中川さんのこれまでなさってきたお仕事や現在のお仕事について教えてください。
1985年に大学卒業後、近鉄航空貨物、現在の近鉄エクスプレスという会社に入社し、輸出航空貨物の営業を約3年間、輸入航空貨物の営業を10年間ほど担当しました。近鉄エクスプレスでは航空貨物の営業をするわけですが、私はそれだけではなく、お客様の実際の取引に深くかかわるような営業を得意としていました。
輸入部門に異動してすぐの1990年、ある大手書籍販売会社様の物流センターを日・米・英にアウトソーシングするという案件を受注しました。そのお客様が日本の自社施設で行っていた業務を近鉄エクスプレスで受託するというものです。結局、近鉄を退職するまでの7年にわたってかかわらせていただきました。まだアウトソーシングという言葉もまだない中で、海外に物流センターを移管し同時に立ち上げるということで、なかなかシビレル経験の毎日でした。取り扱っている雑誌も学術専門誌なので、私はもちろん、海外の現場で働くメンバーでさえ読めないような単語ばかり。当時は今ほどサーバーやインターネットの回線などのインフラが整備されていなくて、受注データを海外に送るのに電話回線を使って一晩がかり、なんてこともしょっちゅうでした(笑)。
ある医療機器メーカーへの倉庫の提案では、EXCELで作成した在庫データをインターネット上にあげておき、営業マンが携帯で在庫を確認しながら販売し、お客様の元から注文データも携帯で送ってすぐに出荷をかけるという仕組みを提案しました。システム会社の友人が手を貸してくれて、簡単なデモまで作って提案しました。1996年頃だったと思います。今なら特に珍しくもない話ですが、なんせWindows95が発売されたばかりの1996年ではあまりに斬新すぎたようで、お客様も近鉄側もほとんど誰にも理解してもらえず、会議室にとても寒い空気が流れてしまったのが忘れられません。倉庫の案件は無事受注したのですが、この斬新すぎる仕組みはお蔵入りの羽目となりました(涙)。
昭和の最後から平成の初めにかけて、いろいろなものが変わっていく時期でした。ワープロがパソコンに変わり、テレックスがメールに、そしてポケベルも携帯電話に変わっていき、ビジネスのやり方が激変するまさにそんな中で、近鉄で働かせていただいたことは、その後の物流マンとしての自分にとって何ものにも代えられない貴重な実体験でした。
そうして、1998年1月に近鉄エクスプレス社を退職しました。
始めは物流コンサルで食っていこうなんて考えていましたが、とても食べていけそうもなく、みるみるうちに貯金もなくなっていってしまったので、すぐに実物流の取扱いを始めました。すると物流の女神さまのほんの気まぐれかわかりませんが、あるパソコンソフト会社様と印刷会社様から仕事をいただくことができました。その仕事こそ、今でいうところのネット通販の3PL事業です。 銀座3丁目の崩れそうなビルの5階の28坪に商品を預かって、来る日も来る日も梱包して発送をしていました。ありがたいことにその2社のお客様がものすごい勢いで成長されたこともあって、最盛期には月間で4万件以上出荷していたと思います。当時は、佐川急便の東京店さんにお世話になっていましたが、まだ複写式の伝票をドットプリンターで打ち出し(!)佐川のドライバーさんが赤マジックで店番を書いて出荷していたころです。しかしさすがに1日の出荷件数が2000件を超えてくるとその店番書きが担当のドライバーさんだけでは間に合わず、銀座中の佐川のドライバーさんが応援で集まって、店番を書いてくれていました。1階に続くビルのらせん状の階段に梱包した箱が積み上げられ、その階段に縞シャツのお兄さんが並んで必死に店番を書いてくれていた姿はなかなか感動ものの風景でした。
その急成長していたお客様の社長から、物流業者として何かひとつ、あっと驚くようなサービスを開発してくれないかといわれて、毎日1件、一番近くのお届け先に私が届けに行くという、即日配送サービスを提案しました。1か月だけの期間限定サービスです。
昼の締め時間にダウンロードした受注データの中から銀座から電車で行ける範囲のお客様の注文を選んで、私自身が持っていくわけです。なるべくその日の午前中に入った注文の中から選んでランチのついでにお届けしていました。お届けすると、ほとんどの人はあまり感激もせず、まあ普通に受け取ってくれます。でもその方も1時間くらいすると、今朝注文した商品がもう届いたことに気が付くわけです。そうすると誰かに言いたくなるのが人情で、そのお客様のサイトのユーザーの声というページにこんな風に書き込んでくれるのです。 “早い、早いとは聞いていましたが、本当に早くてびっくりしました!”
2013年には、越境EC向けの3PL事業の会社を起業しました。Amazonの個人セラー様を中心に800社以上、取り扱わせていただいたかと思います。そんな中、中東のある女性宛の注文がありました。裏原宿系のド派手なタイツだったと思いますが、出荷後、2週間もしないうちに住所不備で返送されてきてしまいました。それはそうです。住所が間違っていたようでした。そこでメールで住所を確認してもらうと、なんとそのお客様は王女さまだったのです。送られた住所を見ると、やっぱりそれらしい住所で、建物名はたしかにPalaceでした。宮殿へ再度発送して事なきを得ましたが、今考えると相当危ない感じですよね(笑)
そうして2017年、今の越境EC総研という会社をつくり、FDA認証取得とコンサルティングを中心に行っています。JETROの「新輸出大国コンソーシアム」のパートナーも拝命し、中小企業の海外展開のサポートを行っています。近鉄エクスプレスで培った国際貿易やアウトソーシングの経験、その後に起業した会社での3PL事業の経験を総動員して、今のコンサルの仕事とFDA認証の仕事をしていますが、いろいろなお客様の展開を支援すればするほど、これまでの経験でなに一つ無駄なものはなかったなあと思います。
中川さんの目から見て、越境ECや海外進出ってどう思いますか?
越境ECで海外展開を検討されるお客様は、日本の国内ECの延長線上考える傾向が強く、貿易というとらえ方をされないお客様が多いように感じます。越境ECといっても、貿易であることにはかわりはなく、国内のE-Commerceの延長線上で考えて安易に進出するとさまざまなトラブルに巻き込まれます。実際、越境ECのトラブルの70%は物流途上にあるといわれていますので、ロジスティック周りの体制を事前に固めておくことが重要です。
そこでまず、何を(商品)、どこの国の(対象国)、誰に(ターゲット)、どこで(サイトや販売店)、どれだけ(目標売上)、いつまで売るか(期間や撤退の条件)といったことを具体的にイメージすることをおすすめします。特に注意することは商品と国をまず固めるという点ですが、その際に対象製品や自社のブランドの海外でのポジショニングについては厳しめに見ることが重要です。そうして調査しながら戦略を固めていく中で、
①輸入規制の調査及び各種認証取得(FDA、商標権の調査)
②国際物流に関する貿易実務
③海外での実際の販路開拓(Amazon 等の大手ECモールへの出店)
④各国での販促支援及びフリーメディアを活用したマーケティング
という手順を踏みながら、海外へ展開するということをより具体的に固めていきます。
但し、これはそう簡単なことではありません。実はここに、飛躍さんや私の活躍する場があるわけです。
どうして顧問を引き受けようと思われたのですか?
越境ECには、ロジ(物流、認証)、サイト(販売サイト)、販促(ポジショニングの向上)という3つのキーデバイスがあると思います。私はその中のロジが専門ですが、ロジだけではお客様を海外に導いてあげることはできませんし、成功もままなりません。ロジは越境ECにおける重要なキーデバイスの一つではありますが、ほかにも重要なパーツとともに機能してはじめて越境ECは成功へとつながっていきます。
飛躍さんの顧問を引き受けたのは、明石社長がその点をご理解いただいているからです。自分の会社にない部分を補完してほしいといってくださったからです。そう言ってくださったので、私は自分の知っている知識やノウハウはすべてさらけ出そう、そう思って飛躍さんに参加することを決めました。
中川さんが飛躍社と共同で実現したいと思っていることはありますか?
海外展開を成功させるためには、初期の段階で大失敗しないことが重要です。海外展開には時間もお金もかかりますので、少なくとも2,3年は続けていかなければいけません。その意味で、私の役割は、
・物流の仕組みづくり
・FDAのような認証実務
・関税やVATのような税回り
といったように、越境ECのスタートアップにおける基礎工事を手伝い、お客様が安心してチャレンジできる体制を構築することです。そうした体制を作っておけば、あとは飛躍さんの優秀なメンバーがそのお客様をちゃんと成功に導いてくださると考えています。
最後に、EC事業をしている全ての事業者様に一言お願いします!
日本の製品は海外で大変人気があります。また海外の人やバイヤーも日本の製品をよく知っていますが、何もしなければ売れません。
海外展開において何より大事なことは、お客様の製品のポジショニングを確立することだと考えています。その国の消費者に知ってもらえなければ、残念ながらその商品は売れません。でも売れないからと言って違う商品を投入したり、別の国へと展開しようとしたりしてはいつまでたっても成功しません。これが3つ目のキーデバイス「販促(ポジショニングの向上)」です。
ライバル商品との差別化は何か、価格と品質のバランスはとれているか、カスタマーサポートの体制はどうとるのか、ネーミングやパッケージは問題ないか、また納品だけではなく返品などの物流やコストなどはどうかといった課題をきちんと解決しながら、まずはその国でのポジショニング(認知度)を上げることに専念するような戦術を立てていきます。
海外にいこうと思った時、まずは飛躍にお電話ください。飛躍のスタッフは成功のためのレシピを用意し、儲かるための方程式と負けないための定石を提案します。
たまたまうまくいったなんて奇跡がそうは起きないものです。
中川泰
越境EC総研合同会社(CBEC Reserach Insutitute LLC)CEO
外部リンク:越境EC総研合同会社(CBEC Reserach Insutitute LLC)
※所属、業務内容は取材当時の内容となります。