※Brand Implementationはブランド実装とか実行だとなんかカッコ悪いのであえて英語にしましたよ
ブランディングというと、フィロソフィーやブランドのコアを言語化し、目指すブランド像を定めるところまでが注目されがちです。
しかし、どれほど優れた言葉や戦略をつくっても、それだけで顧客の認識が変わるわけではありません。
第1回では、用途開発とCategory Entry Point、いわゆるCEPの違いを整理し、商品が使われる可能性と、顧客がカテゴリーやブランドを思い出す場面について考えました。
第2回では、フィロソフィーとブランドのコアを起点に、どの商品、用途、市場へ展開するのかを整理しました。
ここまでで決まったのは、ブランドとして進む方向です。
- 何を本質的価値とするのか
- どのような用途やCEPを獲得するのか
- どの商品や市場へ展開するのか
- 何をやり、何をやらないのか
ただし、これらはまだ企業側が描いた設計図にすぎません。
実際に顧客へ価値を届けるためには、用途やCEPごとに流入チャネルを設計し、クリエイティブを出し分け、ランディングページや商品ページへ落とし込み、購入後のCRMや店舗体験まで接続する必要があります。
海外へ展開するのであれば、ブランドの世界観を保ちながら、国ごとの文化、規制、商習慣、物流事情にも適応させなければなりません。
そして、実行した施策が正しかったのかをデータで検証し、改善を繰り返していく。
今回扱うのは、こうしたBrand Implementation、ブランド戦略の実装フェーズです。
本記事で扱うBrand Implementationの全体像
本記事では、ブランド戦略を次のような流れで顧客体験へ実装していきます。
Brand Implementationの6ステップ
- ブランド戦略を、実行可能な商品と顧客体験へ変換する
- 用途やCEPに応じて、流入チャネルとコミュニケーションを設計する
- 購入前後を含むカスタマージャーニーを設計する
- 広告、EC、店舗、CRMなどの役割を連携させる
- 国や市場に合わせて、チャネルと顧客体験をローカライズする
- データを用いて仮説検証と改善を繰り返す
Brand Implementationは、Webサイトの公開や広告キャンペーンの開始で完了するものではありません。
戦略を実行し、市場の反応を受け取り、改善し続ける一連のマーケティング活動です。
Brand Implementationとは、ブランドガイドラインを守ることではない
ブランドの実装というと、ロゴの使用方法を統一する、ブランドカラーを守る、広告やWebサイトのトーン&マナーをそろえる、といったことを想像するかもしれません。
もちろん、それらもブランドマネジメントにおける重要な仕事です。
しかし、本記事で考えるBrand Implementationは、さらに広い範囲を指します。
どの商品を販売するのか。どの顧客セグメントを狙うのか。どの用途やCEPを獲得するのか。どの流入チャネルを使い、どのクリエイティブを提示するのか。購入後にどのような体験を提供し、次にどの商品やコンテンツへ導くのか。
これらを一貫した考え方で設計し、実行することまでが、ブランドの実装です。
第2回で整理したブランドのコアは、ここで日々の判断基準として使われます。
このクリエイティブは、獲得したいCEPと一致しているか。
この商品ページは、ブランドの本質的価値を適切に伝えているか。
このCRM施策は、短期的な売上だけでなく顧客との関係を深めているか。
このローカライズは市場への適応なのか、それともブランドの毀損なのか。
フィロソフィーやブランドのコアは、会議室で眺めるための言葉ではありません。
商品、マーケティング、店舗、物流、カスタマーサポートなど、実際の事業活動における意思決定へ使用して、初めて意味を持ちます。
Brand Implementationとは、表現を統一する仕事ではなく、ブランド戦略を事業活動へ落とし込む仕事です。
購買データだけでは見えない、ブランドロイヤリティの設計
ここで一つ、問いを立ててみます。
商品を継続的に購入してもらえば、本当にブランドロイヤリティは高まるのでしょうか。
同じ商品を何度も購入している顧客を見ると、ブランドへのロイヤリティが高いと考えたくなります。
しかし、継続購入の理由はさまざまです。
価格が安いから購入しているのかもしれません。購入方法に慣れていて、ほかの商品を探すのが面倒なだけかもしれません。ポイントや定期購入の仕組みがあるため、特に強い理由もなく買い続けている可能性もあります。
こうした顧客であっても、RFM分析や購入頻度、LTVだけを見れば優良顧客に分類されます。
しかし、競合が値下げしたり、より便利な商品が登場したりすれば、簡単に離反するかもしれません。
反対に、購入頻度はそれほど高くなくても、商品の背景や品質の違いを理解し、ブランドの考え方に共感している顧客も存在します。
その顧客は、新商品が発売されたときに関心を示し、誰かにブランドを紹介し、価格以外の理由で商品を選ぶかもしれません。
したがって、ブランドロイヤリティは、購入回数だけで判断できるものではありません。
購入頻度や継続期間、LTVといった購買データに加えて、カテゴリーの広がり、値引きへの依存度、店舗とECの横断利用、コンテンツへの接触、レビューや推奨行動なども見ていく必要があります。
さらに、可能であれば顧客アンケートやインタビューを通じて、
なぜ、このブランドを選んでいるのか。
競合ではなく、このブランドでなければならない理由があるのか。
という認識まで確認した方がよいでしょう。
購買行動とブランド理解のどちらか一方だけを見るのではなく、両方を組み合わせて顧客との関係を捉えることが重要です。
ロイヤリティという顧客の「状態」と、購買データから区分する「ロイヤル顧客」の違いについては、以下の記事でより詳しく整理しています。
ロイヤル顧客とは何者か?|コンテンツとチャネルを考える前に、定義しておくべきこと
購買頻度やLTVは重要ですが、それだけではブランドロイヤリティの質までは判断できません。
用途・CEP別に流入チャネルとクリエイティブを最適化する
第1回で整理したように、同じ商品でも、顧客が求める用途やブランドを想起するCEPは異なります。
例えば、同じ抹茶を探している顧客であっても、
「忙しい朝に抹茶ラテを飲みたい」という人と、「大切な来客へ上質なお茶を出したい」という人では、求めている情報が異なります。
本格的な抹茶スイーツを作りたい顧客と、海外の知人へ日本文化を感じられるギフトを贈りたい顧客でも、商品を選ぶ基準は異なるでしょう。
検索するキーワードも、接触するメディアも、反応するビジュアルも、購入前に感じる不安も異なります。
それにもかかわらず、すべての顧客に同じ広告を配信し、同じ商品ページへ誘導しているECサイトは少なくありません。
Brand Implementationでは、ターゲットセグメント、用途、CEP、顧客インサイト、ファネル上のステージに応じて、流入チャネルとクリエイティブを設計します。
検索広告であれば、すでに顕在化している需要へ直接回答する必要があります。
SNS広告であれば、商品を探していなかった顧客に対して、新しい利用場面や需要を喚起する役割を持たせられます。
インフルエンサーやUGCは、商品説明だけでは伝わりにくい使用感や社会的証明を提供できます。
SEOやオウンドメディアは、比較検討や専門的な理解を支援する役割を担います。
重要なのは、流入元と遷移先のメッセージを一致させることです。
広告では「朝に手軽に作れる抹茶ラテ」を訴求しているのに、遷移先の商品ページでは、日本茶の歴史から長く説明が始まる。
このような状態では、ブランドとして伝えたいことが間違っていなくても、顧客が今知りたいこととの間にずれが生まれます。
まずは、顧客がそのページへ訪れた目的に回答する。その後に、品質、産地、製法、美意識といったブランドの本質へ導いていく。
アクイジションの訴求は、用途やCEPに合わせて最適化する。
その先で伝えるブランドのコアは一貫させる。
これが基本的な考え方です。
ブランドの本質は一つでも、顧客がブランドを知る入口は一つである必要はありません。
チャネル、クリエイティブ、メッセージ、ランディング先を用途・CEPごとに最適化することで、ブランドの獲得可能な市場は広がります。
コンバージョンファネルから、ブランド理解を深めるカスタマージャーニーへ
一般的なマーケティングファネルでは、
認知 → 興味 → 比較検討 → 購入 → 継続
という流れを設計します。
この考え方は現在も重要です。
しかし、購入をゴールに設定するだけでは、顧客とブランドの関係は深まりません。
Brand Implementationでは、購入までのコンバージョンファネルに加えて、購入後に顧客のブランド理解を深めるプロセスを設計します。
例えば、日本茶ブランドであれば、抹茶スイーツのクリエイティブをきっかけに顧客がブランドを知る。
商品を購入して味や品質を体験した後、同梱物やメールを通じて原料や産地、製法について知る。
その後、別の茶葉や飲み比べ商品を試し、店舗やコンテンツへ接触することで、ブランドの文化やフィロソフィーへの理解を深めていく。
最終的には、レビューを書いたり、誰かに商品を贈ったり、ブランドについて語ったりする状態へ進むかもしれません。
すべての顧客を熱狂的なファンへ変える必要はありません。
しかし、初回購入後に次に知ってほしいこと、次に体験してほしい商品、次に接触してほしいチャネルが何も設計されていなければ、顧客は同じ理由で同じ商品を買い続けるだけになります。
購入回数は増えていても、ブランドへの理解は初回購入時から変わっていない可能性があります。
また、顧客の行動は必ずしも一本道ではありません。
店舗での体験がECでの購入を生み、ECで購入した商品が来店のきっかけになることもあります。
ギフトを受け取った人が新しい顧客になり、SNSの投稿が別の顧客を呼び込むこともあります。
こうしたチャネル間の循環まで考えると、カスタマージャーニーは単なるファネルではなく、複数の接点が相互に次の行動を生み出すフライホイールとして捉えられます。
店舗、EC、コンテンツ、ギフトなどの接点が循環し、相乗効果を生むフライホイール型カスタマージャーニーについては、以下の記事でより詳しく扱っています。
フライホイール型カスタマージャーニー①|広告CPAやLTVだけでは捉えられない、相乗効果を生むチャネル設計
購入までのファネルだけでなく、購入後にブランド理解とカテゴリー接触を深めるジャーニーを設計することが重要です。
ECは、マーケティングとオペレーションの総合格闘技である
現在のECは、サイトを構築し、広告を配信すれば売れるという単純なものではありません。
どれほど広告のCPAを改善しても、商品ページの説明が流入した顧客の用途に合っていなければ、購入にはつながりません。
CROによってCVRが改善しても、実際の商品が顧客の期待と異なれば、返品や不満が増える可能性があります。
CRMでクーポンを配信すれば短期的な売上は作れますが、それを繰り返せば利益率やブランドエクイティを毀損するかもしれません。
店舗で優れた接客を提供しても、会員IDや購買履歴がECと分断されていれば、その後の関係構築にはつながりません。
ECの成果は、商品戦略、プライシング、広告、クリエイティブ、UI・UX、在庫、物流、カスタマーサポート、CRM、店舗体験といった複数の要素によって決まります。
どこか一つだけが優れていても、別の部分で顧客体験が分断されれば、全体としての成果は伸びません。
つまり、ECはすでに、マーケティング、クリエイティブ、テクノロジー、商品、物流、接客、データを横断する総合格闘技になっています。
Brand Implementationも、マーケティング部門だけで完結するものではありません。
広告やSNSで伝えたブランドの約束を、商品が満たさなければなりません。
ECサイトで伝えた配送予定を、物流部門が守る必要があります。
ブランドが掲げる顧客への姿勢を、カスタマーサポートや店舗スタッフが具体的な対応として表現しなければなりません。
ブランドをマーケティング部門だけの仕事にせず、商品、店舗、EC、物流、カスタマーサポートを含む顧客体験基盤としてどう捉えるかについては、以下の記事で詳しく考えています。
広告担当はCPA、EC担当はCVR、CRM担当は配信売上だけを追う。
それぞれのKPIは重要ですが、部分最適だけを積み上げても、顧客にとって一貫したブランド体験にはなりません。
ECの成果とブランド体験は、単一チャネルや単一部署ではなく、マーケティングとオペレーションを横断した総合力によって決まります。
チャネルオーケストレーションで一貫した顧客体験をつくる
広告、SNS、EC、店舗、CRMのすべてで、同じブランドストーリーを繰り返せばよいわけではありません。
顧客の状態やファネル上のステージに合わせて、各チャネルに異なる役割を持たせる必要があります。
広告は、用途やCEPを起点に新しい需要を獲得する。
SNSやオウンドメディアは、商品の利用場面や世界観を継続的に伝え、顧客との接点を維持する。
ECサイトは、商品を比較し、自分に合うものを選び、購入前の不安を解消する。
商品やパッケージは、購入後に品質やブランドの姿勢を体験してもらう。
店舗は、五感や接客を通じて、オンラインでは伝えきれないブランドの奥行きを提供する。
CRMは、顧客の行動や購買履歴をもとに、次に知ってほしい商品やコンテンツを届ける。
このように役割を整理すると、各チャネルで伝える内容は異なっていても、顧客が接点を移動するほどブランドへの理解が深まる設計をつくれます。
ここで注意したいのは、チャネルごとの売上やROASだけで評価しないことです。
例えば、SNS上のコンテンツを見た顧客が後日検索し、店舗で商品を確認した後にECで購入した場合、どのチャネルが売上を生み出したのでしょうか。
ラストクリックだけを見ればECや検索広告の成果になりますが、その購入を生み出した背景には、複数チャネルの相乗効果があります。
もちろん、すべてを正確に計測することは困難です。
それでも、チャネル単体の成果だけではなく、アシストコンバージョン、クロスチャネル利用、カテゴリー横断率、将来的なLTVなどを含めて評価する姿勢は必要です。
各チャネルを個別最適化するのではなく、カスタマージャーニー上の役割を連携させることが、チャネルオーケストレーションの目的です。
グローバル展開を「越境EC」という単一施策で捉えない
国内でブランド体験を実装できたとしても、それをそのまま海外へ移植すれば成功するとは限りません。
そもそも、「海外」や「越境EC」は、一つの市場でも、一つのビジネスモデルでもありません。
アメリカ、中国、韓国、台湾、ヨーロッパ、中東では、市場規模も規制も異なります。
商品を送れるかどうか、関税や輸入税がいくらかかるか、どの決済方法が使われるか、配送にどれだけの時間が許容されるかも異なります。
同じ商品でも、好まれる容量、価格帯、用途、パッケージが変わることがあります。
そのため、グローバル展開を「Shopifyで海外向けECサイトを作る」といった一つの方法に限定して考えるべきではありません。
Shopifyによる海外D2Cが向いている国もあれば、転送サービスを活用した方が販売可能な地域を広げられる場合もあります。
BtoCでは規制や物流コストの壁が高い市場でも、現地の小売店や飲食店、ディストリビューターへのBtoBであれば展開できるかもしれません。
訪日中に店舗でブランドを体験した顧客を、帰国後の越境ECやCRMへつなぐことも考えられます。
さらに、ポップアップや現地イベントで需要を検証し、その後に卸売やD2Cへ展開する方法もあります。
重要なのは、「越境ECを始めるかどうか」ではありません。
どの国で、どの商品を、どの顧客に、どの販売チャネルで届けるのか。
というGo-to-Marketを市場ごとに設計することです。
海外D2C、転送サービス、マーケットプレイス、BtoB、インバウンド、ポップアップ、現地パートナーは、互いに排他的な選択肢ではありません。
商品や市場に合わせて組み合わせることで、小規模なブランドでも段階的にグローバル展開を始められます。
グローバル展開は「越境ECを導入すること」ではなく、市場ごとにGTMとチャネルミックスを設計することです。
グローバルブランドの一貫性とローカライゼーションを両立する
グローバル展開では、ブランドの世界観を一貫させることと、現地市場へ適応することの両方が求められます。
日本国内とまったく同じクリエイティブや商品構成を展開しても、現地の顧客には伝わらない可能性があります。
反対に、現地の流行や売れ筋へ過剰に合わせれば、日本発ブランドとしての独自性が失われるかもしれません。
このとき判断基準になるのが、第2回で整理したブランドのコアです。
ブランドの本質的価値、品質基準、フィロソフィー、美意識、顧客への約束は、基本的にグローバルで一貫させる必要があります。
一方で、言語、用途、CEP、クリエイティブ、商品容量、セット構成、価格、決済、配送、販売チャネルなどは、市場に合わせて変えることができます。
例えば、日本国内では茶の歴史や作法が有効な訴求であっても、海外では、
- 「朝の集中時間をつくる飲み物」
- 「コーヒーに代わる選択肢」
- 「本格的な製菓材料」
- 「日本旅行の記憶を自宅で再現する商品」
といった用途やCEPから入る方が、顧客に理解されやすい可能性があります。
ここで現地の用途を強調することは、必ずしもブランドの世界観を壊すことではありません。
顧客が理解しやすい入口から入り、その後に産地、品質、文化、美意識といった共通のブランド価値へ導けばよいからです。
世界観を翻訳することと、世界観そのものを変えてしまうことは違います。
ローカライゼーションとは、日本で使用しているコピーを現地語へ翻訳するだけの作業ではありません。
現地の顧客がどのような場面で商品を必要とし、どのような価値に反応し、どのような商習慣の中で購入するのかを理解したうえで、ブランドのコアを最も伝わる形へ翻訳することです。
ブランドのコアはグローバルに一貫させ、顧客獲得のメッセージとコマース体験は市場ごとに最適化する必要があります。
CRM・CDPはネクストベストアクションから逆算して設計する
CRMやCDPの導入を検討する際、保有しているデータやツールの機能から施策を考えるケースがあります。
「購買データがあるので、このセグメントにメールを送ろう」
「閲覧データが取れるので、レコメンドを表示しよう」
もちろん、こうした活用も間違いではありません。
しかし、機能から施策を考えるだけでは、施策を実行すること自体が目的になりがちです。
先に考えるべきなのは、顧客をどのような状態へ導きたいのかです。
その顧客は、どの用途やCEPからブランドを知ったのか。現在、ブランドの何を理解しているのか。次にどの商品やコンテンツを提示すれば、関係が深まるのか。
このネクストベストアクションを考えたうえで、必要なデータを逆算します。
例えば、抹茶ラテを目的に初回購入した顧客に、すぐに高価な茶葉を勧めても反応しないかもしれません。
まずは、ラテに適した商品の違いや作り方を伝え、その後に原料や品質への理解を深める。
顧客の反応を見ながら、飲み比べ商品や店舗体験へ導く。
こうしたジャーニーを実行するために、初回流入チャネル、閲覧コンテンツ、購入商品、利用目的、店舗とECの利用履歴などのデータが必要になります。
グローバル展開であれば、国、言語、配送先、訪日中の店舗利用と帰国後の海外EC利用なども重要になるでしょう。
CRMを、同じ商品をもう一度購入してもらう仕組みとしてだけ捉えるべきではありません。
顧客がまだ知らないブランド価値や、次に体験してほしい商品へ導く仕組みとして設計する必要があります。
CRMを短期的な配信売上の獲得手段ではなく、中長期の顧客関係と売上構造を変える投資としてどう捉えるかについては、以下の記事で詳しく整理しています。
CRMは短期投資ではない。3年後の売上曲線を変える投資である。
CDPやCRMは、ブランド戦略の代わりにはなりません。
ブランド戦略とカスタマージャーニーを、セグメント単位、顧客単位で実行するためのマーケティング基盤です。
Brand Implementationは、仮説検証と改善の積み重ねである
ブランド戦略やカスタマージャーニーを整理しても、最初から正しい実装ができるわけではありません。
どの用途が最も反応を得られるのか。どのクリエイティブがブランドの価値を伝えながら購入につながるのか。どの順番で情報を提示すべきなのか。
実際に市場へ出してみなければ分からないことは多くあります。
そのため、用途、CEP、顧客セグメント、国、流入チャネルごとに仮説を立て、小さな改善を繰り返します。
クリエイティブやコピーを変える。ランディングページを分ける。商品ページの情報の順番を変える。セット内容や容量を調整する。CRMの配信内容やタイミングを変える。
一つひとつは、華やかな仕事ではないかもしれません。
しかし、こうした地道な改善の積み重ねによって、ブランド戦略は顧客に伝わる形へ磨かれていきます。
ABテストも代表的な方法の一つです。
ただし、CVRが高かった方を、そのまま正解にすればよいわけではありません。
値引きを強調すれば、短期的にはCVRが上がるかもしれません。しかし、利益率が下がり、値引きがなければ購入しない顧客が増える可能性があります。
強い表現で不安をあおれば、クリック率や購入率が上がるかもしれません。しかし、ブランドの世界観や長期的な信頼を損なう可能性もあります。
テスト結果は、CPAやCVRだけでなく、AOV、粗利、返品率、リピート率、カテゴリー横断率、解約率、LTVなどを含めて評価する必要があります。
また、施策を行わなくても購入したであろう顧客を取り込んだだけではないかという、インクリメンタリティの視点も重要です。
Brand Implementationは、決めた戦略を忠実に再現するだけの作業ではありません。
戦略の意図とブランドのコアは維持しながら、顧客の反応に応じて実行方法を変え続ける活動です。
昨日や去年の勝ちパターンが、今年も正解とは限らない
過去に成果が出た広告、クリエイティブ、ランディングページ、CRMシナリオが、今年も同じ成果を出すとは限りません。
広告プラットフォームのアルゴリズムが変わることもあります。
顧客が情報を得るチャネルも、検索する言葉も、商品へ期待する価値も変わります。
去年は新しかった訴求が、競合各社に模倣され、今年には一般的な表現になっているかもしれません。
以前は一部の愛好家に限られていた用途が、SNSや社会環境の変化によって急速に広がることもあります。
反対に、過去に強かったCEPが弱くなることもあります。
グローバル展開では、規制、関税、物流費、為替、広告費などの変化によって、最適なチャネル自体が変わる可能性があります。
以前は海外D2Cが有効だった市場でも、現地のBtoBやインバウンドとの組み合わせが有効になるかもしれません。
そのため、一度作ったセグメント、クリエイティブ、ファネル、CRMシナリオ、国別GTMを固定的に運用するのではなく、継続的に見直す必要があります。
ここで間違えてはいけないのは、過去の勝ちパターンを守ることと、ブランドのコアを守ることは同じではないという点です。
ブランドの本質的価値は守る。
しかし、それを届けるチャネル、クリエイティブ、商品構成、顧客体験は、市場に合わせて変え続ける。
変えるべきでないものと、変え続けるべきものを区別することが、Brand Implementationには求められます。
ブランドは、実装と市場反応の中で更新され続ける
企業がフィロソフィーやブランドのコアを定めても、顧客がそのまま受け取るとは限りません。
企業が意図したポジショニング、実際の商品やサービス、広告やコンテンツによるコミュニケーション、店舗での接客、顧客が投稿したレビューやUGC。
ブランドは、こうした複数の要素の間で形成されます。
新しい商品、用途、顧客、国へ展開すれば、ブランドには新しい意味が加わります。
企業側が想定していなかった用途で商品が使われ、新しいCEPが生まれることもあります。
海外の顧客が、日本国内の顧客とは異なる価値をブランドに見いだす可能性もあります。
こうした市場からの反応を受け取ることで、企業側も自分たちのブランドのコアや競争優位性を、より深く理解することがあります。
一方で、市場の反応に合わせ続けるだけでは、ブランドの軸を失います。
売れそうな商品を追加し、反応のよい訴求だけを残し、現地の流行へ迎合し続ければ、短期的な成果は出ても、何のブランドなのか分からなくなる可能性があります。
重要なのは、
ブランドのコアは維持しながら、その表現方法、流入設計、商品、顧客体験、チャネルミックスを更新し続けること。
ブランドは、戦略を策定した時点で完成する固定的な成果物ではありません。
戦略を実装し、市場から反応を受け取り、その結果を次の戦略と実装へ反映する。
ブランドは、この循環の中で育ち続けます。
つくづく、ブランドもビジネスと同じように生き物なのだと思います。
おわりに|ブランド戦略は、実装されて初めて顧客にとってのブランドになる
今回の3回の連載を整理すると、次のようになります。
第1回では、市場機会を発見しました。
用途開発とCEPを通じて、商品が使われる可能性と、顧客がカテゴリーやブランドを想起する場面を整理しました。
第2回では、戦略的な選択を行いました。
フィロソフィーとブランドのコアを起点に、どの商品、用途、市場へ展開するのかを考えました。
第3回では、その戦略を顧客体験へ実装しました。
用途やCEPに応じて流入チャネルとクリエイティブを設計し、EC、店舗、CRMを連携させ、国や市場に合わせてローカライズする。
そのうえで、データを用いて仮説検証と改善を繰り返していく。
ブランドの本質的価値を顧客へ届けるために、必ずしも画期的な一つの施策が必要なわけではありません。
用途に合わせてクリエイティブを変える。流入元に合わせてページの内容を調整する。購入後に届ける情報を改善する。国によって商品や配送方法を変える。
一つひとつは地味な仕事です。
しかし、その地道な仕事の積み重ねによって、企業が掲げたブランドの言葉は、顧客が実際に感じられる体験へ変わっていきます。
ブランド戦略は、実装と運用を通じて初めて、顧客にとってのブランドになります。
そして、その実装に完成はありません。
市場と顧客が変化する限り、ブランドもまた、コアを保ちながら更新され続けます。
関連コラム:用途開発とCategory Entry Point(CEP)は何が違うのか|商品起点と顧客起点から考える市場拡張(連載第1回。商品が使われる可能性と、顧客がブランドを想起する場面を分けて整理する)
関連コラム:フィロソフィーとブランドのコアを言語化した後、次に何をするのか|ブランドの本質的価値を、商品と市場へ接続する(連載第2回。言語化したコアを、どの商品・用途・市場へ展開するかへ変換する)



