フライホイール型カスタマージャーニー② ケーススタディで学ぶ、フライホイールの設計 – 株式会社飛躍 | Premier Partners

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COLUMN

フライホイール型カスタマージャーニー② ケーススタディで学ぶ、フライホイールの設計

前回の記事では、フライホイール型カスタマージャーニーについて、チャネル同士を線でつなぐだけでは意味がないという話を書きました。

つながっているのは、チャネルではありません。

ある体験によって顧客の中に新しい欲求が生まれ、その欲求を満たすために次のチャネルへ移動する。

これが、フライホイールを考えるうえでの基本だと思っています。

ただ、この話をすると、次にこういう疑問が出てきます。

「では、InstagramやLINE、メルマガ、Amazon、店舗には、それぞれどのような役割を持たせればよいのでしょうか」

これは非常に正しい質問です。

しかし、「Instagramは認知、LINEはリピート、メルマガは顧客育成です」と答えても、正しいようで、ほとんど何も言っていないのと同じです。

同じInstagramでも、ブランドによって顧客が期待するものは違います。同じLINEでも、商品の購入頻度、店舗の有無、顧客との距離によって役割は変わります。

結局、各チャネルの役割は、その企業の商品、顧客、ブランド、利益構造、供給能力、社内体制まで見ないと決められません。

今回は、架空案件を使ったケーススタディです

今回は、架空の企業から実際に相談を受けたという設定で、ヒアリングから課題整理、チャネルの役割設計、優先施策の決定まで、案件がどのような流れで進んでいくのかをストーリー形式で解説します。

最初から完成したフライホイールの図を提示するのではありません。

数字を見て違和感を持ち、追加で質問し、当初の仮説を修正しながら、少しずつ設計を進めていきます。

実際のコンサルティングに近い思考の流れを、追体験してもらうことが今回の目的です。

なお、これから登場する企業、ブランド、人物、数字は、すべて架空です。

また、実際の案件として、広告データ、顧客分析、競合分析、商品別収益、施策ごとの予算、KPI、実行体制まで詳細に書こうとすると、この記事の文字数はおそらく3倍くらいになります。

さすがにそれでは、記事というより報告書です。

今回は、フライホイール設計の考え方が伝わる範囲まで情報を絞っています。

「実務では、この後さらに細かい確認と設計が続く」という前提でお読みください。

醸日のフライホイール設計プロジェクトを、現状確認・経営課題の整理・ブランド価値の確認・顧客欲求の仮説化・チャネルの役割整理・不足と重複の特定・優先順位付け・半年以内の施策提案という8ステップで進める流れを示した図
フライホイール設計は「図を作ること」が目的ではない。8つのステップを順に踏んで設計していく

架空の発酵調味料ブランド「醸日」

今回相談を受けたのは、地方の老舗醸造会社が展開する発酵調味料ブランド「醸日(じょうじつ)」です。

ブランドとしての歴史は15年ほど。5年前に、現在のブランドへ大きくリニューアルしました。

ブランドが掲げている約束は、

「毎日の料理を、少しだけ丁寧にする。」

商品は、生味噌、だし醤油、発酵ドレッシング、甘酒など。

価格帯は、スーパーで販売されている一般的な調味料よりも明らかに高くなっています。

生味噌は1,200円から1,800円。だし醤油は1,400円。発酵ドレッシングは1,100円。3本セットは4,500円程度です。

年商は約8億円。

売上構成は、次のようになっています。

  • 自社EC:42%
  • Amazon:18%
  • 直営店舗:17%
  • 百貨店・卸売:13%
  • 催事・料理教室など:6%
  • その他:4%

自社ECとAmazonを合わせると、オンライン売上が約60%です。

Instagramのフォロワーは約8万5,000人。LINEの友だちは約4万人。メルマガ会員も約2万5,000人います。

直営店舗は東京と地方に2店舗。催事、料理教室、蔵見学なども行っています。

これだけ聞くと、かなり整っているように見えます。

ECもある。Amazonでも売れている。SNSにも一定のフォロワーがいる。店舗もイベントもある。

フライホイールを描く材料は、十分にそろっているように見えます。

しかし、現場では次のような問題が起きていました。

  • Instagram、LINE、メルマガで、ほぼ同じ新商品やキャンペーンを案内している。
  • どのチャネルからも、自社ECへ直接送客しようとしている。
  • Amazonは成長しているが、自社ECは伸び悩んでいる。
  • 店舗やイベントの満足度は高いものの、その後の購買行動が計測できていない。
  • コンテンツ制作の負担も大きく、担当者は疲弊している。
  • 経営者はブランドの世界観を大切にしたい。一方、現場は短期売上を求められている。

まあ、よくある話です。

そこで、まずは現在の売上、広告、顧客、レビュー、商品、製造体制、店舗やイベントの状況を、数字とヒアリングの両面から確認しました。

その結果、醸日が今後スケールするためには、次の課題があることが分かりました。

醸日が抱えていた4つの経営課題

  • 商品単価を向上させること
  • 新規顧客の獲得コストを下げること
  • ギフト、とりわけカジュアルギフトを強化すること
  • 店舗やイベントなど、オフラインチャネルをより有効に活用すること

ここで重要なのは、フライホイールを作ること自体が目的ではないということです。

フライホイールの設計も、あくまでこれらの経営課題を解決するための手段です。

短期的に広告効率を改善しながら、中長期的にはブランドの価値を高め、顧客単価と継続率を上げる。

さらに、現在は十分に獲得できていないカジュアルギフト需要を取り込み、オンラインとオフラインの体験を接続する。

そうやって、数年後に理想的な顧客体験と売上構造を作る。

そのために、既存チャネルの役割を見直し、不足しているチャネルやコンテンツを段階的に追加していきます。

依頼内容としては、Instagram、LINE、メルマガ、自社EC、Amazon、店舗、イベントの役割を整理し、半年以内に実行すべき施策を提案してほしい、というものでした。

では早速、各チャネルの役割を決めて、フライホイールを描いてみましょう。

……とは、私はなりません。

発酵調味料ブランド「醸日」の売上チャネル構成(自社EC42%・Amazon18%・直営店舗17%・百貨店卸売13%・催事料理教室6%・その他4%)と、現場で起きていること、案件の4つの論点を1枚に整理した図
ケース概要:オンライン約60%・オフライン約36%という売上構成と、この案件の4つの論点

フライホイール以前に、広告がおかしくないですか

最初に確認したのは、自社ECの数字です。

自社ECの年間売上は約3億3,600万円。月平均で約2,800万円です。

平均注文単価は約6,400円。CVRは2.3%。新規顧客獲得CPAは約7,500円でした。

ここで、一度思考が止まります。

CPAが7,500円で、CVRが2.3%。

単純計算すると、CPCは約173円です。

7,500円 × 2.3% = 約173円

平均注文単価は6,400円なので、初回購入だけでは広告費を回収できません。

90日以内のリピートを含めて、ようやく採算が合う設計です。

ちなみに、私が支援している別の食品ブランドでは、P-MAXのCPCが約29円、CVRが2.6%、CPAは約1,260円、AOVは同じく約6,400円という数字が出ています。

もちろん、ブランドや商品、配信対象が異なるので、単純比較はできません。

それでも、CPC173円はかなり高い。

いや、フライホイールを考える前に、まず広告を直した方がよくないですか。

当然、そう思います。

リターゲティングが過剰になっているのかもしれません。あるいは反対に、認知目的の配信へ予算が寄りすぎて、購買意向の低い新規顧客にばかり当たっている可能性もあります。

ただ、ここで少し不思議なのは、CVR2.3%という数字です。

私の肌感覚では、食品ECとして極端に低い数字ではありません。むしろ、流入の大半が完全新規の顧客であれば、高い可能性すらあります。

つまり、サイト全体のCVRだけを見ても実態が分からない。

既存顧客や指名検索がCVR5%以上で全体を引き上げ、新規向けのMeta広告はCVR0.5%なのかもしれません。

反対に、新規・非指名流入でも2%以上購入しているのであれば、商品やサイトではなく、入札単価や配信設計の問題である可能性が高い。

実務では、少なくとも次のように分解して確認します。

  • 新規顧客と既存顧客
  • 指名検索と非指名検索
  • リターゲティングと新規配信
  • Google広告とMeta広告
  • 商品訴求と認知訴求
  • 商品ページ、ランディングページ、デバイス別

フライホイール設計を依頼されたからといって、広告の問題を無視してYouTubeを始めるわけにはいきません。

明らかに穴が空いているバケツへ、新しいチャネルから水を注いでも仕方がないからです。

少なくとも広告改善は、最優先候補に入ります。

ただし、広告を直せば今回の問題がすべて解決するわけでもありません。

広告は、現在の価値を効率よく届けるための手段です。

そもそも何を届けるべきなのかが曖昧であれば、広告の効率にも限界があります。

そこで、次はブランドの本質的な価値を確認します。

自社ECのCVR2.3%・CPC約173円・CPA約7,500円という広告指標の構造と、参考ブランド(CPC約29円・CPA約1,260円)との比較表
CPAの構造と参考ブランドとの比較。AOV6,400円に対してCPA7,500円は初回購入で回収できない

そもそも、このブランドは何を売っているのか

醸日が顧客に提供したい本質的な価値は、

手間を増やさず、毎日の食事を少し丁寧で満足できるものに変えること。

です。

発酵や老舗の技術は、それ自体が顧客価値なのではありません。

それらは、簡単に料理がおいしくなることを支える根拠です。

機能的には、普段の料理が簡単においしくなる。

情緒的には、忙しい中でも、少しきちんと暮らせている感覚を得られる。

自己表現的には、食や家族の時間を大切にする自分でいられる。

会社としては、

「発酵の知恵を、現代の暮らしに使える形でつなぐ。」

というフィロソフィーを掲げています。

伝統をそのまま保存するのではなく、現在の家庭で無理なく使える商品へ再編集する。

この時点で、「Instagramは認知、LINEはリピート」と考えるより、かなり解像度が上がります。

醸日が売っているのは、単なる味噌や醤油ではありません。

高度な発酵技術を、忙しい家庭でも簡単に使える形へ翻訳したものです。

では、その価値は顧客に伝わっているのでしょうか。

老舗醸造会社の技術、発酵・麹・熟成のノウハウ、失敗しにくい味への再編集、簡単なのにおいしい、毎日の食事を少し丁寧にする、という5段階でブランドの本質的価値を整理し、機能的価値・情緒的価値・自己表現的価値に分解した図
発酵技術そのものが価値なのではなく、暮らしの中で「簡単においしくできる」ことを実現するための根拠である

星5の顧客は、「おいしい」だけでは終わっていない

自社ECのレビューは平均4.72。約3,800件。

Amazonでは平均4.48。約6,500件のレビューがありました。

全体的には、かなり評価されています。

当然、星5レビューで最も多く出てくる言葉は「おいしい」です。

しかし、星4レビューでも「おいしい」という評価は多く見られました。

では、星5と星4では何が違うのか。

差が最も大きかった言葉は、「簡単」でした。

星5の顧客は、

  • 「簡単なのにおいしい」
  • 「これだけで味が決まる」
  • 「忙しい日でも家族が喜んでくれる」
  • 「何に使っても失敗しない」

と書いています。

一方、星4の顧客は、

  • 「おいしいけれど、価格は高い」
  • 「使い方が限定的だった」
  • 「送料を考えると頻繁には買いにくい」
  • 「スーパーの商品との違いを説明しにくい」

と書いています。

つまり、味そのものは星4でも評価されている。

星5になるのは、商品が日常生活の中に入り、便利に使われ、価格にも納得されたときです。

ここで、ブランドの本質的な価値とレビューがきれいにつながりました。

醸日の強みは、単においしいことではない。簡単に、再現性高く、おいしくできることです。

しかも、醸日は母体となる醸造会社が自社で製造し、自社で販売しています。

店舗、EC、Amazon、料理教室、問い合わせ、レビューなどで得た声を、製造部門へ直接戻せる環境があります。

味、容量、使い方、価格、パッケージについて、比較的速くPDCAを回せます。

「売れた味」だけでなく、継続して使われる味まで追うことができる。

これは、ブランドとしてかなり大きな強みです。

ところが、その強みが十分に伝わっていません。

Amazonのレビューでは、スーパーの商品との価格差が分からないという声が出ていました。

親近感はある。使いやすさも伝わっている。商品評価も高い。

しかし、なぜこの価格なのか、なぜこの味を実現できるのかという奥行きが弱いのです。

自社EC約3,800件とAmazon約6,500件のレビューを分析し、星5の顧客に多い「簡単」「家族が喜ぶ」「味が決まる」というキーワードと、星4の顧客に多い「価格が高い」「使い方が限定的」「送料が気になる」というキーワードを比較した図
味の評価は星5と星4で共通して高い。分かれ道は、生活への定着度と価格への納得度

「簡単」だけでは、価格差を説明しきれない

「簡単においしくなる」は、非常に強い価値です。

ただし、「簡単」は親近感を作る一方で、場合によっては商品を軽く見せます。

便利そう。

使いやすそう。

忙しい家庭に良さそう。

そこまでは伝わる。

しかし、1,400円のだし醤油を、スーパーで買える数百円の商品と比べたとき、なぜそれだけの価格差があるのかまでは説明できません。

ここで必要になるのが、ブランドの奥行きです。

例えば、工場見学や蔵見学。

実際の原料に触れ、麹や熟成によって味が変わることを体験する。作り手の話を聞き、試食をする。

ただし、工場見学だけでは参加できる人数に限界があります。

その体験を、YouTubeなどの長尺コンテンツへ展開する必要があります。

シェフや料理人との企画も考えられます。

レストランの厨房でプロが使っていると紹介するだけでは、一般家庭から遠く感じられるかもしれません。

それよりも、

忙しいシェフが、自宅では実は醸日を使って簡単に店の味を再現している。

という話の方が、ブランドの価値とつながります。

プロだから難しい料理をするのではない。

プロだからこそ、家庭では手を抜くところを知っている。

そのうえで、味には妥協しない。

「これ、家では普通に使っていますよ」

とプロに言ってもらえたら、かなり強い。

これは「簡単なのにおいしい」という価値を、第三者が証明してくれます。

業務用の取り組みや、料理人との商品開発なども、一般消費者向けにもっと紹介してよいでしょう。

「プロ向けに見せると、家庭向けには難しく見えるのではないか」という懸念は理解できます。

しかし、そこは見せ方の問題です。

難しい技術をそのまま見せるのではなく、

高度な技術があるから、家庭では簡単に使える。

という順番で伝えればよい。

ここまで考えると、プレミアムラインの意味も見えてきます。

親近感の領域・納得の領域・驚きの領域・信頼と憧れの領域という4段の階段で、顧客のブランドへの没入度と、各段を担う施策(レシピ、背景技術、プロの活用法、蔵見学やプレミアムライン)を示した図
醸日は1段目までは強いが、2段目以降へ進む導線が弱い。各チャネルが階段のどの段を担うのかを明確にする

プレミアムラインは、売上だけを作るものではない

醸日の現在の設備と人員では、品質を落とさずに拡大できるのは、売上ベースで1.3倍程度です。

一部の商品の供給余力はありますが、生味噌は熟成期間や保管スペースが制約になります。

ギフトセットは、製造より包装や出荷作業が先にボトルネックになります。

量を捨てる必要はありません。

ただ、中期的に同じ商品を同じ価格で売り続け、量だけで大きく成長するのは簡単ではありません。

そこで、プレミアムラインが選択肢に入ります。

  • 原料産地、麹、熟成期間、製造ロットを明確にした商品
  • 季節による味の違いを楽しむ商品
  • 料理人との共同開発
  • 蔵見学やテイスティングと組み合わせた限定品

ただし、プレミアムラインは、パッケージを豪華にして価格を上げればよいわけではありません。

誰が食べても、通常商品との違いを認識できる必要があります。

  • 香り、旨味、余韻などを比較できる。
  • 通常商品との食べ比べができる。
  • 料理人が使い分けを説明できる。

味噌や調味料を、ワインのように比較する体験があっても面白いと思います。

「調味料って、こんなに違うのか」

「味噌をこういう基準で選ぶのか」

という、既成概念を崩す体験です。

ここで大切なのは、プレミアムライン自体の売上だけではありません。

プレミアムラインを通じて、

醸日の通常商品にも、本来これだけ高度な技術が入っている。

と理解してもらうことです。

プレミアム商品が、通常商品の価格や品質を説明する証拠になる。

つまり、収益商品であると同時に、ブランド全体の信頼を引き上げる役割を持ちます。

また、CEPの観点でも意味があります。

現在の「忙しい日に、簡単に味を決めたい」という想起だけでなく、

  • 特別な日の料理を失敗したくない
  • 料理好きな人へ、ありきたりでないものを贈りたい
  • 家でも店のような味を出したい
  • 食の違いが分かるものを試したい
  • 作り手や発酵の背景まで楽しみたい

といった需要にも接続できます。

日常使いの親近感を残しながら、専門性とプレミアムな想起を取る。

その両方が必要です。

カジュアルギフトも、ブランドの広がりを作る

醸日の売上は、日常使いが約75%、カジュアルギフトが約18%、お中元やお歳暮などのフォーマルギフトが約7%という構成です。

フォーマルギフトが中心のブランドではありません。

むしろ可能性があるのは、カジュアルギフトです。

料理好きの友人へ。

忙しい家族へ。

健康を気遣う両親へ。

新居祝いや出産祝いの、少し気の利いた贈り物として。

「高級な調味料」というだけではなく、相手の生活を少し良くするギフトとして提案できます。

醸日の商品は、見栄えだけではなく、贈られた人が実際に使い切りやすい。

ここは大きな強みです。

ただし、現在のECでは、商品単位の説明が中心で、誰に、どのような理由で贈るのかという提案が弱い状態でした。

価格帯だけでなく、

「料理好きな友人へ」

「忙しい家族へ」

「家族の食事を気遣う両親へ」

というように、関係性や贈る理由から選べる必要があります。

さらに、ギフトを受け取った人が、商品の使い方や製造背景を知り、通常商品を購入する流れも考えられます。

カジュアルギフトは、単価向上の施策であると同時に、新しい顧客がブランドへ入る入口でもあります。

足りないのは、コンテンツではなく階段だった

ここまで来て、ようやくチャネルコンテンツの問題が見えてきます。

醸日に足りていないのは、コンテンツの本数ではありません。

顧客をブランドの奥へ進ませる階段です。

入口では、

「おいしそう」

「家族に食べさせたい」

「簡単に作れそう」

と思ってもらう。

購入後には、

「本当に簡単だった」

「家族が喜んだ」

「また使いたい」

と感じてもらう。

さらにその先で、

「なぜ簡単においしくなるのか」

「なぜスーパーの商品より高いのか」

「どのような技術で作られているのか」

「プロはどう使っているのか」

を知ってもらう。

そして、工場、店舗、料理教室、プレミアムラインなどを通じて、実際に違いを体験してもらう。

現在の醸日は、入口と購入には強い。

しかし、その先にある理解、驚き、参加、ロイヤリティ形成の階段が不足しています。

すべてのチャネルが、商品紹介をしてECへ送る。

これでは、いくらコンテンツを増やしても、同じ場所をぐるぐる回るだけです。

Instagramは、詳しいレシピを教える場所でなくてもよい

醸日では、Instagramにもメルマガにもレシピが掲載されていました。

同じレシピでも、チャネルによって役割を変えた方がよいと思います。

メルマガでは、購入した商品を使い切り、再購入につなげるためのレシピが重要です。

一方、Instagramでは、細かい作り方よりも、

「おいしそう」

「これを家族で食べたい」

「今日作ってみたい」

という感情を動かす方が向いています。

湯気、照り、音、食卓の様子、家族の反応。

顧客が実際に作った料理や、喜びの声をリポストする。

レシピを正確に教えるというより、その商品を使った後の幸福な場面を想像させる。

Instagramで発見し、興味を持ち、お試しで購入する。

購入後に詳しいレシピが必要になったら、メルマガやECのコンテンツへ進む。

同じ内容を各チャネルへコピーするのではなく、体験後に生まれる欲求によって、渡す先を変えます。

YouTubeとポッドキャストで、生活の中にいる時間を作る

醸日には、長尺コンテンツが不足しています。

ただし、YouTubeで30分の工場紹介動画を作ればよい、というだけではありません。

ブランドへ深く没入するコンテンツと、家事中にただ流しておけるコンテンツの両方が必要です。

醸日の主な購入者は、家族の食事を考える30代から50代の女性です。

料理、洗い物、洗濯、移動などをしながら、音声だけでコンテンツに触れる場面も多いでしょう。

そこで、

  • シェフが家庭料理について話す
  • 醸造担当者が季節や発酵について雑談する
  • 一週間の献立を考える
  • 顧客や料理教室の主催者と話す
  • 家族に好評だった料理を紹介する
  • 工場や厨房の音をそのまま届ける

といった、画面を見続けなくても成立するコンテンツを作ります。

毎回、商品を強く売り込む必要はありません。

むしろ、商品紹介がほとんどない回があってもよいと思います。

目的は、毎回クリックさせることではありません。

醸日を選ぶ人の暮らしや価値観のそばに、ブランドが存在する時間を増やす。

Instagramでは数秒で食欲を刺激する。

YouTubeやポッドキャストでは、家事中に30分接触する。

ECでは価格差の理由を理解する。

メルマガでは、購入後に使い続ける。

同じ人に対して、異なる深さと長さの体験を渡します。

こういう長い接触が、共感やロイヤリティを形成します。

短期売上だけを見ると、どうしても後回しにされる領域です。

しかし、これがないまま広告と販促だけを続けると、いつまでたっても顧客獲得コストの競争から抜けられません。

コンテンツは、自社だけで作らなくてもよい

料理教室についても、自社開催だけにこだわる必要はありません。

自社で会場を押さえ、集客し、講師を用意し、運営するのは負荷が高い。

それよりも、既に地域、子育て、料理、食育などのコミュニティを持っている人へ協賛する方法があります。

著名な料理研究家でなくても構いません。

フォロワー数は数千人でも、参加者から信頼されている人はいます。

商品を提供し、料理教室で実際に使ってもらう。

参加者が料理を作り、家族で食べる。

その様子を主催者や参加者が発信する。

ここでは広告のような完成された表現よりも、実際に人の生活の中で使われている事実が価値になります。

専門媒体、アフィリエイト、アンバサダーなども同様です。

現在の醸日は、自社のInstagram、自社のLINE、自社のメルマガから自社ECへ送る構造に偏っています。

自社の外側で発見される接点が少ない。

専門媒体で知る。

料理教室で使う。

信頼している人が紹介している。

Instagramで家族の反応を見る。

YouTubeで背景を知る。

そして、購入したくなったタイミングでECやAmazonへ行く。

認知から興味へ進む入口を、自社メディアの外側にも増やす必要があります。

コンテンツ供給源を Owned(自社EC・Instagram・YouTube・メルマガ・店舗)、Partner(料理教室・アンバサダー・シェフ・専門媒体・アフィリエイト)、Customer(レビュー・料理写真・家族の感想・イベント参加・UGC)の三層で設計する図
自社発信だけでは接点が頭打ちになる。外部の信頼と顧客参加が、認知と共感を広げる

家族で参加できる体験を作る

醸日は、家族の食事を考える人が主な顧客です。

それなら、イベントも「料理好きな個人」だけを対象にする必要はありません。

親子で味噌を仕込む。

複数のだしや味噌を家族で食べ比べる。

子どもが料理を作り、家族へ食べてもらう。

発酵について学びながら、最後に食卓を囲む。

家族で参加した体験は、商品知識だけでなく記憶として残ります。

しかも、子どもが喜んだ、夫が気に入った、家族で楽しかったという体験は、日常利用への強い理由になります。

ブランドと顧客本人だけではなく、顧客の家族まで含めて体験を設計する。

これは、醸日の本質的な価値とも相性がよいと思います。

親子イベントや食べ比べ→楽しい記憶と会話→家庭で再現し日常利用→家族の反応や写真投稿→再購入とギフトと次回参加、という家族体験の好循環を示した図
家族体験がつくる好循環。ブランドと顧客本人だけでなく、家族まで含めて体験を設計する

オフラインは、ECへ送客するためだけの場所ではない

醸日の売上の約36%は、店舗、百貨店、卸売、イベントなどのオフラインチャネルから生まれています。

オフラインが弱いわけではありません。

問題は、オフラインの体験が、その場で完結していることです。

店舗では試食ができます。スタッフの接客評価も高い。

料理教室や蔵見学の満足度も高い。

しかし、その後のEC購入やリピートとの関係はほとんど追えていません。

だからといって、店頭で無理やりLINE登録させればよいわけでもありません。

「オンラインへ送ること」を目的にすると、店頭体験が急に営業臭くなります。

私も、買い物をしている最中に突然「今ここでLINE登録すると」と言われると、少し身構えます。

店舗で体験した顧客には、その後、自然に新しい欲求が生まれます。

家でも使ってみたい。

別の商品も知りたい。

使い方を確認したい。

誰かへ贈りたい。

店舗にはなかったオンライン限定商品を見たい。

その欲求が生まれたときに、適切な接続先が見つかればよい。

例えば、

  • 商品ごとのレシピQR
  • オンライン限定商品の案内
  • ギフト用途の紹介
  • 蔵や製造背景を知る動画
  • レビュー投稿型の抽選企画
  • 家族で参加できる次回イベント

などです。

特に、レビュー投稿や料理写真の投稿を条件にした参加型企画は、オフラインで購入した顧客とオンラインの接点を作る手段になります。

顧客がブランドへ参加する理由を作り、その結果として接点が残る。

登録させること自体ではなく、顧客が参加したくなる体験を先に設計することが重要です。

Amazonは、無理に自社ECへ引っ張らない

Amazonについては、さらに難しい問題があります。

Amazonの顧客を、自社ECへ直接移動させる方法には限界があります。

規約や購入動機を考えても、Amazon購入者を無理に自社ECへ引っ張るべきではありません。

Amazonは、検索、比較、レビュー、スピード、補充に優れたチャネルです。

日常的に使う調味料は、なくなったら早く欲しい。

他の日用品と一緒に買いたい。

定期便で購入したい。

醸日のブランドストーリーを最も深く理解してもらう場所ではありませんが、発見、比較、安心、補充という体験では非常に強い。

つまり、AmazonはAmazonとして、優れたブランド体験を提供する。

自社ECへ無理に送るのではなく、Amazonで商品を知った人が、後日広告やInstagram、YouTube、店舗などで再び醸日と接触できる状態を作る。

直接的な導線が引けなくても、ブランド全体の認知が高まれば、別の場面で自社ECが選ばれる可能性は上がります。

この領域では、ある意味で認知こそ正義です。

すべての顧客を完全に追跡し、きれいな矢印で移動させようとしなくてよい。

フライホイールは、必ずしも計測可能な一筆書きではありません。

そこで初めて、各チャネルの役割を決める

ここまで確認して、ようやく各チャネルの役割を整理できます。

チャネル 主な役割 副次的な役割
Instagram 食欲、共感、家族の喜びを喚起する 顧客投稿による社会的証明
YouTube・ポッドキャスト 長い接触時間とブランド理解を作る 料理人、製造者、顧客の物語を蓄積する
専門媒体・アフィリエイト 新しい顧客との接点を作る 第三者の視点で価値を説明する
アンバサダー・料理教室 実際に使われる場面を増やす コミュニティ内で信頼を形成する
自社EC 価格差への納得と購入を作る 商品、技術、使い方を横断して理解させる
Amazon 検索、比較、即時購入、補充 レビューによる新規顧客の安心を作る
メルマガ 商品を使い続けてもらう レシピと提案によって再購入を支える
LINE 補充、再入荷、イベントなどの再接続 店舗や会員施策と連携する
店舗・イベント 味の違いを体験させる 顧客の声を得て、次の体験へつなぐ
工場見学・プレミアムライン ブランドの最深部と専門性を示す 通常商品の価格と品質への信頼を高める

重要なのは、すべてのチャネルからECへ直接矢印を引かないことです。

Instagramで「おいしそう」と思った人が、すぐに買わなくてもよい。

YouTubeを見て、ブランドへの信頼が高まるかもしれません。

料理教室で使い、その数週間後にAmazonで検索するかもしれません。

店舗で試食した人が、母の日にギフトを探すタイミングで自社ECを思い出すかもしれません。

フライホイールとは、顧客を決められた順路で移動させるベルトコンベアではありません。

顧客の中に生まれた欲求を、次に適したチャネルが受け取れる状態を作ることです。

発見する・比較検討する・購入する・使って体験する・深く知り参加する・語り贈る、という顧客の欲求の流れに対して、Instagram・YouTube・自社EC・メルマガ・LINE・店舗イベントがそれぞれ担う役割と主なKPIを整理した表
すべてのチャネルに同じ役割を求めない。顧客の欲求の流れに合わせて、最も力を発揮する役割に集中させる

では、何から始めるのか

もちろん、これらを一気に始めることはできません。

醸日は大幅な人員増加ができず、追加予算も年間1,500万円程度に限られています。

コンテンツ担当者を1人採用できる可能性はありますが、すべてを内製するのは現実的ではありません。

そこで、候補施策を次の軸で比較します。

  • 短期的な事業インパクト
  • 長期的なブランドインパクト
  • 必要なコスト
  • 社内の実行負荷
  • 外注できるか
  • 効果を検証するまでの時間

そのうえで、経営陣や現場へ、

「どこから始めたいですか」

と確認します。

これは責任を放棄しているわけではありません。

リソース制約が大きい企業では、理論的に最適な施策よりも、担当者が実際に動ける施策の方が成果につながるからです。

とはいえ、こちらからの推奨は出します。

私なら、最初の候補は広告改善とYouTubeです。

広告改善は、既に発生している無駄を減らし、短期的な収益を改善します。

YouTubeは、現在決定的に不足している、ブランドを深く理解する体験を作ります。

しかも、この二つは比較的外注しやすい。

社内リソースが最大の制約になっている企業では、ここは重要です。

広告改善だけでは、現在ある需要の取り合いを効率化するだけです。

YouTubeだけでは、効果が出るまでに時間がかかり、その間の収益改善がありません。

短期的にバケツの穴を塞ぎながら、長期的に新しい水源を作る。

この二つを、小さく並行して始めるのが現実的です。

Instagramも、すべてを作り直す必要はありません。

レシピ中心から、シズル感、家族の反応、顧客投稿のリポストへ少しずつ比率を変える。

料理教室も、いきなり全国展開するのではなく、数人の主催者へ商品提供して反応を見る。

店舗も大規模なシステム投資はせず、レビュー投稿企画やレシピQRなどから始める。

フライホイールは、巨大な仕組みを一度に導入するプロジェクトではありません。

不足している役割を一つずつ補い、顧客の欲求が次へ進むかを確認する作業です。

完璧な計測を待たない

フライホイールを設計すると、必ず計測の話が出ます。

YouTubeを見た人が、Instagramを経由して店舗へ行き、その3カ月後にAmazonで買った。

これを完全に計測するのは、かなり難しい。

高度なCDPやアトリビューションツールを導入しなければ何もできない、と思われるかもしれません。

しかし、目の前で明らかにできていないことまで、完璧な計測を待つ必要はありません。

最初は、チャネルごとの最低限の数字を見ればよいと思います。

  • YouTubeなら、再生回数だけでなく視聴時間。
  • Instagramなら、保存数だけでなく商品閲覧や顧客投稿。
  • 料理教室なら、参加者数、満足度、その後の登録や購入。
  • 店舗なら、来店者のレビュー投稿やオンラインコンテンツへのアクセス。
  • メルマガなら、開封率だけでなく、レシピ閲覧や再購入率。

同時に、事業全体の売上、新規顧客数、リピート率、ロイヤル顧客数を見る。

最も重要なKPIは、結局、ビジネス全体が成長しているかです。

チャネルごとの数字が良くても、事業全体の売上や利益が伸びていなければ意味がありません。

Klaviyoなどを活用し、ロイヤル顧客がどれだけ増えているかも可視化します。

最初は、年間購入回数、年間購入金額、最終購入日など、単純な条件で構いません。

その後、ロイヤル顧客とそうでない顧客の違いを、インタビュー、レビュー、アンケート、購買データなどから観察する。

そこで見つけた違いを、広告、商品開発、コンテンツへ戻す。

ここまで来ると、ようやくフライホイールが「図」ではなく、学習し続ける事業の仕組みになります。

今回作ったのは、完成形ではない

ここまで、醸日という架空ブランドのフライホイールを考えてきました。

当然、実務では競合他社や大手企業が何をしているかも調査します。

機能的価値と情緒的価値の両面で、どのように差別化するのか。

短期的にはどの層を獲得し、長期的にはどの層をロイヤル顧客として囲い込むのか。

競合が既に押さえているCEPは何か。

市場の中で、まだ十分に満たされていない欲求は何か。

どのコンテンツを内製し、どこを外注するのか。

本来は、ここからさらに細かく設計していきます。

ただし、それらをすべて最初から完成させようとすると、いつまでたってもフライホイールは回り始めません。

今回行ったのは、あくまで第一段階の構築です。

第一段階の構築で行ったこと

  1. 現在のチャネル設計の問題点を整理する。
  2. 顧客の体験後に生まれる欲求を仮説化する。
  3. 各チャネルの主役割と副役割を決める。
  4. 役割の重複と不足を明らかにする。
  5. どの欲求を、次のどのチャネルへ渡すのかを考える。
  6. 制約条件を踏まえて優先順位を付ける。
  7. 最低限の評価方法を決める。
  8. 半年以内に実行する施策を提案する。

まずは、ここまででよいと思います。

実際に回し始めれば、想定していたほど機能しないチャネルも出てきます。

反対に、予想していなかったコンテンツから購入が生まれることもあります。

顧客の反応を観察し、ロイヤル顧客とそうでない顧客の違いを学び、競合や市場の変化を見ながら、役割や予算配分を更新する。

それは、第一段階の構築後に行う、フライホイールの運用です。

フライホイールは、一度描いて完成するものではありません。

最初に回る構造を作り、その後は顧客と市場を観察しながら、より強く回る形へ育てていくものです。

そして、今回のケースを通じて最も伝えたかったのは、もう一つあります。

フライホイールの設計は、InstagramからLINEへ矢印を引く作業ではありません。

実際には、広告のCPCを確認し、レビューを読み、ブランドの本質的な価値を言語化し、製造能力を確認し、ギフトやプレミアムラインの必要性まで考えることになりました。

正直、チャネルの役割を決めるだけのつもりで始めて、ここまで話が広がるのか、と思った方もいるかもしれません。

でも、実際にはこうなります。

チャネルの役割は、チャネルだけを見ても決まりません。

事業、商品、顧客、ブランドを理解した結果として、初めて決まるものです。

少なくとも、私が実際にフライホイールを設計するとしたら、だいたいこのような思考プロセスになります。

発見と認知・共感と食べたい・比較と納得と購入・継続利用・深い理解と参加・共有とギフトという6つの局面に、専門媒体や広告、Instagram、自社ECとAmazon、メルマガとLINE、YouTubeと工場見学、レビューとカジュアルギフトを配置したフライホイール型カスタマージャーニーの全体像
重要なのは、チャネルをつなぐことではなく、顧客の欲求を次の体験へ受け渡すこと

関連コラム:フライホイール型カスタマージャーニー① 広告CPAやLTVだけでは捉えられない、相乗効果を生むチャネル設計(本記事の前提。チャネルではなく顧客の欲求をつなぐ、という考え方の出発点です)

関連コラム:用途開発とCategory Entry Point(CEP)は何が違うのか|商品起点と顧客起点から考える市場拡張(本文で触れたCEPを、商品起点と顧客起点の違いから詳しく整理しています)

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