といいます。インコタームズとは、国際商業会議所 (International Chamber of Commerce: ICC) が策定した貿易条件の定義のことで、簡単にいうと貿易取引における決済方法や運賃、保険料、リスク(損失責任)を輸出者と輸入者のどちらが負担するかを定めたものです。
国内ECは、決済会社が様々な決済方法を準備してくれています。物流についてもヤマト運輸や佐川急便が集荷から配達、代金回収まですべて1社で引き受けてくれます。そのため仮に何かトラブルがあったとしても、すべて1社で対応してくれているから安心です。購入者の立場としては、無事に届けてなんぼ、つまり購入さえすれば、あとはすべて販売者が責任を持って届けてくれると信じ切ってるので取引条件を気にさえしません。しかし越境ECではそう簡単ではありません。貿易のプロ同士の取引であるB2Bであればまだしも、国際取引に慣れていない同士の取引が多い越境ECでは、取引条件を明確に定め、それをポリシーとしてサイト上に掲載しておくことが必要です。
Shopifyのようなプラットフォームを利用すると、あらかじめポリシーも準備されているため自分たちで用意する必要はありません。ただし、そこに書かれている取引条件の内容を正しく理解しておくことはとても重要です。ポリシーを明確にしておく目的は、お客様との間でトラブルを発生させないためだけではないからです。起こってしまったトラブルを正しくシューティングするためでもあります。越境ECにはトラブルがつきもの。起こってしまったトラブルをスマートに解決に導くことは、セラーにとっても海の向こうのお客様にとっても、とても大事なことなのです。
通常、越境ECの取引条件は、次の7つの項目に分けてポリシーとして掲載します。
- Shipping(配送方法)
- Duty & Tax(関税と付加価値税)
- Return/Exchange(返品、交換)
- Privacy(個人情報保護)
- Payment(支払いについて)
- Products(製品やその使用方法、保険に関して)
- Copy Right(商標権)
このコラムでは、このうちの4つ、「Shipping」「Duty & Tax」「Return/Exchange」「Privacy」のポイントについて、実例をみながら説明します。
今日はその1回目です。
まずShipping Policy の実例を挙げてみます。
(英文例)
The merchandise which have been ordered before 13:00 JST will be shipped the following day except Saturday, Sundays and holidays unless otherwise specified. Merchandise will be shipped through EMS and/or e-packet by the Japan Post Office. However, they can be shipped differently as required by the destination countries. Under the ordinary condition, international shipping will take approximately from two weeks to maximum of four weeks depending on the destinations. Shipment’s tracking service is provided by Japan Post office. We will send “tracking number” to customers.
http://www.post.japanpost.jp/int/information/index.html
A careful packing is being guaranteed, however, any unexpected damage was seen on delivery, simply do not accept the package and check the contents together with local post office staff.
(日本語訳)
お客様が注文された商品について、在庫がある商品に関しては、日本時間の午後1時までの注文に対しては、翌日に出荷の手配がなされます。但し、土日祝日に関しては、特別なご指示がない限り出荷処理はされませんので、あらかじめご了承ください。
お客様のご注文された商品は、日本郵便のEMS(国際エクスプレスメール)もしくは国際eパケットによって、お客様のご指定の住所に発送させていただきます。但し、お客様のお住まいの国、地域、ご注文された商品の重量、サイズによっては、他の方法に振り替えて発送される場合もあります、
お客様のお手元には、概ね2週間程度でお届けになります。但し、天候、時期、郵便事情、その他のさまざまな理由によって、最大4週間程度の日数がかかることもございます。配送伝票番号については、出荷時にお客様のe-mailに通知させていただきます。配送状況については、以下の日本郵便の追跡用のサイトからお客様自身で確認することができますので、ご活用ください。
http://www.post.japanpost.jp/int/information/index.html
梱包につきましては十分に配慮しておこないましたが、予測できない事情により、ダメージを受けることがあります。万が一、お届けの際に梱包状態に異常があった場合には、配送係員に対して受け取りをいったん拒否していただき、地元郵便配送会社立会いの下で、内容物に破損がないかをご確認下さい。
このポリシーには重要なことが6つ書かれています。
1.出荷予定日注文を受けたのち、それをいつまでに出荷するかということを明示します。
例では、日本時間の午後1時までの注文に対しては、翌日に出荷の手配を行うこと、但し、土日祝日は作業を行わないことが書かれています。
2.配送方法
配送業者や配送方法を書いておきます。
例では、日本郵便のEMSもしくはeパケットを利用するとうたっていますが、国、地域、重量、サイズによっては、他の方法に振り替えて発送される場合があることも書いてあります。
3.到着までの予想日数
日本を出てからお届けまでどれくらいの日数がかかるかを書いておきます。
例では、通常は概ね2週間程度でお届けになるが、天候、時期、郵便事情、その他のさまざまな理由によって、最大4週間程度になることもあると書かれています。
越境ECの輸送では、日本を出るまでは日本郵便が担当してくれるものの、運んでいる航空会社や現地での配送会社はまったく別の会社で、コントロールが効きません。そういう理由で、お届けまでの日数は絶対にコミットしてはいけません。
4.発送情報の通知方法
お問い合わせ番号や追跡のURLなどの情報をどのような方法でお知らせするかを書いておきます。
例では、出荷時にお客様に送るe-mailによって通知すると書いてあります。
5.配送状況の確認方法
追跡用のURLもここで書いておきます。
例では、日本郵便の追跡用のサイトが書かれています。
6.ダメージがあった場合の処理について
お届けに上がった場合、箱に破損や水濡れなどのダメージがあった場合の対処方法を書いておきます。
例では、お届けの際に梱包状態に異常があった場合には、配送係員に対して受け取りをいったん拒否し、地元郵便配送会社立会いの下で、内容物に破損がないかをご確認してもらうこととありますが、この記載は日本郵便の保険ポリシーにのっとった記述になります。
コロナの影響により米国向けの国際郵便が止まっていますが、このポリシーに従えば、無理やりDHLやFEDEXのような国際宅急便に切り替えなくても大丈夫です。また南米の一部の国は、郵便自体が実質的に破綻して郵便業務を民間会社に委託しているケースがあります。そうした国では、EMSであってもお届けまでに2週間以上かかることはざらですので、例に挙げたポリシーは決して大げさな表記ではありません。
荷物が届かない・壊れていたなどのトラブルが起きた際の対応次第で、そのお客様はクレーマーにもロイヤルカスタマーにもなります。ポリシーはそのための最低限の取り決めだということを理解してください。
次回はDuty & Taxについて勉強します。
中川泰
越境EC総研合同会社(CBEC Reserach Insutitute LLC)CEO