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COLUMN

プレミアムブランドは、「何に」「いつ」高く払うかを見る|中国のprestige beautyと韓国のSelf-giftingから考える、市場機会の読み方

最近、海外のラグジュアリー市場に関する二つの記事が目に留まった。

一つは中国。

富裕層・高所得層の間で、高級バッグなどのレザーグッズよりも、prestige beautyと呼ばれる高価格帯の化粧品への支出意向が強くなっているという話だ。

Reutersが紹介した調査では、今後1年間でprestige beautyへの支出を増やすと答えた中国の富裕層は37%。一方、レザーグッズは4%だった。

もう一つは韓国。

昇進した。仕事で成果を出した。個人的な目標を達成した。

そうしたタイミングで、自分自身にジュエリーなどを買うSelf-giftingが、ラグジュアリー消費の一つの機会として改めて注目されているとVogue Businessが伝えている。

ただ、今回は「アジアで新しい消費トレンドが起きている」という話をしたいわけではない。

自分へのご褒美も、手の届く範囲で最高のものを選ぶ消費も、昔から存在する。

日本で長く消費を見てきた人からすれば、どちらもそこまで目新しい話ではない。

それでもこの二つの記事に興味を持ったのは、現在の市場環境の中で並べて考えてみると、プレミアムブランドが市場機会をどう読むべきかについて、いくつか重要なことが見えてくるからだ。

中国で起きているのは、単純なダウントレードではない

中国では、不動産市場の低迷や消費者心理の弱さを背景に、かつてのような勢いでラグジュアリー商品が売れているわけではない。

Bainによれば、2025年の中国本土のパーソナルラグジュアリー市場は前年比3〜5%縮小した。

ただし、その中身にはかなり差がある。

Beautyは4〜7%成長した一方、レザーグッズは8〜11%減。時計も14〜17%減だった。

ここだけを見ると、「景気が悪くなったので、高いものを買わなくなった」と解釈したくなる。

しかし、Reutersの記事に登場する中国市場の専門家は、もう少し面白い表現をしている。

中国のaspirational consumerは単純にダウントレードしたのではなく、自分には無理なく買えるカテゴリーのトップへ移ったというのである。

これは非常に重要な違いだ。

100万円のバッグには手を出さない。

しかし、3万円、5万円の化粧品なら、そのカテゴリーで最高級の商品を選ぶ。

つまり、「高い商品を買わない」のではなく、「どのカテゴリーで高いものを買うか」を選別している

同じ数字の、二つの読み方

  • よくある読み方:景気が悪くなったので、高いものを買わなくなった。
  • 実際に起きていること:手が届かないカテゴリーの下位ではなく、無理なく買えるカテゴリーのトップへ移った。
  • 問われているのは「高いものを買うかどうか」ではなく、「どのカテゴリーで高いものを買うか」。

もちろん、このデータだけから「バッグに使っていた予算が、そのまま化粧品へ移動した」とまでは言えない。

Beautyには、消耗品であること、毎日使うこと、Self-careや自己投資として支出を正当化しやすいことなど、このカテゴリー固有の強さもある。

ただ、それを差し引いても示唆はある。

不景気になると、高価格を何が支えていたのかが見える

この現象は中国特有のものでもない。

少なくとも日本では、かなり以前に似た現象が確認されている。

2009年、リーマンショック後の日本のラグジュアリー消費についてMcKinseyが調査した際、時計・ジュエリー、ファッション、レザーグッズは大きな影響を受けた一方、スキンケアや化粧品の落ち込みは相対的に小さかった。

さらに当時すでに、消費者がバッグやアパレルだけでなく、高級ホテル、レストラン、スパなども含めて「何に贅沢するか」を比較するようになっていたことが指摘されている。

だから、中国でまったく新しい消費行動が生まれたと考える必要はない。

むしろ、成熟したラグジュアリー市場で以前から起きてきたことが、中国ほど巨大な市場でも明確に表面化してきたと見る方が自然だと思う。

そして、こうした景気後退局面は、ブランドにとって一つのテストにもなる。

100万円のバッグの価格は、原材料や機能を積み上げて100万円になっているわけではない。

もちろん品質、クラフツマンシップ、デザイン、希少性などはある。

しかし、それを超える価格プレミアムを、ブランドへの憧れ、社会的シグナル、自己表現、文化的価値などが支えている。

景気が良いときには、この構造は見えにくい。

景気や消費者心理が悪化すると、「欲しいかどうか」だけではなく、「今、この金額をここに払う理由があるか」が問われる。

ここで、カテゴリーによる差が出る。

厳密には、これは商品の価格を変えたときの需要変化を見る「価格弾力性」だけの話ではない。

所得、資産価格、消費者心理などの変化に対して、需要がどの程度影響を受けるのか。

つまり、ブランドやカテゴリーの景気感応度、不況耐性が表に出てくる。

そこで何が残るかを見ることは、そのカテゴリーの高価格が本質的に何によって支えられていたのかを考える材料になる。

プレミアムブランドには「市場のタイミング」がある

ここから先は、中国市場の分析というよりブランド戦略の話になる。

企業から、「ブランドをもっとプレミアム化したい」「高級感のあるクリエイティブを作ってほしい」「高価格帯の商品を企画したい」「富裕層を狙いたい」という相談を数えきれないほど受けてきた。

そのとき、商品やブランドそのものを考えることは当然重要だ。

  • 何を強みにするのか。
  • 誰に売るのか。
  • どんな世界観を作るのか。
  • 競合と何が違うのか。

しかし実際のブランド戦略では、もう一つ非常に重要な要素がある。

タイミングである。

  • そのカテゴリーに対して、消費者がお金を多く払いたいと思う環境になっているか。
  • 消費者が商品の違いを理解できるほどカテゴリーが成熟しているか。
  • 社会的な価値観とブランドの提供価値が噛み合っているか。

こうした条件によって、同じ商品でもプレミアム化しやすい時期と、そうでない時期がある。

ブランド戦略は自社の内側だけを見て作るものではない。

自社の価値を、市場側が受け入れる準備ができているかを見る必要がある。

だから中国でprestige beautyが伸びているというニュースから、「これから中国では化粧品がいい」という結論を出しても、ほとんど意味はない。

見るべきなのは、今、消費者は何にならプレミアムを払いやすいのか。

そして、次に同じような追い風が吹くカテゴリー、市場はどこなのか、ということである。

これは単純にSWOT分析しましょう、という話とはちょっと趣旨が違う。

高級茶、チョコレート、日本酒、文具、調理器具、工芸品。

100万円の商品を作らなくてもいい。

そのカテゴリーの中で、「せっかくなら一番良いものを買いたい」と思う消費者が増えるタイミングを捉えられれば、プレミアム市場は成立する。

改めて「自分へのご褒美」を考える

もう一つ興味を持ったのが、韓国のSelf-giftingだった。

こちらは中国以上に、何も新しい話ではない。

日本語にすれば、昔からある「自分へのご褒美」である。

1990年にはすでに消費者研究でSelf-giftが扱われており、rewardやtherapyといった文脈だけでなく、自分自身への象徴的なコミュニケーションとして整理されている。

では、なぜ改めて興味を持ったのか。

これは完全に私自身のクライアントワークから来ている。

ECを中心とした支援をしているので、「ギフトをもっと伸ばしましょう!」という話をする機会が自然と多くなる。

ギフト需要を考えると、

  • 母の日
  • 父の日
  • 誕生日
  • 結婚
  • 出産
  • 送別
  • クリスマス

といった、誰かに何かを贈る機会を思い浮かべる。

世の中のブランドコミュニケーションもそうだ。

「大切な人へ」「感謝を伝える」「想いを届ける」。

どれも綺麗である。

もちろん、それでいい。

ただ、人間が高いものを買う理由は、そんなに綺麗なものばかりでもない。

  • 大きな仕事を終えた。
  • 昇進した。
  • 資格を取った。
  • 一年間頑張った。
  • 今日はもう十分働いた。

そういう理由でも人は買う。

考えてみれば当たり前なのだが、ギフト需要を考える仕事を続けているうちに、私自身もいつの間にか「誰かに贈る」側へ思考が寄っていた。

そこで改めて、自分自身へ贈るという購買機会を、ブランド戦略として再定義し、設計したいと思った。

Self-giftingを全部「ご褒美」で括らない

ただし、ここでも「Self-giftingが伸びている。自分へのご褒美キャンペーンをやろう」と進むと、かなり危ない。

Self-giftingにも役割がある。

  • 疲れたから、少し高いチョコレートを食べる。
  • 大きな仕事を終えたから、良い酒を開ける。
  • 昇進したから、ジュエリーを買う。

すべてSelf-giftingだが、意味は同じではない。

今回の韓国の記事で特に興味深かったのは、昇進やキャリア上の成果をきっかけとして、自分自身に重要なジュエリーを購入するという話だった。

そこで買われるジュエリーは、単なる快楽消費ではない。

自分が一つのステージを終え、次へ進んだことを形として残す。

そんな意味を持っている。

何年後かにそのジュエリーを見て、「あの仕事をやり切ったときに買ったものだ」と思い出すこともできる。

飲み屋でパーッと使う10万円とは、同じ10万円でも役割が違う。

少し大げさに言えば、次のステージへ進む自分への覚悟の証に近い。

ここには、美意識や社会的な価値観まで含んだ消費がある。

だからジュエリーとの相性がいい。

では、同じことを高級茶ブランドがそのまま真似して、「昇進した自分に最高級のお茶を」と言えばいいか。

おそらく違う。

茶は飲めばなくなる。

しかし、「大きな仕事を終えた夜、一人で最高の茶を淹れる」なら成立するかもしれない。

ジュエリーにとってSelf-giftingが記念や証であるなら、茶や酒にとっては儀式になり得る。

チョコレートなら、もっと直接的にrewardとの相性がいい。

つまり、Self-gifting需要を取り込むのではなく、自社カテゴリーがSelf-giftingの中でどんな役割を担えるのかを考える必要がある

CEPを増やすとは、広告コピーを増やすことではない

私は普段、ブランドやECの支援でカテゴリーエントリーポイント、いわゆるCEPの考え方をよく使う。

CEPは、Ehrenberg-Bass Instituteの整理では、消費者がカテゴリー購買へ向かうときに、そのカテゴリーを想起するきっかけとなる状況や目的、感情などを指す。

その意味では、Self-giftingも非常に面白い。

ただし厳密には、「Self-gifting」そのものを一つのCEPと考えるより、

  • 昇進した。
  • 大きな仕事を終えた。
  • 資格を取った。
  • 独立した。
  • 一年頑張った。

といった具体的な状況まで分解した方がいい。

従来のギフトマーケティングでは、カレンダーに存在するイベントを取りに行くことが多い。

母の日は5月。クリスマスは12月。バレンタインは2月。

一方Self-giftingでは、顧客一人ひとりの人生の中に存在するイベントまで購買機会になる。

ただし、CEPを増やすことと、広告コピーを増やすことは同じではない。

韓国で昇進記念のジュエリーが成立しているからといって、「昇進した自分へのご褒美に」というコピーを全商品に付けても意味はない。

ここでも重要なのは、なぜその市場で、そのカテゴリーが、そのタイミングに選ばれたのか、まで戻ることである。

おわりに|見るべきは「カテゴリー × 消費者心理 × タイミング」

ここまで考えると、中国のprestige beautyと韓国のSelf-giftingは、実は同じことを別の角度から教えてくれる。

中国の事例から考えたいのは、消費者は、何になら高いお金を払うのか。

韓国のSelf-giftingから考えたいのは、消費者は、いつなら高いお金を払う理由を持てるのか。

この二つを組み合わせると、プレミアムブランドが見るべきものが整理できる。

プレミアムブランドが見るべき三つの軸

  • カテゴリー:消費者は今、何になら高いお金を払うのか。
  • 消費者心理:その高価格を正当化しているのは何か。
  • 購買タイミング:消費者は、いつなら高く払う理由を持てるのか。

トレンドを見ることは重要だ。

しかし、「中国ではBeautyが伸びている」「韓国ではSelf-giftingが注目されている」という表面だけを見て、その施策を横展開してはいけない。

それでは、解くべき問いを間違える。

なぜBeautyだったのか。

なぜジュエリーだったのか。

なぜ今なのか。

どんな消費者心理がその高価格を正当化したのか。

そして、その条件は自社のブランド、カテゴリー、市場にも存在するのか。

そこまで考えて初めて、ニュースやトレンドが戦略になる。

ブランドは、自分たちが何者であるかを決めれば終わるものではない。

その価値が最も受け入れられる市場とタイミングを選ぶことも、ブランド戦略の一部である

以前から存在した商品価値でも、市場の成熟、消費者心理、社会的な価値観が揃えば、突然大きな機会になることがある。

逆に、どれだけ良い商品でも、タイミングを外せば簡単には広がらない。

とある健康・美容系の企業でも、一歩先では行き過ぎで、半歩先を狙うという話がある。

だからこそ、私たちはトレンドそのものを追うのではなく、そのトレンドが成立した条件を読む必要がある。

流行っているものを真似するのは簡単だ。

その裏側にある条件を分解し、自社にとって今がそのタイミングなのかを判断する。

こちらの方が、はるかに難しい。

そして、その仮説を現実の販売戦略に乗せて成果を出す。

ここからがプロの仕事なのだと思う。

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