導入
この記事は2024年07月03日(水)に開催された「Japan Marketing Week 2024夏」のShopify Japanブース内で行ったセッション「Shopify Plusで実現する越境ECサイトのベストプラクティス」を記事化したものです。
記事化することにより、当日ご参加いただけなかった皆様にも当サービスを知っていただき、より多くの方にサービスを届けたいという趣旨となっております。
当日は、弊社代表の明石が登壇し、越境ECサイトの立ち上げから運用まで解説しましたが、記事としてみなさんが読みやすいように一部改変をしています。
弊社は越境ECに関して多くの実績がございますので、越境ECについて相談したい、少しでも越境ECに興味がある方は是非本ブログ下部の問い合わせフォームよりお問い合わせください。
目次
登壇者紹介
株式会社飛躍 代表取締役社長 明石健夫
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2004年の自社EC黎明期からEC業界で経験を積み、コンサル件数1000件以上。
現在プロジェクトリーダーとして運用支援中のECサイトの月商合計1億円以上。
お客様のやる気を着火します。
はじめに
率直に言えば、越境ECは非常に難しい分野です。
私たちはこの分野で7年以上支援してきましたが、「こうすれば絶対に成功する」といった確実な方法はなく、状況に応じて対応が変わるケースバイケースの領域です。
越境ECを取り巻く市場
上記の図にある通り、英語が多く使われていることがわかります。越境ECに取り組んでいる方なら、国ごとのコンバージョン率や流入データを見ると、アメリカをはじめ越境ECが大きな市場であることが確認できます。
にわかに信じ難いですが、2021年〜2031年の10年間で市場規模は10倍に達するとも予測されています。
また、皆さんご存知の通り、現在円安が進んでおり外国の方にとって日本の商品は安価なものとして扱われています。
右のグラフから分かる通り、訪日外国人の年間旅行消費金額は2023年に過去最高を記録しています。
この数値からも分かる通り、インバウンド需要が非常に伸びており、実店舗で購入した商品を帰国後も購入できるようにと、越境ECの導入を検討する方が増えています。
Shopifyでやる理由
上記スライドでは越境ECをShopifyで行う理由について紹介していますが、その中でもいくつか重要なポイントをピックアップします。
ユーザー数約1億人のShop Payが利用可能
Shop Payは日本ではあまり語られていないですが、海外では頻繁に使用されている便利な決済方法です。
Shop Payは決済情報を登録することができるサービスで、全世界で1億人のユーザーがいます。一度Shop Payを利用すると、利用したストア以外でもShopifyで構築されたストアであればどのストアでも再度決済情報を入力する必要がなく、スムーズな決済が可能です。
CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)
CDNは、世界中に分散された多くのサーバーを使って、ユーザーに最も近い場所からデータを届ける仕組みです。たとえば、日本にいる人がアメリカにあるウェブサイトにアクセスした場合でも、CDNが日本近くのサーバーからコンテンツを配信してくれるので、より速くウェブページが表示されます。これが無い場合はアメリカのサーバーから情報を取って来ることになるので、表示が遅くなるというわけです。
自社でCDNを導入するのは非常に高額でハードルが高いですが、ShopifyがCDNサービスを導入してくれているので、Shopifyを利用して越境ECを行うマーチャントはこのテクノロジーの便益を最大限に活かすことが出来ます。
多言語対応
Shopifyは多言語に対応しているため、世界中のユーザーに最適な言語でサイトを表示でき、国ごとの市場に合わせたアプローチが可能です。
またブラウザの言語設定やIPアドレスに基づいてユーザーに適した言語を自動表示できるため、シームレスなサイトを提供できます。
越境ECの成長モデルケース
越境ECを成功させるためには、まず小規模な試みから始めることが効果的です。以下では、3つの成長段階に分けたアプローチをご紹介します。
第一フェーズ:越境EC立ち上げ期
最初に、すでに国内外でインバウンド集客ができており、オフライン認知がある事業者様はShopifyを使って越境ECをスタートすることをおすすめします。モール型ECに出店してしまうと、偏った地域にしか展開できず、せっかくのインバウンド需要を活かせない、宝の持ち腐れになります。(例: 店舗には北米以外の人も来るのに、amazon = 北米 になってしまう)
一方で「海外認知はないんだけど越境ECをやりたい」という方もおられると思います。この場合にShopifyを立ち上げてしまうと集客に行き詰まる事態になります。まずは、マーケットプレイスなど購入の検討層が集まっているモール型ECや海外のクラウドファンディングサイトでテスト販売を行い、徐々に市場に浸透させた後にShopifyで自社ECを構築することが効果的です。
第二フェーズ:越境ECを起点にさらなる成長を目指す
越境ECの売上が順調に伸びてきて、利益が出てきた際には次のステップに進んでさらなる売上拡大を狙うことが重要です。ここでは、さらなる成長を支える具体的な戦略をいくつかご紹介いたします。
BtoBへのシフト
越境ECは物理的な距離があるため、国内と同じように売り上げを伸ばすことは難しいです。
そこでBtoBへのシフトが鍵になっています。
まず越境ECから初めて安定してきた頃に、BtoBへシフトし、BtoBの大きな売り上げを狙います。実際にこのようなステップを行っている事業者様は多く見受けられます。
現地法人
現地法人を設立することで、ローカルなマーケティング活動が可能になり、顧客とのつながりが強化されます。特に注力すべき国を選定し、その国にリソースを集中させることが成功のカギです。
第三フェーズ:最注力国以外の市場を順次開拓
現地法人の設立が理想的ですが、すべての国に法人を設立するのは現実的に難しい場合もあります。
そのような場合は、Global-eの活用が非常に有効です。
Global-eは、世界200以上の国や地域に対応し、現地言語による決済画面の表示や100以上の通貨対応を実現します。また、関税・税金の計算と前払い対応、さらには150以上の決済方法に対応するなど、シームレスなローカライズEコマースサービスを提供します。これにより、現地法人を設立しなくても、ローカライズや支払いといった海外展開の課題を効果的に解決し、スムーズに海外市場への拡大をサポートします。
Shopifyで越境ECを構築するときの選択肢
越境ECを行う上でクライアント様からよく聞かれることは「1つのサイトで日本国内と海外のECを運用する」のか、「複数のサイトに分けて運用する」のか、という点です。
この選択は、事業規模や目指す売上によって決まりますが、ほとんどの場合は「1つのサイト」で十分運用できます。
ですが、売上が数百万円から数千万円規模を目指すような事業展開を考えている場合は、複数のサイトを運用する選択肢も検討するべきでしょう。それぞれの運用法について紹介します。
日本国内と海外ECを分けずに1つのサイトで運用
Shopifyでは、サブディレクトリの追加により、以前はできなかった、ブラウザの言語設定やIPアドレスに基づいて、ユーザーが自動的に適切な言語ページにリダイレクトされる仕組みをコーディングなしで実装できます。
日本から流入した場合:xxx.comの日本語ページ
国外から流入した場合:xxx.com/enの英語ページ
※サブディレクトリ:
上記URLの「/en」にあたる。ウェブサイトの中で特定のカテゴリーや機能を分けるために使われます。(PCのフォルダー構造に似ている)
更に今までは言語の出し分け程度だったのですが、ロケーションごとにセクションを設定することで、バナーやコンテンツを地域ごとに表示することも可能になりました。
上記画像は同じストアのTOPページですが、左のJPページは「メッセージ」のセクションが表示され、右のENページでは「新着商品」のセクションが表示されています。
昔は「ストアを分けるのがベストです!」とは言ってたものの、この点のみ(複数ストアには多くのメリットがある)で考えると1サイトで自由なカスタマイズ運用ができる環境になってきました。
日本国内と海外ECを分けて、2つ以上のサイトで運用
「グローバルでの売り上げが大きい」「グローバルに支社がある」「国内ECが高度にカスタマイズされている」ようなサイトは分けて運用することをお勧めします。
サイトを分けることで、地域ごとの商品ラインナップやニーズに柔軟に対応でき、ストアごとのマーケティングやサポート体制を強化しつつ、各市場に最適化された販売戦略を展開することが可能になります。
また、Shopifyには、異なる言語や地域向けにURLを検索エンジンに知らせるhreflangタグを自動で挿入してくれる機能があります。これにより、日本語を使うユーザーが日本向けサイトに、英語を使うユーザーがグローバルサイトに自動で誘導されやすくなります。
一方で運用上の注意点もあります。
Shopifyサイトの運用はノーコードでできるが故に、気軽にサイトをいじりがちになり、国内と越境の差分がでてしまいがちです。
こういう場合に備えて、「フロント担当者はここまでしか変更してはいけない」などルールを定めることも必要になります。
また、マーケティングツールや各種アプリの費用がShopifyアカウントの数だけかかります。
通常の国内ECと実装面で異なる点
非言語コンテンツの充実
多くの人が「多言語対応が重要」と言いますが、すべての国の言語に完璧に対応するのは至難の業です。
ここで注目したいのが、非言語コンテンツです。
製品の魅力や、どのように作られているのかを動画や写真で伝えることで、言葉が通じなくてもその製品のストーリーやブランドイメージがユーザーに届きます。
ライブチャット機能の導入
ECサイト運営で無視できないのが、ユーザーがカートに商品を入れたまま離脱する現象です。
なぜそのタイミングで購入を諦めてしまうのか?この答えを探るために、ライブチャットが有効です。
チェックアウト画面で悩んでいるユーザーに、画面にポップアップで「何かお困りですか?」とリアルタイムでサポートを提供することで、ユーザーの疑問や不安をその場で解消し、購入の後押しができます。
さらに、単なるデータ分析では見えない「なぜ」離脱するのかという理由を、直接ユーザーから聞き出すことができる、これこそがライブチャットの最大の魅力です。
SDGsへの取り組み
今注目すべきなのが、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みです。特にヨーロッパの市場では、環境への配慮がユーザーの購買意欲に大きく影響しています。「エコであること」は単なるトレンドではなく、ブランドの信頼性を左右する要素となっています。
あなたのブランドがどのように環境に配慮しているのかをアピールすることで、ユーザーに「このブランドなら信頼できる」と思ってもらえるでしょう。
Webアクセシビリティへの配慮
Webアクセシビリティは、すべての人が年齢や障害の有無にかかわらず、Webコンテンツやサービスを平等に利用できるようにするための取り組みです。しかし、完全なアクセシビリティ対応を実現するには、コストや時間がかかるのも事実です。
そこで、まずは「こういう取り組みをしています!」というページを1枚用意するだけでも大きな効果を発揮します。このページは、企業がユーザーに対して配慮している姿勢を示すものであり、ブランドの信頼感を高めると同時に、ユーザーに安心感を与えます。
特にグローバルなサイトでは、アクセシビリティへの対応が広く配慮されています。
Shopify Plusにすべき企業
以下の2つ以上該当する場合は越境EC展開においてPlusを利用することを推奨します。
- 北米に法人がある。
- 社内にエンジニアチームがある。
- 国内越境トータルで月商1500万程度になっている、または見込める。
- 国内、越境など今後ShopifyをECビジネスの主軸として活用し、複数のサイトを構築する予定。
- 特定の国やマーケットに対してトップレベルドメインを利用したSEOを行いたい。
- サブフォルダ(ディレクトリ)で4つ以上の対象マーケットを作成して展開したい。
- 自社専用の各種カスタマイズが運用上不可欠。
- BtoB、POSの利用意向がある。
長期的に海外展開を成功させるために
最後に、海外展開をするうえで最も重要だと思うことを3つ言わせてください。
越境ECはテストマーケティング
越境ECは物理的距離があるため、テストマーケティングの域を出ないと思っています。
本気でやるのであれば、BtoBや現地法人を立ち上げて活動することが必要だと思います。
全ての企業がそうだとは言わないですが、越境ECでテストマーケティングをして、その後BtoBを狙うなど、長期的な視点で考える必要があります。
海外チームの組成
ECチームには、英語を話せるスタッフや、場合によってはネイティブの外国人を揃えることが大切です。これにより、現地の文化や商習慣を理解した運営が可能になります。また、現地のベンダーと協力してマーケティングを進めることを意識しましょう。
ブランディングが重要
最後に、越境を始める理由が「今、円安だから売れる」だと、長続きしないと思っています。
「市場にフォローの風が吹いている」のは間違いないですが、「円高になった時」に長期的に続かないという事態になりかねません。
それよりも大切なことは「ユーザーにとっての価値を創造する」ことです。
注力する国に対して、「美味しく食べてもらいたい」「満足してもらえる商材を届けたい」など、そういった細部まで気を配り、現地市場でのブランド力を構築することが、長期的な成功に繋がると思っています。
まとめ
ストアのカスタマイズや取引を効率よく運営することも大事ですが、越境ECで成功を収めるためには、単に商品を販売するだけでは不十分です。
現地市場に合わせた戦略や効果的なブランディングが必要です。
市場のニーズや文化を理解し、ユーザーにとっての価値をしっかりと伝えることで、信頼を得ていきましょう。
今回は事例ベースでの説明ではありませんでしたが、具体的な事例や成功事例についてご興味がございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。皆さまのビジネスに合わせた越境ECの戦略立案をサポートいたします。