商品の売上が伸び悩んだとき、多くの企業では新商品、広告、販路、キャンペーンといった施策が検討されます。
もちろん、どれも必要な選択肢です。
一方で、新しい商品を作ったり広告費を増やしたりする前に、改めて考えてみる価値がある問いがあります。
今ある商品には、現在とは別の使われ方がないだろうか。
顧客がその商品を必要とする場面を、十分に捉えられているだろうか。
前者を考える代表的な方法が「用途開発」であり、後者を整理する考え方の一つが「Category Entry Point(CEP)」です。
どちらも、現在とは異なる顧客や購入機会を獲得するために使われるため、似た概念に見えます。
しかし、用途開発は商品を起点に考え、CEPは顧客の状況を起点に考えるという違いがあります。
今回は、用途開発とCEPがそれぞれ何を意味するのか、企業のどのような課題に対して使われるのか、そして両者を実務上どのように接続するのかを整理します。
用途開発とは、商品が役に立つ場面を増やすこと
用途開発とは、既存の商品、原料、技術、サービスについて、これまでとは異なる使用目的や提供価値を見いだす取り組みです。
用途開発と聞くと、新しい商品を開発することを想像する人もいるかもしれません。
しかし、必ずしも新商品をゼロから作る必要はありません。
例えば、次のような取り組みも用途開発に含まれます。
- 既存商品の新しい使い方を提案する
- 商品の容量や形状を変える
- 複数の商品を組み合わせて販売する
- 法人向けの商品を個人向けに展開する
- プロ向けの商品を家庭でも使えるようにする
- 利用する時間、場所、顧客層を変える
- 商品の見せ方や販売チャネルを変える
用途開発の本質は、商品そのものを増やすことではありません。
既存の商品が選ばれる顧客、利用場面、購入理由を増やすことにあります。
抹茶は、用途開発によって登場する場面を増やしてきた
分かりやすい例が抹茶です。
抹茶は、もともと茶として飲むことを中心に発展してきました。
そこから、
- 抹茶ラテ
- 抹茶アイス
- 抹茶を使った菓子
- パンやケーキに使う製菓原料
- プロテインや健康飲料との組み合わせ
- ギフトや自宅用の体験セット
など、さまざまな用途へ広がっていき、マーケットの裾野を拡大しています。
同じ抹茶という原料でも、「茶として飲むもの」としてだけ扱う場合と、飲料、菓子、ギフト、体験へ展開する場合では、購入する顧客も、購入理由も、購入するタイミングも変わります。
用途が増えることで、商品が顧客の生活に登場できる機会も増えていきます。
ポータブル電源も、非常用品だけではない
食品以外の例として、ポータブル電源を考えてみます。
ポータブル電源は、災害時や停電時の非常用電源として認識されやすい商品です。
しかし、機能を起点に用途を整理すると、ほかにも多くの使い方が考えられます。
- キャンプで照明や調理家電を使う
- 車中泊で電気毛布や小型冷蔵庫を動かす
- 屋外イベントや撮影で機材を充電する
- 建設現場や屋外作業で電動工具を使う
- 停電時にも在宅勤務を継続する
- 太陽光パネルと組み合わせて電力を確保する
商品の基本機能は、電気を蓄えて必要な場所で使えることです。
しかし、どの用途を中心に提案するかによって、対象顧客も商品ページの内容も広告のメッセージも変わります。
「大容量バッテリーを搭載しています」と説明するだけでは、顧客は自分に必要な商品だと判断できないかもしれません。
一方で、
冬の車中泊でも、電気毛布を朝まで使える
と具体的な用途を示せば、該当する顧客にとっての価値は急に分かりやすくなります。
用途開発は、どのような課題に使われるのか
用途開発は、例えば次のような課題を抱える企業で検討されます。
- 主力商品の売上が頭打ちになっている
- 特定の顧客層に売上が偏っている
- 特定の季節やイベントへの依存が強い
- 購入頻度が低く、次の購入までの期間が長い
- 高い技術や品質を持っているが、用途が限定されている
- 新商品を一から開発するほどの投資は難しい
- 既存商品を別の業界や販売チャネルへ展開したい
- 顧客に商品の価値が十分伝わっていない
用途開発は、単に「別の使い方を考えるアイデア会議」ではありません。
現在の売上が、特定の顧客、用途、季節、購入理由だけに依存していないかを見直す活動でもあります。
CEPとは、顧客の中で需要が立ち上がる入口である
Category Entry Pointとは、顧客が特定の目的、欲求、問題、状況に直面したとき、ある商品カテゴリーやブランドを思い出す入口です。
日本語では「カテゴリーへの入口」や「想起のきっかけ」といった表現が近いでしょう。
ただし、CEPは単純な商品の使用方法ではありません。
顧客の中で、
- 何かをしたい
- 何かに困っている
- こういう時間を過ごしたい
- このような相手に贈りたい
という需要が生まれる状況を捉える考え方です。
抹茶や日本茶のCEP
抹茶や日本茶に関するCEPとしては、例えば次のようなものが考えられます。
- 京都らしい手土産を探している
- 来客に上質な飲み物を出したい
- 自宅で少し特別な時間を過ごしたい
- 海外の友人へ日本らしいものを贈りたい
- 抹茶を使ったお菓子を作りたい
- 旅行先で体験した味をもう一度楽しみたい
- 午後に甘い飲み物を飲んで気分転換したい
企業から見ると、これらはすべて抹茶や日本茶を購入してもらえる可能性のある場面です。
しかし、顧客から見ると、最初から「抹茶を買おう」と考えているとは限りません。
例えば「来客をもてなしたい」という状況では、顧客は日本茶だけでなく、コーヒー、紅茶、菓子、食器なども候補にします。
つまりCEPでは、その場面で需要が発生することに加えて、その瞬間にどの商品カテゴリーが想起されるかが重要になります。
さらに、カテゴリーが想起された後、どのブランドが候補に入るかという競争もあります。
ポータブル電源のCEP
ポータブル電源であれば、次のような状況がCEPになり得ます。
- 台風や大雪が近づいている
- キャンプの準備をしている
- 冬の車中泊で電気毛布を使いたい
- 屋外で長時間撮影をする
- 停電時にも仕事を止めたくない
- 電源がない場所で工具を使いたい
- 防災用品を見直している
「電気毛布に使える」というのは用途です。
一方で、
冬の車中泊を、寒さを気にせず快適に過ごしたい
というのは顧客側の状況であり、CEPです。
同じ商品について話していても、商品側から見ているのか、顧客側から見ているのかによって、問いの立て方が変わります。
CEPは、どのような課題に使われるのか
CEPは、例えば次のような課題を抱える企業で検討されます。
- 商品自体は知られているが、購入候補に入りにくい
- 競合と比較される以前に、自社が思い出されていない
- 指名検索やブランド想起が弱い
- 広告が機能や価格の説明に偏っている
- 顧客がどのタイミングで商品を必要とするか整理できていない
- EC、広告、SNS、CRMで訴求内容がばらばらになっている
- 新しい顧客との接点を増やしたいが、どの需要場面を狙えばよいか分からない
- 良い商品を持っているのに、必要なときに存在を思い出してもらえない
CEPの整理によって、
誰に売るかだけではなく、顧客のどの状況に入り込むか
を具体的に考えられるようになります。
用途開発とCEPは、どこが違うのか
用途開発とCEPは、どちらも現在とは異なる購入機会を生み出すために使われます。
そのため、結果だけを見ると非常によく似ています。
違いは、問いを始める場所にあります。
用途開発は商品起点
用途開発では、商品や技術を起点に考えます。
この商品は、ほかに何に使えるだろうか。
どの顧客に、どのような価値として提供できるだろうか。
抹茶であれば、
牛乳と組み合わせて、抹茶ラテとして提供できないか。
ポータブル電源であれば、
車中泊で電気毛布を使うための商品として提案できないか。
といった問いになります。
CEPは顧客起点
CEPでは、顧客の状況や欲求を起点に考えます。
顧客は、どのような状況でこのカテゴリーを必要とするのか。
その瞬間に、自社の商品やブランドは思い出されているか。
抹茶であれば、
自宅で少し特別な飲み物を楽しみたいとき。
ポータブル電源であれば、
冬の車中泊を快適に過ごしたいとき。
という顧客側の場面から考えます。
簡単に整理すると、次のようになります。
用途開発とCEPの違い
- 用途開発は商品起点。「商品には、ほかにどのような使い道があるか」を考える
- CEPは顧客起点。「顧客は、どのような状況でその商品カテゴリーやブランドを必要とするか」を考える
- 用途開発は提供できる価値を整理し、CEPは需要が発生する文脈を整理する
両者は似ていますが、同じものではありません。
用途を作るだけでは、顧客の選択肢には入らない
用途開発によって新しい使い方を考えれば、自動的に売上が増えるわけではありません。
企業が「このようにも使えます」と提案しても、顧客側が、
- その使い方を知らない
- 自分に必要な商品だと理解できない
- 使用場面を具体的に想像できない
- いつ購入すればよいか分からない
- 競合商品との違いが分からない
という状態であれば、購入にはつながりません。
企業が用途を作ることと、顧客の中に需要や想起が形成されることは別の話です。
新しい用途を売上へつなげるには、次の流れが必要になります。
新しい用途を売上へつなげる流れ
- 新しい用途を考える
- その用途を必要とする顧客の状況を特定する
- その状況と商品・ブランドを結びつける
- EC、広告、SNS、CRMなどの顧客接点で繰り返し伝える
例えばポータブル電源を「災害対策用品」としてだけ販売する場合と、
冬の車中泊で、電気毛布を朝まで使える
と伝える場合では、対象となる顧客も商品ページの構成も広告表現も異なります。
前者では容量や防災性能が重視されるかもしれません。
後者では、
- 電気毛布を何時間使用できるか
- 低温環境でも利用できるか
- 車内に置ける大きさか
- 就寝中に音が気にならないか
- 朝までバッテリーが持つか
といった情報が重要になります。
用途開発によって生まれた価値は、顧客が必要性を感じる具体的な状況と結びついて初めて、購入機会へ変わります。
CEPから考えると、商品や施策に不足しているものが見えてくる
用途開発からCEPを考えるだけでなく、CEPから商品や用途へ逆算することもできます。
例えば、
冬の車中泊を快適に過ごしたい
というCEPを狙うとします。
その場合、顧客が求めているのは、単に容量の大きなバッテリーではありません。
- 電気毛布を朝まで使える
- 低温環境でも性能が落ちにくい
- 車内で邪魔にならない
- 持ち運びやすい
- 就寝中も静かに使用できる
- 初めてでも簡単に設定できる
といった、具体的な商品要件が見えてきます。
また、商品自体を変更しなくても、
- 使用時間のシミュレーションを掲載する
- 車中泊向けの商品セットを作る
- 電気毛布との組み合わせを紹介する
- 冬季の広告表現を変更する
- 車中泊に関するコンテンツを制作する
といった施策が考えられます。
抹茶であれば、
忙しい朝でも、上質な抹茶ラテを飲みたい
というCEPから、次のような要件を逆算できます。
- 短時間で作れる
- 1回分の量が分かりやすい
- 牛乳と混ざりやすい
- 茶筅がなくても作れる
- 苦味と甘味のバランスがよい
- 作り方が商品ページで分かりやすく説明されている
その結果、
- 個包装にする
- ラテ向けのブレンドを用意する
- シェイカーや道具と組み合わせる
- 作り方の動画を用意する
- 朝の利用場面を広告やSNSで伝える
といった商品・体験設計につながります。
このように、用途開発とCEPは、どちらかを一度決めて終わるものではありません。
この商品には、どのような用途があるか。
その用途は、顧客のどの状況で必要とされるか。
その状況を取りに行くには、商品や情報に何が不足しているか。
この問いを往復しながら、商品、顧客体験、集客施策の精度を高めていきます。
既存の購入機会を強くするのか、新しい購入機会を作るのか
実務では、用途やCEPをできるだけ多く挙げればよいわけではありません。
まず確認すべきなのは、現在の課題が、
すでに存在する購入機会を十分に取れていないことなのか
それとも、
現在とは異なる購入機会を作る必要があることなのか
という点です。
既存の用途・CEPを強化する
すでに顧客から一定の認識を得ている場合は、その場面で競合より選ばれやすい状態を作ります。
例えば「京都らしい手土産」という場面で一定の認知があるブランドなら、
- ギフト商品の品ぞろえを見直す
- 贈る相手や予算から選べる導線を作る
- 包装、のし、配送日の指定を分かりやすくする
- 商品ページで産地や背景を伝える
- お中元やお歳暮の時期にCRMで想起を促す
- 検索広告やSEOコンテンツを整備する
といった改善が考えられます。
この場合、新しい用途を作ることよりも、現在存在する需要を取りこぼさないことが優先されます。
新しい用途・CEPを作る
一方で、現在の顧客や購入場面だけでは成長が難しい場合は、新しい用途や需要場面を探索します。
その際には、
- 商品仕様の変更
- 容量やセット内容の変更
- 新しい利用方法の提案
- 異なる顧客層への展開
- 新しい販売チャネルへの進出
- 顧客教育のためのコンテンツ制作
が必要になる可能性があります。
新しい購入機会を作る場合は、既存の購入機会を強化するよりも、時間と投資が必要です。
顧客がまだ知らない使い方を定着させるためには、商品を用意するだけでなく、使い方や価値を継続的に伝えなければなりません。
したがって、
今ある購入機会を取り切れていないのか。
それとも、新しい購入機会を作る必要があるのか。
を先に判断することが重要です。
企業が設定した用途やCEPは、顧客にとっての事実ではない
用途開発もCEPの整理も、多くの場合は企業側の仮説から始まります。
企業が、
自社の商品は、このように使われているはずだ。
顧客は、この場面で自社を思い出しているはずだ。
と考えるところから議論を始めること自体に問題はありません。
しかし、
- 企業が提供していると思っている価値
- 顧客が実際に感じている価値
- 企業が想定している購入理由
- 顧客が実際に購入した理由
- 企業が強いと思っているCEP
- 顧客が実際にブランドを思い出す場面
は、必ずしも一致しません。
例えば企業側は、「品質の高さが購入理由だ」と考えていても、顧客は「贈り物として失敗しにくいから」という理由で選んでいるかもしれません。
企業は「自宅での日常利用を増やしたい」と考えていても、実際には手土産やギフトとしてしか認識されていないこともあります。
そのため、用途やCEPは社内会議だけで決めるのではなく、顧客の認識や行動を定点的に確認する必要があります。
確認方法としては、
- 顧客アンケート
- 顧客インタビュー
- 購入理由のヒアリング
- 検索キーワード
- ECサイト内の検索語句
- 商品ページの閲覧行動
- 購入商品と購入時期
- レビューやSNS上で使われている言葉
- 店舗での利用目的
- 広告メッセージごとの反応
などが考えられます。
企業が設定した用途やCEPは、完成された答えではありません。
顧客接点を通じて検証し、必要に応じて修正する仮説として扱う方が、実務上は正確です。
おわりに|商品側と顧客側の議論を、各施策につなげる
用途開発とCEPを組み合わせることで、
- 既存商品を誰に売るのか
- どのような使い方を提案するのか
- 顧客がどの状況で必要性を感じるのか
- その瞬間に自社をどう思い出してもらうのか
- EC、広告、CRM、コンテンツで何を伝えるのか
を一続きで考えられるようになります。
この記事のタイトルでは「市場拡張」という言葉を使いました。
これをより実務的に言い換えるなら、
今ある商品が選ばれる顧客、利用場面、購入理由、購入タイミングを増やすこと
です。
用途開発だけでは、顧客が商品を必要とする状況まで整理できないことがあります。
一方、CEPだけでは、その需要に応えられる商品や提供方法が存在しないことがあります。
商品側と顧客側を往復しながら考えることで、商品、ECサイト、広告、CRM、コンテンツの方向性を揃えられます。
ただし、売上機会がありそうだからといって、あらゆる用途やCEPへ広がればよいわけではありません。
新しい用途や顧客場面が、ブランドの本質的な価値と一貫しているかを確認する必要があります。
次回は、フィロソフィーやブランドのCoreを起点に、用途やCEPの可能性をどのように広げ、ブランドらしい選択肢へどのように絞り込むのかを、「Core & More」という考え方とともに整理します。
「今の商品には、まだ別の使われ方があるのではないか」
「この場面で、もっと選ばれる余地があるのではないか」
そんな仮説をお持ちの方は、ぜひお問い合わせください(笑)。
弊社は商品開発そのものを専門としているわけではありませんが、用途やCEPの仮説整理から、EC、広告、CRM、コンテンツの方向性を揃えるところまで、一緒に考えられると思います。
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