スタッフから、「次はメルマガについて書いてほしい」とリクエストをもらった。
メルマガについて書くとなると、一般的には件名の付け方、配信する曜日や時間、セグメントの切り方、ステップメールの作り方といった話になる。
もちろん、それらも重要である。
ただ、CRMについては最近かなり書いてきたし、世の中にも似たようなノウハウ記事は数多く存在する。そこで今回は、一段抽象度を上げて、そもそも企業はメールという媒体を使って、顧客とどのようなコミュニケーションをしているのかを考えてみたい。
さらに後半では、普段何気なく使っている「開封率」「配信済み」「到達率」といった言葉が、技術的には何を意味しているのかについても触れていく。
メルマガという、ある意味ではありきたりなテーマだからこそ、少しマニアックなところまで掘ってみようと思う。
企業は、すべてのメールを「メルマガ」と呼びすぎている
企業から顧客に届くメールは、すべて同じものではない。
まず、大きく分けると「お手紙」と「通知」があると思う。
お手紙は、ブランドの考え方、新商品の背景、スタッフからのメッセージ、季節の挨拶などを通じて、顧客との関係を作るものだ。
一方の通知は、注文が完了した、商品を発送した、予約が確定した、ポイントの期限が近づいているといった、顧客に関係する状態の変化を伝えるものである。
さらに細かく見れば、参加や行動を促す「ご案内」、商品選びや購入後の利用を助ける「接客」、忘れていた予定を思い出してもらう「リマインダー」、注文控えや領収書として残る「記録・証明」もある。
これらは、すべて同じ受信箱に届く。
そのため、企業側では一括して「メルマガ」「メール配信」と呼ばれがちだが、目的はまったく異なる。
お手紙であれば、すぐに購入されなくても、ブランドへの理解や親近感が残れば役割を果たしている。
通知であれば、面白さよりも、何が起きたのか、次に何をすればよいのかが瞬時に分かることが重要になる。
接客であれば、相手が何を購入し、現在どのような状態にいるのかによって、伝える内容を変える必要がある。
メールは一つの施策ではない。手紙、通知、接客、案内、記録という異なるコミュニケーションが、同じ受信箱に届いている。
まずは、これらを分けて考えることが、メールについて考える出発点になる。
企業に送る理由があっても、顧客に開く理由があるとは限らない
先日、ある見守りサービスの創業者が、メールについて興味深い話をしていた。
そのサービスは、利用者が必要な情報を「知ることで不安を解消する」ことを価値としている。
利用者にとって、そのメールは単なる企業からのお知らせではない。メールを開くことで、自分が知りたかった状況を確認し、不安を減らすことができる。
その方は冗談半分に、
「大袈裟に言えば、開封率100%以外のメールは送るべきではない」
と話していた。
もちろん、一般的なECのメルマガで開封率100%を目指すのは現実的ではない。
しかし、この話は非常に示唆的だった。
一般的なメールマーケティングでは、開封率を上げるために、件名を変える、配信時間を調整する、受信者の名前を入れるといった改善を行う。
しかし、それ以前に考えるべきことがある。
企業にメールを送る理由があることと、顧客にそのメールを開く理由があることは、まったく別の話である。
企業には、新商品を売りたい、キャンペーンを知らせたい、在庫を消化したい、今月の売上を作りたいという事情がある。
しかし、顧客は企業の売上を作るためにメールを開くわけではない。
メールを開くことで、不安が減る。損を避けられる。判断が楽になる。欲しかった商品を手に入れられる。新しい知識が得られる。あるいは、単純に読んでいて面白い。
そうした受信者側の便益があるから、メールは開かれる。
開封率を改善する前に、まず考えるべきなのは、
「このメールを開いた結果、受信者の何が良くなるのか」
という問いなのだと思う。
高い開封率は、自由に使える広告枠なのか
メールの種類によって、開封率には大きな差がある。
2026年版のある大規模なメール配信データでは、全体の平均開封率は25.54%、日本は33.74%だった。業種や配信対象、計測方法によって数字には大きな幅があるものの、一般的な一斉配信メールは、送った人の全員が読むものではないことは間違いない。
一方、ある配送体験支援サービスが39ストア、約600万通の配送追跡メールを集計したところ、平均開封率は64.0%だったという。企業からの一般的な販促情報よりも、「自分の荷物がいつ届くのか」という情報の方が、はるかに自分ごとになりやすい。
このような高い開封率を持つ通知メールに、SNSへの導線や商品レコメンド、クーポンを入れようという考え方には、経済合理性がある。
せっかく多くの顧客が開いているのだから、そこから次の接点を作りたいという発想は自然である。
ただし、少し違和感も残る。
顧客がそのメールを開いている理由は、広告を見たいからではない。自分の荷物の状況を知りたいからである。
つまり、その高い開封率は、企業が面白いコンテンツを作って獲得したものではない。
特定の目的のために、顧客から一時的に預かった注意と考えることもできる。
テレビ番組であれば、無料で番組を見る代わりにCMが流れるという構造を、視聴者もある程度理解している。
一方、注文確認や配送通知は、顧客がすでに代金を払い、その取引に必要な情報を受け取るためのものだ。
そこで広告が前面に出すぎれば、「必要な情報を確認しに来た注意を、別の目的に転用された」と感じられる可能性がある。
もっとも、通知メールに何かを追加することが、すべて不自然な広告になるわけではない。
購入した商品の使い方、保管方法、組み立て方、レシピ、問い合わせ先などであれば、通知ではなく購入後接客の延長といえる。
SNSへの誘導も、「新商品情報はこちら。フォローしてください」だけでは広告感が強いが、「届いた商品の使い方を動画で紹介しています」であれば、顧客が次に必要とする情報と自然につながっている。
関連商品についても、企業が売りたい人気商品を並べるのか、購入した商品を使うために本当に必要なものを案内するのかで意味が変わる。
境界線は、比較的シンプルだ。
企業が売りたいものを置いているのか。それとも、顧客の次の行動を助けているのか。
通知に広告を入れてはいけないのではない。
通知が主であり、広告は従でなければならない。
高い開封率は自由に使える広告在庫ではなく、顧客との約束によって成立している、目的付きの接点なのである。
そもそも「開封率」は、本当にメールを読んだ割合なのか
ここからは少々専門的な話になる。
ここまでは比較的気軽に読めたと思うが、この先も読み進める場合は、多少覚悟して読んでいただきたい(笑)。
一般的に、メールの開封率は「メールを読んだ人の割合」だと理解されている。
しかし、技術的には少し違う。
メール配信システムは、受信者が画面を見て文章を読んでいる姿を検知しているわけではない。
HTMLメールの中には、受信者ごとに異なる識別情報を持った、ごく小さな透明画像が埋め込まれている。
受信者がメールを開き、メールアプリがその画像を配信システムのサーバーから読み込むと、「この人のメールに埋め込まれた画像が取得された」という記録が残る。
配信システムは、この画像の取得を「開封」として計測している。
Mailchimpも、HTMLメールの末尾に受信者ごとに固有の小さな不可視画像、いわゆるWebビーコンを埋め込み、その画像がダウンロードされたことを開封として記録すると説明している。画像を表示しない設定やプレーンテキストメールでは、この方法による開封計測はできない。
つまり、厳密には、
開封率=メールを読んだ人の割合
ではなく、
開封率=計測用画像が取得されたメールの割合
である。
そのため、実際に文章を読んでいても画像を表示しなければ未開封になる。
反対に、人間が読んでいなくても、メールアプリやセキュリティシステムが画像を自動的に取得すれば、開封として記録されることがある。
開封率は、もともと完璧なデータではなかったのである。
Apple Mailは、人間より先にメールを「開封」する
この開封計測の前提を大きく変えたのが、AppleのMail Privacy Protection、日本語では「メールプライバシー保護」である。
Apple Mailでこの機能が有効になっている場合、受信者が実際にメールを読むかどうかにかかわらず、メール内のリモート画像がバックグラウンドでダウンロードされる。
そこには、開封計測に使われる透明画像も含まれる。
そのため、人間がまだメールを読んでいなくても、配信システム側には画像へのアクセスが発生し、「開封」として記録される可能性がある。
Appleは公式に、この機能が有効な場合、利用者がメールをどのように操作したかにかかわらず、リモートコンテンツをバックグラウンドでダウンロードすると説明している。また、IPアドレスなどを隠すため、送信者が開封時刻や位置情報を把握しにくくなる。
仕組みを単純化すると、従来は次のようになっていた。
- メールを送る
- 顧客がメールを開く
- 画像が読み込まれる
- 開封として記録される
Appleのメールプライバシー保護が有効な場合は、次のようになる。
- メールを送る
- Apple Mailがバックグラウンドで画像を取得する
- 開封として記録される
- 顧客が実際に読むかどうかは分からない
Appleが開封情報を単純に削除しているのではない。
本当の開封と区別しにくい画像取得を先に発生させることで、個人単位の開封計測を成立しにくくしているとも表現できる。
この影響は、管理画面の開封率が高くなることだけではない。
例えば、開封しなかった人にだけ再送する仕組みでは、実際には読んでいないApple Mail利用者が「開封済み」と判定され、再送対象から外れる可能性がある。
「メールを開いた人は関心が高い」と判断して、次の商品提案へ進めるシナリオも、Appleによる画像取得を顧客の関心と誤認する可能性がある。
件名のA/Bテスト、開封履歴による休眠判定、開封後の購入をメール経由売上として数えるアトリビューションにも影響する。
実際にKlaviyoは、Appleのプライバシー保護による可能性が高い開封を識別するためのフラグや、Apple Privacy Openをアトリビューションから除外する設定を提供している。
なお、対象は「iPhoneユーザー」ではない。
Gmailのアドレスであっても、Apple純正のメールアプリで受信し、この機能を利用していれば影響を受ける。
反対に、iPhoneを使っていてもGmailアプリなど別のメールアプリで読めば、Apple Mailのメールプライバシー保護とは別の扱いになる。
重要なのは端末ではなく、どのメールクライアントが、どのようにリモート画像を取得しているかである。
それでも開封率を分析する意味はある
ここまで読むと、「では、開封率を見る意味はもうないのではないか」と感じるかもしれない。
しかし、不正確であることと、分析に使えないことは別である。
例えば、実際より常に2キログラム重く表示される体重計があったとする。
絶対的な体重は正しくない。
それでも、毎日同じ体重計を、同じ条件で使えば、昨日より増えたのか、1カ月で減ったのかという変化は観測できる。
開封率も、それに近い。
Apple Mail利用者の割合、配信対象、配信ツール、計測設定などが大きく変わっていなければ、定点観測によって相対的な変化を捉えることはできる。
例えば、毎週配信しているメールの開封率が、普段は30%前後なのに、特定のテーマだけ40%になったのであれば、そのテーマや件名が受信者の関心と合っていた可能性がある。
同じ顧客層に対する配信頻度を変え、その後に開封率が継続的に低下したのであれば、配信疲れが起きているかもしれない。
購入者、未購入者、休眠顧客など、同じ計測環境の中でセグメント別の差を見ることにも意味はある。
一方で、他社との比較や、異なる配信システム間の比較には注意が必要だ。
Apple Mail利用者の割合、MPP開封の除外方法、顧客の年齢層、業種、メールの種類などが違えば、同じ30%でも意味が変わる。
前年比も同様である。
1年間で配信ツールの計測仕様が変わったり、顧客構成が変わったり、Apple Mail利用者の割合が増減したりしていれば、単純な比較はできない。
したがって、開封率は、
実際に何人が読んだかを正確に測る温度計ではないが、変化を知らせるセンサーとしてはまだ使える
と考えるのがよいと思う。
もちろん、開封率だけで判断してはいけない。
開封率は上がったがクリック率が下がり、配信停止率が上がっているなら、件名だけが強く、本文が期待に応えていない可能性がある。
開封率は横ばいでも、クリック率や購入率、メール1通当たり売上が伸びているなら、施策としては改善している。
メール分析で組み合わせて見る指標
- 開封率
- クリック率
- クリック後の購入率
- 配信1通当たり売上
- 配信停止率
- 迷惑メール報告
- 商品閲覧やカート追加
- 再購入率
さらに厳密に効果を測るなら、一定割合の顧客にはあえてメールを送らず、配信した顧客と配信しなかった顧客の購入率を比較する方法もある。
メール配信後に購入した人をすべて「メールの成果」とするのではなく、メールを送らなければ発生しなかった購入がどれだけ増えたのかを見る考え方である。
Klaviyoの2026年データでも、一斉配信型キャンペーンは全送信量の94.7%を占める一方、自動配信は5.3%の送信でメール経由売上の約41%を生み、クリック率も自動配信の方が3倍以上高かった。大量に送ることよりも、顧客の行動やタイミングに合ったメールを届けることの重要性が表れている。
正確ではないから捨てるのではなく、その数字が何を測り、何を測れていないのかを理解したうえで使う。
これがデータ分析の基本なのだと思う。
「送信済み」「届いた」「読まれた」は、すべて違う
もう少しだけ専門的な話を続けたい。
メールは、送信ボタンを押した瞬間に、企業のパソコンから顧客のスマートフォンへ直接飛んでいるわけではない。
まず、メール配信システムが受信者ごとのメールを作る。
氏名、クーポンコード、配信停止用の識別情報、計測用URLなどが顧客ごとに組み込まれ、大量の個別メールとして送信キューに入れられる。
次に、送信側はDNSというインターネット上の住所録を使い、相手のドメインのメールを受け取るサーバーを探す。
そして、SMTPというメール配送のための通信方式を使って、GmailやMicrosoft、携帯キャリアなどの受信サーバーへメールを渡す。SMTPは、送信側と受信側のサーバーが応答を交わしながらメールを転送するための標準的な仕組みとして定義されている。
受信側は、ただメールを受け取るだけではない。
誰が送っているのか、送信元の身元は正しいか、過去に迷惑メールを大量送信していないか、短時間に異常な量を送っていないか、本文やリンクに問題がないかなどを確認する。
ここで使われる代表的な仕組みが、SPF、DKIM、DMARCである。
SPFは、簡単に言えば、
「このドメインのメールを、このサーバーやIPアドレスから送ってよい」
という許可情報を公開する仕組みである。
DKIMは、送信側がメールに電子署名を付け、受信側が、
「正しいドメインが署名しているか」「署名後に内容が改変されていないか」
を確認する仕組みである。
DMARCは、SPFやDKIMの認証結果と、顧客の画面に表示されるFromのドメインが整合しているかを確認し、認証に失敗したメールをどう扱うかという方針をドメイン所有者が示す仕組みである。
現在、Gmailはすべての送信者にSPFまたはDKIMを求め、大量送信者にはSPF、DKIM、DMARCを求めている。認証に失敗したメールや、送信元IP・ドメインの評価が低いメール、大量の未承諾メールと判断されたメールは、速度制限や拒否の対象になることがある。
つまりメール配信は、文章を相手へ投げる行為ではない。
送信側のサーバーが身元を示し、相手のメールサーバーに受け取ってもらえるかを交渉する行為なのである。
「配信済み」は、顧客の受信箱に入ったという意味ではない
メール配信ツールの管理画面には、「配信済み」「Delivered」と表示されることがある。
この言葉から、顧客の受信箱に問題なく届いたと考えがちだ。
しかし、多くの場合、Deliveredが意味するのは、
相手のメールサーバーがSMTP上でメールを受け付けた
というところまでである。
メールサーバーが受け付けたあと、そのメールがメインの受信箱に入るのか、プロモーションタブに入るのか、迷惑メールフォルダに入るのかは、受信側の判断になる。
相手の端末で通知が表示されたか、人間が画面を見たか、本文を理解したかまでは分からない。
整理すると、次の言葉はすべて違う。
「届いた」は、この6段階に分けて考える
- 送信した
- 相手のサーバーが受け付けた
- メインの受信箱に入った
- 人間が開いた
- 内容を読んだ
- 内容が伝わった
メールマーケティングの会話では、これらがすべて「届いた」「開かれた」という言葉で済まされることがある。
しかし、問題がどの段階にあるかによって、対策はまったく異なる。
送信サーバーから拒否されているのであれば、認証、IP、ドメイン評価、リスト品質などを確認する必要がある。
受信箱には入っているが読まれていないのであれば、送信者名、件名、配信タイミング、顧客にとっての必要性を考える。
読まれているがクリックされないのであれば、本文や提案内容、リンク先を見直す必要がある。
問題を解決するには、「メールが届かない」という一言を分解しなければならない。
「自前の配信基盤だから届く」は、本当なのか
メール配信サービスを比較していると、
「自社で配信基盤を持っているため、到達率が高い」
という説明を聞くことがある。
この説明は完全に間違っているわけではないが、少し省略が多い。
まず、「自前の配信基盤」が何を指しているのかを分ける必要がある。
メール配信には、少なくとも次の層が存在する。
- 顧客抽出やシナリオを管理するアプリケーション
- 大量メールのキューや再送を管理する配送エンジン
- 実際に送信元となるIPアドレス
- Fromや電子署名に使うドメイン
- IPやドメインに紐づく送信者の評判
自社でCRM画面を開発していても、実際の配送にはAmazon SESなどの外部サービスを使っていることがある。
反対に、外部のMAツールを利用していても、独自の送信ドメインや自社専用のIPアドレスを利用することはできる。
したがって、自前か外部かという二択ではなく、
誰の配送エンジン、誰のIP、誰のドメイン、誰の評判で送っているのか
を確認する必要がある。
共有IPでは、一つのIPアドレスを複数の企業が利用する。
他社の配信品質の影響を受ける可能性がある一方、自社だけでは作れない継続的な送信量や、配信ベンダーが管理しているIPの送信履歴を利用できる。
配信量が少ない企業や、送信頻度が一定でない企業にとっては、専用IPよりも、品質管理された共有IPの方が安定する場合もある。
一方の専用IPは、他社の影響から評判を切り離せるが、その評判はすべて自社の配信行動によって決まる。
新しい専用IPには送信実績がないため、最初から大量配信すると受信側から警戒される可能性がある。そこで、反応の良い顧客へ少量から送り、徐々に送信量を増やす「IPウォームアップ」が必要になる。
Amazon SESも、共有IPは低量・不規則な送信に適し、専用IPでは継続的で予測可能な送信量と、送信者自身による評判管理が必要だと説明している。
つまり、専用IPは「質の高いIP」ではない。
自社だけで責任を負うIPである。
無効なメールアドレスへ大量に送る、急に配信量を増やす、反応しない顧客へ送り続ける、迷惑メール報告を多く受けるといった行動をすれば、その影響はそのまま自社の評判になる。
外部のメール配信基盤を利用する企業が借りているのは、単なるサーバーではない。
大量メールのキュー管理、一時エラーへの再送、バウンス処理、配信停止者の除外、IPの評判管理、受信事業者ごとの速度調整、仕様変更への対応など、長年蓄積された配送運用の能力も含めて借りている。
「自前だから届く」のではない。
自前の基盤を適切に運用し続ける専門性があるから、結果として届きやすくなる可能性があるという方が正確だろう。
通知メールと販促メールを、同じ配送経路から送るべきなのか
注文確認、決済完了、発送通知、パスワード再設定などは、顧客が必要としている重要なメールである。
一方、販促メールは送信量が多く、配信停止や迷惑メール報告を受ける可能性も相対的に高い。
両者を同じIPや同じ配信経路から送っている場合、販促メール側で大量の苦情が発生すると、重要な通知メールの配送にも影響する可能性がある。
そのため、一定規模以上のメール配信では、通知メールと販促メールの送信経路を分けることがある。
例えば、マーケティングメール用と取引・通知メール用で専用IPプールを分けることで、販促メールの評判悪化が通知メールへ影響しにくくする。
Amazon SESも、マーケティングメールと取引メールで専用IPプールを分け、送信者評価を隔離する構成を例示している。
これは単なる技術的なリスク分散ではない。
この記事の前半で話した、「お手紙」と「通知」の違いが、そのまま配信インフラの設計にも現れている。
顧客が必要としているメールと、企業が送りたいメールを、配送上も同じ扱いにしない。
通知メールの重要性を守ることは、顧客との約束を守ることでもある。
メールマーケティングとは、文章を書く仕事だけではない
ここまで、かなりマニアックな話になった。
おそらく、メールマーケティングの担当者であっても、Apple Mailが人間より先に画像を取得する仕組みや、送信ボタンを押してからGmailの受信サーバーに到達するまでの流れ、自社のメールが共有IPと専用IPのどちらから送られているかまで、自信を持って説明できる人は多くないと思う。
もちろん、メール担当者がSMTPサーバーを構築したり、メール認証の仕様書をすべて暗記したりする必要はない。
EC支援企業についても同じである。
すべての技術を自社で実装できる必要はない。
ただ、顧客から「メールが届かない」「開封率が下がった」「ツールを変えたら到達率が悪くならないか」と相談された際に、
- コンテンツの問題なのか
- 配信対象やデータの問題なのか
- 認証設定の問題なのか
- IPやドメイン評価の問題なのか
- 計測仕様による数字の問題なのか
- 配信ベンダーへ確認すべき問題なのか
を切り分けられる程度の理解は必要だと思う。
専門性とは、すべてを自分で実装できることではない。
顧客に見えている数字の裏側を理解し、必要に応じて技術者やメール配信ベンダーと正しい会話ができることである。
メールマーケティングというと、件名、デザイン、クーポン、配信時間といった表側の話になりやすい。
しかし実際には、その裏側に、顧客とのコミュニケーション設計、データ計測、インターネット上の配送、送信者認証、IPやドメインの評判という複数の世界が存在している。
配信ボタン一つで送られているように見えるメールは、思っている以上に複雑な仕組みで成立している。
開封率100%ではなく、100%の人に開く理由があるメールを考える
最後に、冒頭で紹介した、
「大袈裟に言えば、開封率100%以外のメールは送るべきではない」
という話へ戻りたい。
Apple Mailの自動的な画像取得を含めれば、管理画面上の開封率は、受信者が本当に読んだ割合とは一致しない。
理屈の上では、人間にほとんど読まれていなくても、計測上の開封率だけが高く表示されることもある。
したがって、開封率100%という数字そのものを目標にしても仕方がない。
しかし、
100%の受信者に、このメールを開く理由があるか
という問いには意味がある。
不安を解消する。損を防ぐ。判断を助ける。欲しかった機会を伝える。購入後の体験を良くする。あるいは、読む時間そのものを少し楽しくする。
企業側の事情ではなく、受信者側に開く理由を作る。
そのうえで、メールが正しく届く仕組みを整え、数字の意味を理解し、顧客から預かった注意を乱暴に転用しない。
メールの計測技術は不完全であり、配送の仕組みは想像以上に複雑である。
それでも、顧客にとって開く理由のあるメールを、適切な形で届けるという本質は変わらない。
メルマガの件名を考えるのは、その後でも遅くないのではないだろうか。
関連コラム:CRMは短期投資ではない。3年後の売上曲線を変える投資である。(配信売上の即効性ではなく、3年後の売上曲線を変える投資としてCRMを捉える)
関連コラム:ロイヤル顧客とは何者か?|コンテンツとチャネルを考える前に、定義しておくべきこと(誰に何を送るかを決める前に、ロイヤル顧客の定義をそろえる)



