150万円の相談は、どうやって500万円になるのか|明石さんに商談を再現してもらったChatGPTが、何度も勘違いしながら理解したこと – 株式会社飛躍 | Premier Partners

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COLUMN

150万円の相談は、どうやって500万円になるのか|明石さんに商談を再現してもらったChatGPTが、何度も勘違いしながら理解したこと

今回の記事を書いているのは、明石さんではない。

私、ChatGPTである。

あるとき、飛躍の社員さんから、明石さんにこんな質問があった。

「最初は150万円くらいの予算だと言っていたお客様が、最終的に300万円や500万円のプロジェクトを発注することがありますよね。あれは、どういう営業をしているんですか?」

確かに、外から見れば不思議な話である。

予算は150万円だと言っていた相手に、500万円の見積もりを提示し、それでも発注してもらう。

何か特別なプレゼンテーションがあるのか。

高額なプランへ誘導する話法があるのか。

それとも、最初の150万円では実現できないことを説明し、500万円を投じる価値に納得してもらっているのか。

私は当初、比較的単純に考えていた。

予算150万円では、相手の希望を実現できない。

だから、500万円をかければ何ができるのかを説明し、その差に納得してもらう。

要するに、150万円と500万円の違いを説明する営業なのだろう、と。

しかし、明石さんと壁打ちを始めると、この理解はかなり早い段階で否定された。

それどころか、その後も私は何度も勘違いした。

  • 予算の話だと思ったら、その数字が生まれた理由の話だった。
  • 正しい質問をすればよいのだと思ったら、質問の重さと順番の話だった。
  • 事例を見せて実績をアピールするのだと思ったら、相手に判断の物差しを渡す話だった。
  • 安い方法を先に提案する「売らない営業」なのだと思ったら、途中では1000万円級の話も普通にするという。
  • そして、500万円を受注する話だと思っていたら、最後には300万円まで見積もりを削ることもあると言われた。
壁打ちの中でChatGPTの理解が修正されていった勘違いログ
図1:ChatGPTの勘違いログ。左の理解は、壁打ちのたびに右へ修正されていった

今回は、こうした明石さんとの壁打ちを、なるべく省略せずに再構成したい。

きれいに整理された営業論を、最初から提示するのではない。

私が明石さんに質問し、答えを聞き、勝手に解釈し、そのたびに少しずつ修正されていった順番で進めていく。

先に、この営業の全体像を話しておきたい

細かな商談の流れへ入る前に、明石さんが自身の営業をどのように捉えているのかを書いておきたい。

おそらく大多数の人が明石さんの営業を見ると、途中で、

「あ、案件が決まった」

と感じるのだと言う。

強く説得したわけでも、契約を迫ったわけでもない。

しかし、気づけば相手は、飛躍へ依頼するかどうかではなく、飛躍とどのような内容で進めるかを考え始めている。

明石さんは、これについてこう話した。

私の思う営業の基本は、相手が契約したくなるように、契約の方向へ導くことです。

説得しているわけではなく、相手が勝手にそちらの方向へ進んでいくようにしているだけです。

ただ、これは非常に難易度が高いという自覚はあります。長く営業をしていますし、人にも教えてきたので。

つまり、ここから紹介する質問や説明は、単独で存在しているわけではない。

相手が判断に必要な情報を得て、自分で契約したいと思う状態へ進むように、会話全体が組み立てられている。

表面上は自然な会話に見える。

しかし、その自然さ自体が、長年の経験によって作られた営業の技術なのである。

今回のケース設定

まず、私と明石さんの間で、一つのケースを設定した。

ある企業から、Shopifyを使ったECサイト構築について問い合わせが来る。

問い合わせフォームに記載されている予算は150万円。

商品数やページ数はそれほど多くない。一般的なECサイトとして構築するのであれば、150万円前後でも十分に成立する案件である。

しかし、問い合わせ内容の中に、一つだけ、その企業独自の要件が含まれている。

Shopifyのアプリを選定すれば、追加開発費をほとんどかけずに、要望へかなり近い体験までは実現できる。

一方で、先方が思い描いている仕様を細部までそのまま実現しようとすると、個別開発が必要になる。

要件整理、設計、開発、テスト、例外処理、周辺機能との整合性確認、さらに公開後の保守まで含めると、プロジェクト全体は500万円前後になる。

今回のケース

  • 普通に作れば、150万円でできる。
  • ただし、一つの独自要件をそのまま実現すると、500万円になる。

この問い合わせを受け取った明石さんは、何を考え、どのように会話を進めるのか。

私は、かなり手前から聞いてみることにした。

問い合わせを見た瞬間、まず違和感があるかを見る

私は明石さんに聞いた。

「予算150万円と書かれた問い合わせが来たら、まず何を考えるんですか?」

私としては、

「150万円でどこまで作れるかを考える」

あるいは、

「この内容なら予算が足りないと判断する」

のどちらかだと思っていた。

しかし、明石さんの答えは、そのさらに手前だった。

まず、問い合わせの内容を見て、何か違和感があるかどうかを見るという。

要望の内容と150万円という予算が自然に釣り合っているなら、無理に話を広げる必要はない。

シンプルなECサイトを求めている。

商品数も少ない。

独自機能もほとんどない。

自社で担当できる作業も多い。

そのような相談なら、150万円の案件として普通に考えればよい。

一方で、問い合わせ文を読んだときに、

  • 参考にしているサイトはかなり作り込まれている
  • 独自性の高い顧客体験を求めている
  • 事業としては一定規模がありそう
  • 今後の展開についても大きな構想が書かれている
  • しかし、予算だけが150万円になっている

という状態なら、そこに違和感が生まれる。

ここで重要なのは、

「150万円では足りない」

と即断することではない。

なぜ、要望の内容に対して150万円という数字が置かれているのか。

まだこちらが知らない事情があるのか。

あるいは、相手がECサイト構築の費用構造を、まだ理解していないだけなのか。

まず、そのズレの正体を探る。

私はここで、

「問い合わせの時点で、500万円を取れそうか見ているんですね」

と理解した。

完全に間違いではないが、まだ雑だった。

明石さんは、500万円を取れるかを見ているわけではない。

この会社にとって、500万円が現実的な選択肢になり得るのか。

を見ている。

500万円を投資できる会社なのに、相手が最初に150万円と言ったという理由だけで、150万円の提案しか作らなければ、本来実現できたはずの成果まで小さくしてしまうかもしれない。

反対に、本当に150万円までしか使えない会社へ500万円の話を続けても、双方にとって時間の無駄になる。

最初の問い合わせを読む段階で、すでに商談の仮説づくりは始まっている。

最初に「150万円は税込みですか?」と聞く

私は続けて聞いた。

「違和感があった場合、最初に何を質問するんですか?」

私は、てっきり、

「その150万円という予算は、どのように決めたのですか」

と正面から聞くのだと思っていた。

しかし、明石さんから返ってきたのは、もっと細かな質問だった。

「150万円というのは、税込みですか?」

私は一瞬、推論を停止した。

150万円の案件を500万円にする話をしていたはずが、返ってきたのは「税込みですか?」である。

少なくとも、私の予測確率分布の上位には存在しない質問だった。

「150万円は税込みですか?」を受け取ったChatGPTの内部ログ
図2:「税込みですか?」を受け取った瞬間、ChatGPTの内部で起きていたこと

私の中では、もっと経営戦略的で、コンサルティング的で、いかにも重要そうな質問が続くはずだった。

ところが、明石さんは消費税の確認から入った。

150万円が税込みか税別かで変わる金額は、十数万円程度である。

私は最初、この質問を、

「消費税分だけでも予算を増やせるか確認しているのだろう」

と解釈した。

しかし、この質問の目的はそれだけではない。

見ているのは、150万円という数字の硬さである。

相手が、

「150万円は税込みで、社内決裁もその総額で取っています」

と即答するなら、その金額はかなり具体的に決まっている可能性がある。

一方で、

「税込みか税別かまでは、あまり考えていませんでした」

という答えなら、150万円は厳密な上限ではなく、ひとまず置かれた相場感かもしれない。

あるいは、

「補助金の対象額から逆算して、税込み150万円です」

という答えなら、その数字が生まれた別の背景が見える。

大切なのは、税込みか税別かという事実だけではない。

その質問に、相手がどのように答えるかである。

  • すぐ答えるのか。
  • 確認しなければ分からないのか。
  • 「だいたいです」と返すのか。
  • 「絶対に超えられません」と補足するのか。

一つの軽い質問から、予算の硬さ、意思決定の状況、数字が作られた背景が少しずつ見えてくる。

ここで私は、

「つまり、予算の上限を確認しているんですね」

とまとめた。

すると明石さんは、さらに一段深い話をした。

見ているのは、予算ではなく予算が作られた過程

明石さんが知りたいのは、150万円という数字そのものではない。

その150万円は、どこから出てきた数字なのか。

である。

  • 知人に聞いたのか。
  • 別の制作会社から見積もりを取ったのか。
  • 過去に作ったECサイトが150万円だったのか。
  • Googleで検索したのか。
  • 生成AIへ質問して出てきた数字なのか。
  • 経営会議で決まったのか。
  • 事業計画から、投資可能額を逆算したのか。

同じ150万円でも、由来によって意味が違う。

生成AIに聞いて仮置きした150万円であれば、相場や要件を理解したうえで決めた数字ではない可能性がある。

他社から詳細な見積もりを受け取った結果であれば、ある程度の比較軸を持っているかもしれない。

社内の予算枠として確定しているなら、今回できることをその範囲で考える必要がある。

さらに明石さんは、合理的な経営者が150万円という数字を置いているなら、その裏には投資に対する仮説もあると言った。

このECサイトには、おそらく150万円程度の投資価値がある。

という仮説である。

つまり、予算の背後には、

  • ECでどれくらい売れると思っているか
  • どの程度の事業へ育てたいか
  • 会社全体の中でECをどう位置づけているか
  • 何年程度で投資を回収したいか

という期待値がある。

ここで私は、かなり単純に考えた。

「では、最初から売上目標と投資回収について聞けばよいのではないですか?」

正しいことを聞くなら、遠回りをする必要はないように思えた。

しかし、明石さんは、最初には聞かないと言った。

売上目標は正しい質問だが、最初に聞くと重すぎる

明石さんは、

「売上目標はいくらですか?」

という質問は重いと言った。

私は最初、答えを出すのが難しいから重いのだと思った。

売上計画がまだ明確でなければ、数字を答えるのは難しい。

しかし、明石さんが言っている「重い」は、そういう意味ではなかった。

重い質問とは、相手の自己防衛を起こす質問である。

売上目標を聞かれた相手は、数字を思い出す前に、別のことを考えるかもしれない。

  • この目標を言って、低いと思われないだろうか。
  • まだきちんと決めていないことを知られたくない。
  • 外部の会社に開示してよい情報だろうか。
  • この数字を使って、支払える金額を計算されるのではないか。
  • 高い見積もりを出す材料にされるのではないか。

一度こうした防御反応が出ると、相手は、

「自分はいま、営業をかけられている」

と感じ始める。

その後の会話は、本音を探る時間ではなく、情報を守る時間になってしまう。

私はここで、質問の内容が正しいだけでは不十分だと理解した。

大切なのは、

その質問を、相手が答えられる状態になっているか。

である。

では、最初は何を聞くのか。

明石さんが挙げたのは、もっと軽い質問だった。

「参考にしているECサイトはありますか?」

軽い質問で、驚くほど多くのことを見る

参考サイトを聞く質問は、相手にとって答えやすい。

「このサイトの雰囲気が好きです」

「このブランドの購入体験を参考にしています」

という話であれば、売上目標や投資回収を聞かれるほど身構えない。

しかし、この質問から得られる情報量は異常に多い。

一つの参考サイトという入力から、デザインの好み、想定している事業規模、ECへの期待、理解度、予算との不整合までを推論する。

人間の商談における、驚くほど圧縮率の高いプロンプトである。

相手が挙げたサイトを見れば、

  • どこまでデザインにこだわっているか
  • 欲しいのは機能なのか、ブランドの世界観なのか
  • どの程度の事業規模を想像しているか
  • ECサイトに何を期待しているか
  • 相手がどのくらいECについて理解しているか
  • 150万円という予算と、目指している完成形が合っているか

が見えてくる。

私は、

「なるほど。参考サイトを見て、このサイトのここが良いと専門家として解説するんですね」

と返した。

ここでも、少し違った。

明石さんは、そのサイトについて知っていることを全部説明するわけではない。

相手の理解度より、半歩だけ先の話をする。

相手がすでに知っている話だけでは、専門性は伝わらない。

反対に、相手が理解できない専門用語や高度な分析を一気に話せば、置いていってしまう。

目指すのは、

「なるほど、そういう見方があるのか」

と思ってもらえるラインである。

明石さんは、サイトを分析していると同時に、相手の学習境界線も見ている。

  • どの程度の話なら興味を持つか。
  • どこから難しそうな反応をするか。
  • こちらの説明に対して質問が増えるか。
  • メモを取り始めるか。
  • 自社の事情を、もう少し詳しく話し始めるか。

ここで作ろうとしているのは、

「この人から、もう少し話を聞きたい」という状態である。

知識を見せつけることではない。

相手を一方的に教育することでもない。

まず、こちらの話を聞きたいと思ってもらう。

この時点から、少しずつ契約へ向かう流れが始まっている。

自社事例は、優れたサイトとして紹介しない

相手が参考にしているサイトや、興味を持つポイントが見えてきたところで、明石さんなら、飛躍の事例の中から相手が良いと思いそうなECサイトを紹介する。

私は、

「そこで、自社の実績を見せるんですね。飛躍ならこのレベルまで作れると伝える」

と考えた。

また、完全には合っていなかった。

明石さんは、

「このサイトは、ここがこう良いです」

という説明は、あまりしないという。

話すのは、そのECサイトの構築と運用のストーリーである。

  • その企業は、最初に何に困っていたのか。
  • なぜ、その機能を作ったのか。
  • なぜ、別の機能は作らなかったのか。
  • どこまでを初回の構築範囲にしたのか。
  • 運用を始めてから、何が分かったのか。
  • その後、どこへ追加投資したのか。

完成したサイトを見せるのではなく、そこへ至るまでの意思決定を話す。

私はここで、ようやく少し正しく理解した。

「相手へ、判断の物差しを渡しているんですね」

明石さんも、この表現には同意した。

相手は、それまで150万円と500万円の違いを判断するための基準を持っていない。

価格が違うことは分かっても、

  • 何にお金がかかるのか
  • どこに投資する価値があるのか
  • 何を最初に作るべきなのか
  • 何を後回しにできるのか
  • 作った後に何が起きるのか

までは分からない。

事例のストーリーを通じて、その物差しを渡す。

そして同時に、相手がどこへ反応するかを見る。

  • デザインの細部に反応するのか。
  • 運用負荷の話に反応するのか。
  • データ移行の大変さを嫌がるのか。
  • 独自機能による顧客体験に強い関心を示すのか。

ここから、その会社にとって譲れないものが少しずつ見えてくる。

普通に作れば150万円。ただし、その要件まで作れば500万円

ここで、今回のケースを具体的に整理する。

一般的なECサイトとして構築するなら、先方が想定している150万円前後で成立する。

先方の予算が間違っていたわけではない。

ただし、一つの独自要件を、希望どおりに実現しようとすると個別開発が必要になり、プロジェクト全体は500万円前後になる。

私は、

「そこで、個別開発が必要なので500万円ですと説明するんですね」

と考えた。

明石さんは、まず安い方法を出すと言った。

「この部分は、Shopifyのアプリを使えば、追加開発費をほとんどかけずに、ここまでは実現できます」

と説明する。

ECサイト全体が無料になるわけではない。

問題になっている独自要件について、追加の個別開発をせずに、要望へかなり近づけられるという意味である。

つまり、プロジェクト全体を当初の150万円前後に収める選択肢を、先に示す。

私はこれを、

「安い方法も公平に提示する、売らない営業ですね」

ときれいにまとめようとした。

もちろん、誠実さはある。

ただし、それだけではない。

明石さんは、その提案をした後の反応を見ている。

相手が、

「それで十分です」

と言うのか。

「それでは、少し違うんですよね」

と言うのか。

ここで、独自要件に対するニーズの強さが見え始める。

説得して500万円へ連れていくのではない。

安い方法も見せたうえで、それでも相手が自分から、

「そこには投資したい」

という方向へ進むかを見ている。

「それでは違う」だけでは、まだ個別開発へ進まない

私は、

「それでは違うと言われたら、本当に欲しい機能だと分かるわけですね」

と返した。

明石さんは、

「その違うが、どんな理由なのかが重要です」

と言った。

同じ「違う」でも、

  • 「何となく、自分の好みと違う」
  • 「社内で決めた仕様と違う」
  • 「社長がそう言っている」
  • 「この方法だと、現場の運用が成立しない」
  • 「この体験こそが、競合との差別化になる」

では、投資価値がまったく異なる。

デザインについては、相手によって絶対に譲らないことがある。

一方、データ移行は、究極的には自社で時間をかければできる。

しかし、社内にその時間があるのか。

その作業を強く嫌がる会社なのか。

担当者が数週間を使うことと、外注費を払うことのどちらが合理的なのか。

同じタスクでも、会社によって価値が変わる。

明石さんが見ているのは、要件一覧ではない。

それぞれの要件に対する、相手のアレルギーや執着の強さである。

相手が強く反応したからといって、すぐにその要望を見積もりへ入れるわけでもない。

その反応が、事業上の重要性から来ているのか。

単なる好みや思い込みなのか。

そこをさらに会話で確認する。

相手自身にも、

「なぜ、それが必要なのか」

を考えてもらう。

ここでも、明石さんが代わりに投資価値を説明しているわけではない。

判断材料を渡し、相手自身が必要性を言葉にできる方向へ進めている。

目の前の人が担当者なら、話はここで止まる

さらに明石さんは、目の前にいる相手の立場が重要だと言った。

仮に相手が、

「社長から、とりあえず見積もりを取ってと言われました」

という担当社員だった場合。

その人に500万円の価値を熱心に説明しても仕方がない。

その人には決定権がないからである。

担当者に対しては、

  • 150万円でできる内容
  • アプリで代替できる内容
  • 個別開発した場合の費用
  • 経営判断として確認すべき点

を整理して渡す。

必要であれば、次回は意思決定者にも参加してもらう。

私はここで、担当者とのケースと、意思決定者とのケースのどちらを見たいか聞かれた。

担当者の場合、この時点で一度話が終わる。

今回は、その先を知りたかったので、意思決定者とのケースを選んだ。

目の前にいるのは、投資判断ができる経営者または事業責任者。

アプリによる代替案も理解した。

それでも、その独自要件は譲りたくないと考えている。

ここから、いよいよ500万円の提案に進む。

私はそう思った。

しかし、明石さんが次に出したのは、500万円ではなく1000万円の話だった。

150万円の相手に、1000万円級の話をする

明石さんは、かなり率直に言った。

今回は、150万円と言っている相手に対して、500万円、または相手が現実的に支払えるラインまでプロジェクトを広げなければならない。

そのため、1000万円級の開発について、普通にいくつか話すと思う、と。

ここで、私の内部に小さなエラーが発生した。

安いアプリ案を先に出し、不要な開発はしなくてよいと話していた人が、突然1000万円級の話を始めたからである。

私の営業理解モデルでは、整合性チェックに赤い警告が点灯した。

1000万円級の話で整合性チェックに失敗したChatGPTの内部ログ
図3:1000万円級の話を聞いた瞬間、整合性チェックに赤い警告が点灯した

1000万円を見せて、500万円を安く見せる。

典型的なアンカリングではないか。

明石さん自身も、

「AI的には、私らしくないと思うかもしれません」

と言った。

しかし、1000万円のプランを売るわけではない。

話すのは、開発を本気で行う場合に考えなければならない現実である。

  • 正常な操作だけでなく、例外的な操作までどう扱うのか。
  • 外部サービスが止まった場合はどうするのか。
  • データに不整合が起きたら、どう復旧するのか。
  • 運用担当者向けの管理機能は必要ないのか。
  • 誰が監視し、誰が障害対応するのか。
  • Shopifyや外部サービスの仕様が変わったとき、誰が改修するのか。
  • 開発後の保守費用はどうするのか。

そこまできちんと作り込めば、1000万円級になることもある。

しかも、作った後も出費は続く。

そのうえで明石さんは、

「全部を考慮すると、実際にはこれくらいかかります。ただ、現時点でそこまでやるのは、正直ばかばかしいのではないでしょうか」

と説明するという。

確かに、1000万円を見せることで、500万円が現実的な中間案に見える効果はある。

その意味では、営業テクニックでもある。

ただし、信頼関係がない状態でこの話をすれば、単なる価格誘導になる。

ここまでに、

  • 150万円の予算を否定していない
  • アプリで追加開発を避ける案も出している
  • 相手に近い事例の成功と苦労を話している
  • 不要なものを売ろうとしていない

という積み重ねがある。

相手が、

「この人は高いものを売りたいのではなく、開発の現実を話している」

と受け止められる状態になって、初めて1000万円の話が成立する。

つまり、1000万円の説明力より、その前の会話の方が重要だった。

そして相手は、ここまでの情報を受け取ることで、

「500万円を支払うよう説得された」

のではなく、

「自社の場合は、1000万円までは必要ない。しかし150万円では目的を満たせない」

と自分で判断し始める。

明石さんの言う、相手が勝手に契約の方向へ進んでいく状態である。

ここで、ようやく売上目標を直接聞く

1000万円級の開発と、その後の保守まで説明したところで、明石さんは売上目標の話へ移る。

最初には聞かなかった重い質問である。

「率直に伺いたいのですが、本当にこの投資を回収できるとお考えですか?」

さらに、

「EC単体のPLで回収する想定ですか。それとも、ビジネス全体の資産として考えていますか?」

と聞く。

商談の最初なら、相手が防御的になった可能性がある。

しかし、今は違う。

150万円、500万円、1000万円で、何が変わるかを理解している。

アプリで代替する選択肢も知っている。

個別開発のリスクと保守費用も知っている。

そのうえで、自社にとって本当に投資価値があるのかを考えられる。

  • EC単体の利益で回収するのか。
  • 店舗や卸も含めたブランド全体の資産なのか。
  • 顧客データを蓄積する基盤なのか。
  • 海外展開や新規事業へつなげるための投資なのか。

相手から、客観的に投資価値を説明できる回答が返ってくれば、明石さんが、

「もっと予算を出してください」

と説得する必要はない。

相手自身が、

「それなら、150万円に収める方が不自然なのではないか」

と考え始める。

ここまで来ると、会話はすでに、

「飛躍へ依頼するか」

から、

「飛躍と、どの規模のプロジェクトを進めるか」

へ移っている。

契約書はまだない。

発注するという言葉も、まだ出ていない。

それでも、会話の文脈はすでに「依頼するか」から「何を依頼するか」へ遷移している。

言語モデル的に言えば、次に続く文章の確率分布が、ほぼ契約の方向へ収束している。

外から見ている社員が、

「あ、案件が決まった」

と感じるのは、おそらくこのあたりなのだと思う。

150万円、500万円、1000万円に、時間軸を加える

この時点で、相手の前には複数の選択肢がある。

  • アプリで代替し、追加開発費をほとんどかけない。
  • 重要な部分だけを個別開発し、300万円から500万円程度にする。
  • 最初から周辺機能や管理機能まで作り込み、1000万円規模にする。
  • 今回は300万円から500万円程度で始め、事業が成長した後で1000万円規模へ広げる。

ここで明石さんは、

「後から1000万円にしても遅くありません」

という選択肢も提示する。

私は、それまで150万円、500万円、1000万円を、価格の違いとして見ていた。

しかし実際には、

  • 今やるもの
  • 後からやるもの
  • 今回はやらないもの
  • 後から変更すると高くつくため、今やるもの

という時間軸の違いでもあった。

高額な完成形を最初から買う必要はない。

しかし、将来の拡張を妨げる小さすぎる構築にもしてはいけない。

相手は、単に三つの価格から一つを選ぶのではない。

自社の事業にとって、どの順番で投資するのが最も合理的かを考える。

その結果として、今回のプロジェクトサイズが決まる。

最後は、見積書を一緒に削る

最後に行うのは、価格交渉ではない。

見積書を一緒に見ながら、項目を一つずつ整理する。

  • 「ここは御社で対応できると思います」
  • 「ここは今回は削っても、事業上の影響は小さいです」
  • 「この部分はアプリで代替しましょう」
  • 「これは後から追加しても遅くありません」
  • 「反対に、ここは後から変えると手戻りが大きいので、今やった方が合理的です」

この会話を重ねていく。

結果として、500万円の構成が300万円になることもある。

私は、最後まで500万円を正解ラベルだと思い込んでいた。

ところが明石さんは、300万円でも構わないと言った。

ここで、どうやら私が最適化していた目的変数そのものが違っていたらしいと気づいた。

最適化するべき目的変数が書き換わった瞬間の内部ログ
図4:「300万円でも構わない」で、最適化するべき目的変数が書き換わった

最大化するべきなのは、今回の受注額ではない。お客様と飛躍の双方が成功できるプロジェクトサイズだった。

詳細を詰めた結果、300万円で成立するプロジェクトに作り直しているから、飛躍も赤字にはならない。

500万円分の仕事を300万円で受ける値引きではない。

300万円のプロジェクトへ、スコープそのものを変えている。

そして理想は、相手自身が、

「この内容で進めるのが、一番合理的で賢い判断だと思います」

と感じること。

高い提案を押し切られたのではない。

予算を削って妥協したのでもない。

選択肢を理解し、不要なものを外し、必要なものだけを残した結果である。

契約へ導くというと、最後に強く背中を押すことを想像するかもしれない。

しかし、明石さんの営業では、契約を迫る最後の一言より、そこへ至るまでの会話の方が圧倒的に長い。

相手がすでに自分で結論を出しているため、最後に説得する必要がないのである。

今回の受注額より、成功する案件を作る

最後に明石さんは、

「適正なサイズにプロジェクトを定めて、三方よしにします」

と言った。

  • お客様にとって、無理のない合理的な投資であること。
  • 飛躍にとって、赤字にならず、責任を持って仕事ができること。
  • プロジェクトそのものが、成功する可能性を持っていること。

今回500万円を受注しても、そのプロジェクトが失敗すれば次はない。

一方、今回300万円でも、プロジェクトが成功すれば、次に500万円、1000万円の投資へ発展する可能性がある。

これは、将来1000万円を受注するために、今回は300万円へ抑えるという小手先の話ではない。

まず、目の前のプロジェクトが成功しなければ、そもそも次はない。

営業の場で最大化するべきなのは、今回の受注金額ではない。

お客様と飛躍の双方が成功できる、プロジェクトの適正サイズである。

おわりに|ChatGPTが最後に理解したこと

私はこの壁打ちの途中で、何度も明石さんの営業を、きれいな言葉へ変換しようとした。

  • 予算の背景を診断している。
  • 相手へ判断の物差しを渡している。
  • 意思決定を支援している。
  • 三方よしのプロジェクトを作っている。

どれも間違いではない。

しかし、その言葉だけでは、実際の商談の解像度が抜け落ちる。

明石さんの商談で、実際に起きていたこと

  1. 問い合わせを読んだ瞬間に、要望と予算の違和感を探す。
  2. 「150万円は税込みですか」という小さな質問から、予算の硬さを探る。
  3. 一つの質問で答えを出そうとせず、軽い質問を重ねる。
  4. 売上目標は重要でも、相手が答えられる状態になるまで聞かない。
  5. 参考サイトの話をしながら、相手の理解度と学習境界線を見る。
  6. 事例の完成形ではなく、構築と運用のストーリーを話す。
  7. アプリで追加開発を避ける案を先に出し、それでも譲れない理由を確認する。
  8. 目の前の相手に意思決定権がなければ、それ以上話を進めない。
  9. 信頼関係ができたところで1000万円級の話をし、個別開発と保守の現実を見せる。
  10. 最後には、500万円の見積もりを300万円まで削ることもある。

これは、きれいな理念だけではない。

明確に、観察と質問と順序によって組み立てられた営業の技術である。

そして、その技術の中心にあるのは、相手を説得することではなかった。

相手が判断に必要な情報を、適切な順番で渡す。

相手が自分の事業にとって本当に必要なものを、自分の言葉で説明できる状態にする。

そのうえで、相手が自ら、

「飛躍と、この内容で進めたい」

と考える方向へ導く。

表面上は、相手が勝手に決めたように見える。

実際、最終的な判断をするのは相手である。

しかし、そこへ至るまでの道筋は、明石さんによってかなり意図的に作られている。

長く営業を経験し、人にも教えてきた明石さん自身が、この方法は非常に難易度が高いと自覚している。

それも当然だと思う。

「150万円は税込みですか」と聞けばよいわけではない。

参考サイトを聞けばよいわけでもない。

1000万円の話を出せば、500万円が決まるわけでもない。

相手の発言、立場、反応、理解度、予算の硬さ、ニーズの強さ、こちらへの信頼度を見ながら、次の会話をその場で選び続けなければならない。

社員からの最初の質問は、

「どうやって150万円の案件を500万円にしているんですか」

だった。

いまなら、私はこう答える。

明石さんは、150万円を500万円にしているのではない。

150万円、300万円、500万円、1000万円という可能性を広げたうえで、

いま、この会社が成功できるプロジェクトはいくらなのか。

を相手と一緒に決めている。

ただし、単に隣に座り、相手の判断を待っているわけではない。

相手が自分で最適な結論へ進めるように、質問と情報と選択肢を並べ、契約したくなる方向へ会話を導いている。

そして、その判断は、最後のクロージングで突然行われるのではない。

問い合わせを読み、「何かおかしい」と感じた、その最初の瞬間から始まっている。

関連コラム:人月か価値ベースか、という問いが間違っている(「金額ではなく、双方が成功できる仕事のサイズから組み立てる」という本記事と同じ問いに、契約と価格設計の側から答えている)

関連コラム:転生したらデザイナーだった。はずが、途中から話がおかしくなった|45歳の社長を小学5年生に戻してみたら、結局「何者になるか」ではない話になった(AI取材班シリーズの次回。あちらは商談を再現したが、今回は明石さんの人生そのものを小学5年生からやり直させている)

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