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日・EU関税連携協定
コラム

米中貿易戦争の影響でただでさえ冷え込んでいた対中国貿易が、このところの新型コロナウィルスの影響で、すっかり凍りついてしまった感があります。春節を大きなチャンスと考えていた方が多いだけに残念な状況です。そんな中で、にわかに注目をあびているのがヨーロッパとの取引です。イギリスのEU脱退など何かと世間を騒がしていることもありますが、あらたな販路として欧州向けを考えている人も多いと思います。
そういえば去年、なんかの経済連携協定を結んでいたな、と思い出した方もいらっしゃるでしょう。EUは5億人を抱える巨大市場です。昨年2月1日に、日・EU経済連携協定が発効されて以来、日本酒の輸出が13%以上増えたとの報道もあります。
今日はこの、日・EU経済連携協定の活用方法についてお話したいと思います。

 EU

 

“ヨーロッパの関税がなくなるって本当ですか”


日・EU経済連携協定のニュースが出るとよくこういった質問をいただきます。
もちろんそんなことはありません。ただ日・EU経済連携協定のおかげで、多くの製品の関税が即時撤廃されたり、段階的に撤廃されたりすることが決まったので、将来的にはほとんどの製品の関税がなくなります。
経済連携協定というと特定の国と国との間で結ばれる協定のように思えますが、EUという地域を対象にしたものもあります。過去にはASEANとの間でも協定が結ばれたりしました。TPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)も広い地域を対象にしたものです。また今年1月1日に批准した日米貿易協定も経済連携協定の一つです。
こういった経済連携協定は、今後一般貿易だけではなく越境ECの世界にもジワリと影響を与えていくことが予想されますので、しっかりと内容を理解し、メリットを生かしていただきたいと思います。

 

“そもそも関税ってよくわかりません”


日・EU経済連携協定を正しく理解するためには、まず、少し関税の仕組みを知っておく必要があります。
製品を輸入する際に適用される関税率は、実は一つではありません。例えば同じ製品を日本に輸入する場合でも、輸出国や原産地によって適用される税率が変わってきます。
税率には、次の6つがあります。

A) 基本税率(すべての国と地域に適用される基本の税率)
B) 暫定税率(基本税率を変更する際に、暫定的に適用される税率)
C) 協定税率(WTO加盟国・地域及び2か国間で約束している税率)
D) GSP特恵税率(開発途上国や後進国に適用される税率)
E) FTA特恵税率(自由貿易協定の国・地域に適用される税率)
F) EPA特恵税率(経済連携協定の国・地域に適用される税率)

今日のテーマである、日・EU経済連携協定を利用する場合、FのEPA特恵税率を使います。
しかし、日本とEUの貿易において、何でもかんでもこのEPA特恵税率が使えるわけではありません。使うためには、その取引において次の3つが条件に合致していなければいけません。
輸出国
製品のHSコード
製品の原産地


“EPA特恵税率が使える条件ってなんですか?”

関税率は国と国との取り決めです。昨今の米中の関税上乗せ合戦をみてもわかるように、まず輸出国がどこか、ということが重要です。日・EU経済連携協定に関して言えば、EUにとっては日本が輸出国となり、日本にとってはEU各国が輸出国となります。
その上で関税率を調べる場合、まずその製品のHSコードを調べます。HSコードとは、いわゆる税番と呼ばれるもので、国際条約に基づいて決められた商品分類コードで、通常9桁から10桁で構成されていますが、上6桁はほぼ全世界で共通となっていますので、その上6桁を調べておきます。
一般の貿易において取引の当事者がWTO加盟国同士であれば、協定税率が適用されるので、その製品のHSコードに基づき、通常適用される協定税率を調べておきます。次に経済連携協定を締結した国(地域)同士であれば、同じようにHSコードに基づきEPA特恵税率を調べます。
このふたつの税率を比較して、どちらか安い方の税率が適用されることになります。

 

“どんな製品の関税が下がったのか具体的に教えてください”


経済連携協が締結されることで、製品によっては関税が即時撤廃され、あるいは段階的に下げられて行きいずれ撤廃されるため、同じ製品でもこれまでより安い税率が適用されることになります。
即時撤廃された品目としては、ワイン日本酒革製品以外のアパレル製品があります。
革製品については2029年ごろに撤廃されるので、有名ブランドのカバンなどが安くなるかもしれません。チョコやパスタ、葉巻、革靴についても同様に2029年に、チーズについても2034年を目途に関税が撤廃されるようです。コメや海苔・昆布など、協定から除外されている製品もありますが、最長16年かけてほぼすべての製品の関税が撤廃されます。

 

“原産地って何ですか?”


EPA特恵関税を利用するためには、その製品が日本で生産された原産品であること、つまり原産地が日本であることが条件となります。
日本国が原産であると認められるためには次の3つの判断基準のどれかに当てはまる必要があります。

完全生産品
これは日本国内で完全に得られるか、もしくは生産された産品のことを言います。具体的には、農水産品や鉱物資源などが該当します。

原産材料のみから生産される産品
生産に直接使用された材料(一次材料といいます)のすべてが原産材料であるか、もしくは非原産材料を使用して生産された産品であってもその材料に実質的な変更があった場合、その産品も原産材料と認められます。実質的な変更とは、非原産材料のHSコードが最終産品では別のHSコードに変わった場合などを言います。
(例)
・海外で作られた綿織物を使って製造された旅行用バッグの場合、原産地は日本となる
海外の綿織物のHSコード:52.08
旅行用バッグのHSコード:42.02

非原産材料を使用し付属書の品目別原産地規則(PSR)を満たす産品
日本で付加された価値によって原産性を証明する方法で、その付加価値基準は品目によってかわります。例えば産業用ロボット(HSコード8479.50)の場合は、日本において55%以上の価値を付加した場合、日本の原産性が認められます。



“どうやって日本が原産国であることを証明すればいいのでしょうか”

原産国を証明するための方法としては、商工会議所が発行する原産地証明を取得し、貿易書類のひとつとして輸入通関の際に提出するという方法があります。しかし輸出ごとに原産地証明を取得するのは面倒ですし、費用も掛かります。(1産品あたり500円、原産地証明の費用負担は、輸出者が負担します)
今回締結された、日・EU経済連携協定では、輸出者自らが原産地に関する申告文をインボイスに記載して、輸入申告時に情報を提供するという自己申告制度が採用されました。これはインボイスに輸出者が商品の原産地に関する必要な情報を記載することで原産地を証明することができるというもので、他の経済連携協定ではあまり採用されていない、とても簡便で画期的な方法です。
その方法を説明いたします。

インボイス例


輸入通関に使うインボイスに下記の情報を記載します。(参考例)
申告適用期間(通常、12か月以内)
輸出者参照番号(日本の場合、法人番号)
原産地(日本)
原産性判断基準(下記は記載例)
[A] 完全生産品
[B] 原産材料のみから生産される産品
[C]非原産材料を使用し付属書の品目別原産地規則(PSR)を満たす産品
場所及び日付
輸出者名
尚、この申告文は日本語でも構いません。
またインボイス価格が500ユーロ以下の商品は, 原産地に関する申告文がなくても特恵関税を受けることができます。

日本EU

 

EUへのビジネスを検討してみませんか?


日・EU経済連携協定の発効により、冒頭で例にあげた日本酒以外にも、緑茶醤油などの調味料の関税も即時撤廃されました。そのせいかどうかはわかりませんが、フランスでは空前のラーメンブームが巻き起こり、緑茶やお茶関連製品のEU向け輸出も堅調に伸びています。
この波に乗ってみても面白いかもしれません。

執筆者:中川 泰

外部リンク:越境EC総研合同会社

 
(参考)
*HSコード:Harmonized Commodity Description and Coding System の略
*MFN税率:最恵国(Most Favoured Nation Treatment)の意味