はじめに
分析手法1. デシル分析
デシル分析とは
データ準備とビジュアルの作成手順
考察
分析手法2. 購買内容分析
購買内容分析とは
データ準備とビジュアルの作成手順
考察
分析手法3.購買頻度・継続期間分析
購買頻度・継続期間分析とは
データ準備とビジュアルの作成手順
考察 購買頻度分析 考察 継続期間分析
まとめ
- 自社の高LTV顧客の定義
- 現状の顧客LTVの分布と目指すべきLTVの値
- 高LTV顧客が全体の売上に占める割合
- 高LTV顧客が購入する傾向のある商品及び商品区分
- 高LTV顧客を作り出すための具体的な戦略
- 高LTV顧客への適切なアプローチ方法と頻度
- 高LTV顧客が離脱してしまう期間の閾値(しきいち)
<デシル分析とは>
“デシル”とは、ラテン語で”10等分”という意味で、顧客の累計購入金額などを元に、上位から10段階にセグメントして、各グループの売上構成比などを可視化する分析手法です。
経営の世界で、「2割の上位客が8割の売上を作っている」という話がよく出てきますが、自分達のビジネスでは全体の何割がどの程度の売上を作っているかということをこの分析手法で把握できます。
目的としては、グループ分けされた各顧客に対して、優良な施策を打つためです。全ての顧客に対して同じ施策を打つよりも、特徴を持った各顧客グループごとに施策を打つことで、効率の良いマーケティングを行うことができます。
また、一般的にLTVは許容CPAを判断するために活用されることが多いですが、その場合はあくまで平均LTVはいくらだね、くらいしか言語化しないと思います。しかしながら、例えば平均LTVをAs Isとして、To Beを設定するために、デシル分析を活用することで、どの程度のLTVを目指すのが妥当なのかという目途を付けることができます。また、全体の売上をどのグループがどのくらいの割合を占めているのか、どんな購買行動をする傾向があるのか、などを把握することができます。
<データ準備とビジュアルの作成手順>
- Shopifyの顧客データをエクスポートします。
- 顧客を累計購入金額の高い順に並び替えます。
※Shopifyで顧客データのCSVをエクスポートした場合は ”Total Spent” というカラムを参照します。つまり、顧客毎に累計いくらの買い物をしてくれているかです(=LTV) - 顧客を10等分にグループ分けします。100人の顧客データであれば、10人ずつのグループになります。
- 続いてグループごとの合計購入金額を算出していきます。
- 最後に、全体に占める各グループの購入金額比率(各グループ/全体)と、デシル1→該当グループまでの累計比率((デシル1+デシル2+...)/全体)、各グループの1人あたり平均購入金額(LTV)を算出します。
準備したデータは、以下のようなイメージで表にまとめます。
ここでは、20%の上位顧客、つまり上記の表でいう「デシル1・2」に該当する顧客を「高LTV顧客」と定義します。上記の手順でグループ分けしたあとは、実際の分析に入ります。
<考察>
まず簡単なところからいくと、一番右下に全体の平均購入金額であるLTVが算出されています。このデータでは1万円です。
次に、デシル2(上位20%)の顧客グループを見てみると平均購入金額は30,000円です。つまり、30,000円以上購入している顧客が全体の20%ぐらいいて、累計売上構成比で見た時にその20%の顧客が売上全体の80%を作っているということが分かります。
この「上位20%ぐらいの顧客が平均30,000円以上購入している」理由を更に掘り下げると、「購入する商品点数が多い」からなのか、「商品単価が高い」からなのか、「購買回数が多い」からなのか、などの傾向を知ることができます。
それでは、掘り下げる分析手法を次項で紹介していきましょう。
<購買内容分析とは>
購買内容分析とは、そのまんまですが高LTV顧客の購買内容を可視化し、傾向を分析するための手法です。高LTV顧客に購買されることが多い商品の特徴が分かれば、高LTV顧客を更に増やすために、MDするべき商品の特徴を把握することができるようになります。
ここでは、「商品」、「購入点数」、「販売手法区分」の3つの観点から見ていく分析手法を紹介します。
※購入点数とは、1回の購買で購入した商品の総数です。A、B、Cという商品を1つずつ購入すれば3点、またAを3つ購入した場合も3点としてここでは計算します。
まずは、データを準備しましょう。
※一部ExcelまたはGoogleスプレッドシートで高度な関数を利用します。
<データ準備とビジュアルの作成手順>
- Shopifyから注文データをエクスポートします。
- 注文データを複製し、タブを1つ増やします。
- 複製した方の注文データのタブを編集します。”Lineitem name”に記載されているのが、購入された商品名なので、商品名の重複を削除し、購入された全商品のリストを作成します。
- 作成したら、3つ目の新しいタブを追加し、集計シートとして利用しますので、そこに全商品データをコピペします。
- 集計シートで、countif 関数を使って各商品が購入された総数を出します。
- 次に、デシル分析で使った顧客データのファイルを開き、高LTV顧客にフラグを立てます(列を1つ追加し、値は1とかでOKです)。そこまで出来たらシートを注文データに4つ目のタブを追加しコピペします。
- 注文の元データのタブに1列追加し、そこにvlookup関数を使って高LTV顧客のフラグを反映させます。
- 集計シートでcountifsを使い高LTV顧客の購入数を算出、購入総数ー高LTV購入数で残りが出ます。
- 算出した結果をベースに、商品をカテゴリ分けする(商品数が多い場合など)
- 最後に、高LTV購入数/購入総数で高LTV(購入)割合を算出して完成です。お疲れ様でした。
まずは、商品別の観点でLTV分析をしましょう。
準備したデータを使って、以下のような表を作成します。
<考察>
この表では、商品Aがメジャー商品、商品Dはマイナー商品であると分かります。(合計購買顧客数から判断)ただ、購入者数の少ない(他と比べて人気がない)商品Dを購入している顧客ほど、高LTV顧客である割合が高い傾向にあると分析することができます。
つまり、マイナーな商品、マニアックな商品、深いファンしか買わないような商品を買っている人ほど、高LTVになりやすい、と考えられます。どうでしょうか?ご自身のビジネスにも当てはまりそうでしょうか?
次に、各顧客の購入点数で分析をしましょう。
※もう一度補足で、購入点数とは、1回の購買で購入した商品の総数です。A、B、Cという商品を1つずつ購入すれば3点、またAを3つ購入した場合も3点としてここでは計算します。
準備したデータを利用して、購入点数を1から縦に並べて、各購入点数に当てはまる高低LTV顧客の数をそれぞれ記入していきます。そして、高LTV顧客の割合を算出し、以下のような表を作ります。
当然のように思うかもしれませんが、この表からは、より多くの点数を購入してくれる顧客ほど高LTVである割合が高く、3点以上の購入で高LTV化しやすいことがわかります。
前述の商材ごとの分析と併せると、「高LTV顧客はマイナー商品と、よく売れている商材を両方買っている為、購入点数が多く、高LTVになりやすいのではないか?」と仮説を立てることができます。更に、購入点数を伸ばす為には、「よく売れる商材(≒キャッチーな商材)と、一部の顧客には売れる商材(≒マイナーな商材)をバランス良く用意しておくことが必要なのではないか」と考えることもできます。
ルイヴィトンで、財布やバッグは揃ってしまったので、服や時計、アクセサリーを買い、それも揃ってしまったから次に靴を買い、キーホルダーや香水などの小物まで買って、お金はあるけど買うものが無いという潜在的な高LTV顧客に、食器や縄跳びなどLVのロゴで提案して売っていたりします。そういう話でしょうか。
それでは最後に販売手法区分ごとの観点から分析をしてみましょう。
ここでは、予約商品、受注商品、数量限定の商品、の中なら、どの形態で売り出した方が売れるのか、または高LTVの顧客が付きやすいのかを見ます。
同じように表を作成していきましょう。
販売手法を縦に並べて、それぞれに対する高LTV顧客数とその割合を当てはめます。
この場合、数量限定商品に高LTV顧客の割合が高いことが分かります。直感的にも高LTV顧客は「他にない」といういわゆる自分だけという優越感の提供に弱いところがあるので、数量限定をうまく活用することで高LTVを作り出すことが出来そうだと仮説を立てられそうですね。
ここまでの3つの高LTV顧客を深堀する分析で得たインサイトをまとめると以下のことが発見されました。
- 高LTV顧客はマイナーな商品とメジャーな商品の両方を買っている
- 3点以上の購入で高LTV化しやすい
- 高LTV顧客は数量限定の商品をよく買っている
そうだよね、という感じかもしれませんが、月商1億円以下のECサイトでここまでを言語化出来ている企業に筆者は出会ったことがありません。こういったことは感覚的にわかっているだけでは不十分で、実際に可視化、言語化することにより、共通言語化、認識の共有が可能になり、この後の打ち手に関する活発なディスカッションに繋がってくるわけです。
<購買頻度・継続期間分析とは>
購買頻度・継続期間分析とは、高LTV顧客がどれくらいの期間継続して利用してくれているか、その間の購買頻度はどれくらいなのかを把握する分析です。
RFM分析と似ていますが、RFM分析が高LTV顧客をRecency、Frequency、Monetaryの軸で表現することを目的とする分析であることに対して、購買頻度と継続期間の分析では顧客のアクティブでいてくれる期間、つまりどれくらいの期間を超えると自社への熱が冷めてしまうのか?ということを知ることを目的に置いているという点で、今回はこちらを紹介しています。
前述のデシル分析で高LTV顧客に関する現状を把握し、購買内容の分析で高LTV化するための戦略を立て、今回の購買頻度・継続期間分析により、より継続してもらい、高LTV顧客を離反させない、という一連の流れになります。
購買頻度・継続期間分析を活用することで、継続的に利用してもらう為に必要な購買頻度を割り出し、最終の購買からどれくらい期間が空いてしまうと離脱顧客となってしまう可能性が高いかを把握することで、よりスマートなキャンペーン内容、アプローチ頻度を検討することが可能になります。
<データ準備とビジュアルの作成手順>
- Shopifyから注文データをエクスポートすします。
- 顧客順(billing name)かつ購買日時(created date)順に並べます。
- ”顧客が同一かつ前列よりも購買日時が新しい時に購買回数を加算する”というルールで数式を作成し、累計の購買回数を表記する列を追加します。
まず、この表の「yyyymmdd」列に「=TEXT(K2,”yyyymmdd”)」という数式を入れます。
次に、「累計購買回数」に「 =IF(L1<>L2,1,IF(W1=W2,X1,X1+1))」という数式を当て込みます。これは、同じ名前(Billing Name)が繰り返し出現した場合、その出現した回数分加算されるルールになっています。
例えば、上記表の例で言うと、高野花子さんが繰り返し2回出てきています。2回目に出てきた際に、「2」と表示されます。
「高LTV」の列には、その顧客が”高LTV顧客であるかどうか”というフラグを立てます。この記事では、高LTV顧客の定義をデシル分析で算出した上位20%に該当する顧客としているので、それに該当する顧客に対して「1」というフラグを立てます。
※フラグを立てる時は、数字などにしましょう。◯などの記号にすると、エクセルやスプレッドシートで、その記号を数式として読み取ってくれません。
数式を入れた後は、この表を全て選択して、以下のような形でピボットテーブルを作成します。縦に名前(Billing Name)、横に「累計購買回数」と「高LTV」を置きます。「累計購買回数」は最大値が表示されるようにしましょう。
準備ができたら、まず、購買頻度分析をしていきます。以下のような表を作ります。
購買回数を縦に並べて、それぞれに当てはまる顧客数を記入し、高LTV顧客の割合を算出します。
※分析2で紹介した「購入点数」と似ていますが、少し観点が違うのでご注意ください。
<考察 購買頻度>
この例では、購買回数が2回以上になると、高LTV割合が50%を超えるため、2回目の購買促進施策が高LTV顧客を増加させるのに直結するように見えます。
また、2回目の購買に至っているのが約30%です。
そのため、何も考えず、「2回目のお客様限定で、割引!」のようなキャンペーンでもやらないよりは成果が出そうです。F2化というのは全ビジネスの課題かとは思いますが、俗にF2転換率が50%以下のビジネスはサステイナブルでない、とも言われますので、まずはこのように数値化をしっかりとすること、それを定点的に把握することは必須と言えるでしょう。
次に、継続期間分析をします。前述の分析で2回目の購買を促進する必要がある、という結果になっていますので、いつまでに、という部分を数字的に検討したいですよね。
継続期間分析では顧客が離反してしまう閾値について「前回の購入から何日経過しているのか」を基準に見てみましょう。
準備したデータの中から2回以上購入している顧客情報だけに絞り込んで、それぞれ1回目から何日間経過しているのか、という観点から以下のような表を作成します。
<考察 継続期間>
2回目の購買をしている購買者を経過日数順に見ると、初回購買から近いほど割合が高いことが分かります。2回目購買ありの中でも、30日以内に再購買しているグループが52%なので、購買から30日以内の再購買を促進することは非常に重要そうです。
逆に、全体の78%が60日以内、94%が90日以内に再購買しており、90日を過ぎてしまうとほぼリピートしないようにも見えます。それを防止するためにも90日以内、なるべくなら30日以内に再購買してもらえるように、前述の購買内容分析で見つけたLTVの高い購買者がよく買っている商材、販売手法の内容をフックにメールやサイト内レコメンデーションなどでアプローチすることで、潜在的にLTVの高い購買者を取りこぼさず、継続してもらえる可能性が上がるでしょう。
今回はLTVを分析し、その後の施策に繋げていくためにデシル分析、購買内容分析、購買頻度・継続期間の分析を紹介しました。
分析し慣れていないEC店長の方は少し難解に思える箇所もあったかもしれませんが、一度フォーマットを作ってしまえば次回からはかなり時間を短縮出来ると思います。
今回の分析は定点的に行えればもちろん素晴らしいですが、スポットでやってもかなり顧客の解像度が上がり、売上アップに貢献できると思います。
それではもう一度、各分析手法をサラッとおさらいしましょう。
デシル分析
顧客を購入金額の観点から10ほどのグループに分割して、上位の顧客がどれほど売上に影響を与えているのかを把握できます。その結果、リピート・ロイヤル化に課題があるのか、新規の獲得に課題があるのか、などがわかります。
購買内容分析
顧客が購買した商品、購買点数、購買した商品の区分、という3つの観点で、高LTV顧客がどんな購買行動をしているのかを可視化します。
高LTV化促進のため、どんな商品ラインナップをどんなフェーズの顧客に訴求していくべきかのアイデアが具体的に出てきます。
購買頻度・購買継続期間分析
何回購買すれば高LTV化が見込まれるか、購買と購買の間でどれくらい期間が空いてしまうと離反に繋がってしまうのか、がわかります。
この分析を参考に、高LTV化に繋がり安い商品を適切なタイミング(そしていつまでに)どの程度提案する必要がありそうかがわかります。ECサイトは自動化してなんぼですので、是非スキーム化して高LTVを量産しましょう。
上記の3つの手法だけでも十分質の高い分析をすることが可能です。まずは、これらの分析手法をから試し、必要に応じて各種データの深堀を行いましょう。
大変そうだから一緒にやってほしい、または丸投げして分析してもらいたいよ、という方は、弊社にお問い合わせください。