化粧品のFDA
アメリカのコスメトレンドは、ここ1年でK-ビューティ(韓国コスメ)からJ-ビューティ(日本コスメ)へとシフトしたといわれています。品質や成分に敏感な西海岸のアメリカの女性たちを中心に、日本の化粧品への関心が高まっているそうです。Amazon.comで売れている日本の製品という資料があります。
1位 Toys
2位 Office Products
3位 Camera
4位 Beauty
5位 Health & Personal Care
6位 Video Game
7位 Kitchen
8位 Watch
9位 Home
10位 Grocery
ビデオゲームや時計をおさえてなんと4位。これをみても日本製の化粧品の人気ぶりがわかります。コロナで自粛ムードが続くアメリカですが、日本の化粧品人気は、少なくともネットの世界では当分続くことでしょう。
いうまでもなくアメリカは世界一の化粧品消費国です。世界で生産される化粧品の25%、なんと約10兆円もの化粧品が消費されているそうです。もちろん、輸入量もダントツで世界一。欧州を中心に世界中からありとあらゆる化粧品が輸入されています。
そのアメリカの化粧品マーケットに参入しようとするのであれば、やはりFDAのことはちゃんと知っておく必要があります。
"そもそも化粧品とは何でしょうか"
化粧品といっても、スキンケアなどの基礎化粧品から、口紅やファンデーションなどのいわゆるメーキャップ用品、シャンプーなどのヘアケア用品など様々です。FDAでは化粧品を次のように定義しています。
「人の体に塗る, 馴染ませる, スプレーする等により, 体をきれいに美しくし, 魅力を高め, または外見を変えるためのものであること」としています。
FDA defines a cosmetic as a product (excluding pure soap) intended to be applied to the human body for cleansing, beautifying, promoting attractiveness, or altering the appearance.
(https://www.fda.gov/industry/regulated-products/cosmetics-overview)
その化粧品をもうすこし細かく分類してみます。製品評価技術基盤機構では、化粧品を次の6種類に分類しています。
- フレグランス化粧品(香水、オーデコロンなど)
- スキンケア化粧品(洗顔料、メーク落とし、化粧水、美容液、乳液、美白、日焼け止めなど)
- メーキャップ化粧品(口紅、アイシャドウ、頬紅など)
- ヘアケア化粧品(シャンプー、リンス、トリートメント、整髪料、パーマ剤、染色・脱色、育毛製品など)
- 歯磨き剤
- ボディケア化粧品(ボディシャンプー、ハンドソープ、デオドラント製品、入浴剤など)
実は化粧品の税番(H.S. Code)もこの分類に準じています。
税番は6桁の数字で成り立っていて、世界共通となっているのですが、最初の2桁が「類」、次の2桁が「項」、次の2桁を「号」として構成されています。
ちなみに化粧品は第33類「精油、レジノイド、調製香料及び化粧品類」に分類されていますので、先ほどご紹介した6種類の化粧品の税番の頭2桁は「33」となります。そして次の2桁「項」で次のように分けています。
- 03:フレグランス化粧品
- 04:スキンケア化粧品とメーキャップ化粧品
- 05:ヘアケア用品
- 06:歯磨き剤
- 07:ボディケア化粧品
さらに商品ごとの区分けは「号」によって行われます。例えばアイシャドウと口紅。どちらもメークアップ化粧品なので「33.04」ですが号まで見ると次のようになります。
- 10:唇のメーキャップ用品
- 20:眼のメーキャップ用品
- 30:マニキュア用又は、ペディキュア用の調製品
- 91:パウダー(おしろいなど)
- 99:その他のもの(化粧下、乳液など)
ちなみに洗顔クリームは33.04ですが、皮膚そのものを洗浄する目的の洗顔クリームは、同じ化粧品の仲間ではあっても、第34類「せっけんや洗剤、ろう、ワックスなどの製品」に含まれ、H.S. Codeも34.01となります。
一般化粧品とOTC医薬品
一般的に化粧品と思われている物には、「Cosmetics(一般化粧品)」「OTC Drug(OTC医薬品)」があります。OTC Drugを効能のある化粧品とか、医薬部外品の一種と思っておられる方が結構多いようですが、そうではありません。OTC Drugとは医師の処方箋が不要で、薬局や薬店の対面販売(Over the Counter)で購入可能な医薬品のことを指します。日本の薬機法でも、医師による処方箋が必要な薬を「医療用医薬品」、OTC Drugを「一般用医薬品」と呼んで分けています。
FDAではOTC医薬品については、その治療薬の種類と有効な成分を厳格に定めています。その有効成分の条件を定めた公的な承認基準のことを「モノグラフ」と呼びますが、連邦規則集に各治療薬別に掲載されています。現在、整腸剤や下痢止め、吐気止め、睡眠薬、目薬、虫歯予防剤などの有効成分について、20種類のモノグラフが公示されています。
例えば歯磨き粉。通常の歯磨き粉は化粧品の仲間(H.S. Code:3306.10)ですが、フッ素が含まれているものはOTC Drugとなります。シャンプーについても、育毛効果のあるシャンプーは化粧品ではなくOTC Drugとなります。後ほど述べますが、化粧品とOTC Drugでは、FDA認証の手続きが全く異なりますので、注意が必要です。
FDAは成分以外に、製品ラベルに書かれている文言(CLAIMといいます)についても規定しています。例えば一般化粧品に次のような文言を書くとOTC Drugとみなされます。
- Age spot elimination (シミ・そばかすを消す)
- Wrinkle reduction/erasure (しわをなくす)
- Collagen building (コラーゲン生成)
- Cellular renewal (細胞若返り)
- Circulation increase (血行を良くする)
- Elimination of puffiness (むくみをとる)
- Whitening of skin (お肌の美白)
- Skin repair (お肌の修復)
- Stretch mark reduction (妊娠線、肉割れをなくす)
- Hair growth (発毛、育毛)
- Sun damage treatment(日焼け対策)
化粧品のFDA認証の手順
食品のFDA認証では、
- 製造施設の登録
- 米国代理人の登録
- 成分チェック
- 製品ラベルの英語化
といった業務が必要でした。
しかし一般化粧品のFDA認証では、①の製造施設の登録と②の米国代理人の登録は不要となります。成分のチェックとFDAの定めに則した英語の製品ラベルを作成すればいいことになっています。
そのため、まず準備する書類は、
・英語化された成分リスト
・英語化された製品ラベルのデータ
の2種類です。
成分のチェックでは、成分そのものの可否だけではなく表示方法についてもチェックを行います。基本的にはINCIと呼ばれる国際命名法ルールに基づいた化粧品成分の国際的表示名称を使います。ここに記載のない成分が使われている場合には認証が下りないケースがあるので注意してください。また着色料を使用されている場合には別途注意が必要です。特にメークアップ化粧品の場合、日本では許可されていても米国では許可されていない着色料が多々あります。
英語化された製品ラベルは、下記の手順で準備を行います。
- その製品のラベルをいったん英語に翻訳する
- そのラベルをイラストレータ形式で保存する
- そのラベルに対して専門家が評価を行う
ラベル評価は米国の専門家が行います。ラベルのデータをイラストレータ形式でご用意いただくのは、このラベル評価のプロセスで、オリジナルのラベルデータを基にして修正を加えていくためです。化粧品のラベルでは、PDP(Principal Display Panel)と呼ばれる最も目に付くラベル面に関する規制がたくさんあります。消費者が最も目にするという理由から、消費者が誤解しないことを目的としています。たとえば、その商品がそもそも何か、また内容量の表示方法や単位、文字の大きさにまで規定があり、ラベル評価の専門家がルールに適合したラベルに修正します。
そうした専門家の評価を経て、概ね3~4週間程度で認証作業は終了し、FDAのルールに即した形に修正されたラベルとその修正内容を詳細に記したレポートを受け取ることができます。
このようなプロセスで作成したラベルは、FDAのルールに変更がない限り、使い続けることができます。定期的な更新といった作業は必要ありません。期限のないパスポートのようなものなので、米国に展開する際には必ず受けておきたいものです。
中川泰
越境EC総研合同会社(CBEC Reserach Insutitute LLC)CEO