食品のFDA
アメリカに出張して、帰りの空港でビーフジャーキーをお土産で買ってきた場合、税関の手前の検疫所に届けなければいけない。お酒やたばこを規定以上に持ちこもうとすれば、税関検査後に税金を徴収されるし、時差ボケ解消用にと友達の分まで大量にメラトニンを買ってきたら2か月分までしか持ち込めませんといわれて税関で没収されてしまう。
このように食品やアルコール、薬品を海外から持ち込もうとすると細かな規定があってなかなか面倒なのであるが、よく見てみると、検疫所は厚生労働省の管轄で、アルコールやたばこは財務省の管轄である。メラトニンを規制するのは医薬品医療機器等法(通称、薬機法)という法律である。海外から日本に商品をもちこもうとする場合、その商品によって所管する役所や法律が違うので、手続きも当然異なる。
“食品の輸出にはFDA認証が必要ですよね”
FDAがアメリカ食品医薬品局であることは前回書いた。彼らは連邦食品・医薬品・化粧品法をもとに、アメリカで販売される食品・飲料、化粧品、医療機器(メディカル・デバイス)、医薬品、放射線機器、獣医動物関係製品などの製品を管轄しているが、食品に関しては、FDAだけが所管官庁ではない。
そう聞くと、食品や飲料、健康食品、化粧品、薬品の輸出にはFDAの承認がいるのだろうということはなんとなくわかるが、同じ食品や飲料、化粧品も商品によって実際のルールや手続きが異なるので、すこし予習しておく必要がある。
普通の歯磨き粉は一般化粧品だがフッ素が入った歯磨き粉は、薬品のカテゴリに入る。シャンプーにも育毛の機能があるとそれはもう化粧品ではなくなり薬品に分類される。
FDA関連製品を米国に展開させるためには、まず自社の製品がFDAのどのカテゴリに当てはまるのかを確認する必要がある。特に食品の場合、FDA以外の省庁が所管するケースもある。
今回のコラムでは、越境ECで取り扱われることの多い食品、化粧品、医療機器(メディカル・デバイス)の3つのカテゴリにフォーカスして、考えてみたい。
まずは食品についてである。
“食品の輸出はFDAの管轄じゃないのですか?”
米国には食品・飲料の輸入・販売にかかわる機関はFDAを含めて主に6つある。
- 食品安全検査局(FSIS):米国農務省(USDA)の配下
- 動物検査局(APHIS):米国農務省(USDA)の配下
- 農業マーケティング局(AMA):米国農務省(USDA)の配下
- 酒類タバコ税貿易管理局(TTB):米国財務省(USDT)の配下
- 税関・国境保全局(CBP):国土安全保障省(DHS)の配下
- アメリカ食品医薬品局(FDA):米国保健福祉省(HHS)の配下
FSISとAPHISは、畜肉・家禽肉(及びその加工品)、卵製品を所管している米国農務省(USDA)管轄の機関である。FSISは畜肉検査法、家禽及び家禽加工品検査法と卵製品検査法をもとに、
・畜肉(牛、羊、豚、ヤギ、馬)及びその加工品
・家禽類(鶏、七面鳥等)及びその加工品
・卵製品
の輸出入及び州境を超えての流通を規制している。
APHISは、米国内で発生していない動植物に関する疾病が米国外から侵入することを防ぐための輸入検疫や遺伝子組み換え作物の安全性確保などを所管する、日本における検疫所のような役割だと考えていただければわかりやすい。
AMAは、主に農産物の品質基準を策定し、有機農産品や農産物の種子に関する規制を行う機関だ。
TTBはアルコール飲料とタバコについての品質、食品表示、輸入業の許可に関する規制を行っている財務省管轄の機関である。
CBPは簡単に言えば税関で、国土安全保障省の管轄だ。税関としてFDAやFSIS、APHISなどの機関と連動して、輸入禁制物の取締りや輸入食品の通関検査を行う。例えば、USDAが所管する食品、例えば畜肉については、まずCBPが、APHISが定める検疫条項に従って検査を行い、これを受けてFSISが輸入に関する最終判断を下すという具合だ。FDAが所管する食品であれば、通関業者や輸入業者がバイオテロ法に基づいて行った事前通知の情報をCBPとFDAがコンピュータシステムで連携しあい、検査などの実施を決めている。
最後にFDAである。FDAはUSDAが所管する畜肉・家禽肉(及びその加工品)、卵製品を除くほぼすべての食品、TTBが所管するアルコールを除く飲料、それとダイエットサプリメントと呼ばれる栄養補助食品を所管している。
ここまででおわかりいただけたように、食品や飲料は、原材料によって所管する役所が違う。誤解を恐れずシンプルに言えば、
・ 肉類や肉類の加工品、卵製品は「FSIS」と「APHIS」
・ 有機農産品と植物の種は、「AMA」と「APHIS」
・ アルコール製品は「TTB」
・ その他の食品・飲料・健康食品は一般食品として「FDA」
が管轄官庁ということになる。
ちなみに「FSIS」と「APHIS」の規制はかなり厳しく、新規での認証取得は相当難易度が高く、簡単には承認を得ることができない。専門家の意見を聞き、その上で国の全面的なバクアップを得て、さらに相当の投資を行い、時間をかけて初めて突破できる高いハザードであるということを頭の片隅に入れておいてほしい。とくに家禽類に関しては、様々な事情からの輸出はほぼ絶望的な状況である。
卵製品に関しては、卵を原料に含むケーキミックスやカスタードミックス、卵麺、酸性のドレッシング、栄養食品等、卵製品の定義から外れFDAの所管になるものも多い。安易な判断を下さずにぜひ専門家へ問い合わせいただきたい。
原材料がわかったら、その次は保存方法と容器をチェック!
輸出しようとしている商品が一般食品であるとわかったら、次は保存方法と容器を考えてみる。FDAでは、保存方法と容器によって「一般食品」「酸性化食品」「低酸性食品」の3つに分類している。通常、食品のFDA認証には製造工場の登録が必要であるが、輸出しようとしている製品が「酸性化食品」「低酸性食品」と分類された場合、通常の施設登録とは別に、FCE/SIDと呼ばれる登録が必要となってくる。FDAでは食品の製造を行う条件としていわゆるGMP(Good Manufacturing Practice、適正製造規範)を遵守すること求めているが、「酸性化食品」「低酸性食品」に対しては別途のGMPを定めているので、製造をOEM化しているメーカーは注意が必要である。
*酸性化食品:酸を加え pH を下げることでボツリヌス菌などの発生を抑えた密封包装された食品のこと。常温で流通している密封包装された漬物や密封包装された半生めんなどがこれにあたる。
*低酸性食品:加熱処理された密封容器詰低酸性食品のこと。以上、水分活性値が 0.86 を超える缶詰食品、ペットボトル飲料、ガラス瓶飲料などがこれにあたる。
こうしてFDA所管の原材料であり「一般食品」「酸性化食品」「低酸性食品」であることを確認したうえで、成分や添加物、着色料、残留農薬、原産地などのチェック及び、表示ラベルの英語化を行い、専門家のアドバイスを受けながらFDAでの認証取得を進めていくことをお勧めする。
執筆者:中川 泰
外部リンク:越境EC総研合同会社
(参考)
HHS:U.S. Department of Health and Human Service、米国保健福祉省
USDA: U.S. Department of Agriculture、米国農務省
FSIS: Food Safety and Inspection Service、食品安全検査局
APHIS: Animal and Plant Health Inspection Service、動物検査局
AMA: Agricultural Marketing Service、農業マーケティング局
USDT: U.S. Department of Treasure、米国財務省
TTB: Alcohol and Tobacco Tax and Trade Bureau、酒類タバコ税貿易管理局
CBP: U.S. Customs and Border Protection、税関・国境保全局
FCE: Food Canning Establishment、食品缶詰工場登録
SID: Submission Identifier、低酸性食品または酸性化食品