ベランダと屋上で植物を育てている。
植物を育てていると、枯れ葉や剪定した枝、こぼれた土など、意外とゴミが出る。そこで、これまでは屋外にプラスチック製のゴミ箱を置いていた。
しかし、ベランダも屋上も雨ざらしである。
雨の当たらない場所へ移動するスペースはなく、使うたびに屋内へしまうのも面倒だ。置きっぱなしにすると、雨風や紫外線によって思った以上に早く劣化する。
それなら、ゴミ袋だけを持っていけばよい。
そう考えたものの、屋外では風で飛んでしまう。袋の口もすぐに閉じる。ちりとりで集めた土や枯れ葉を一気に入れようとしても、袋が倒れて使いにくい。
そこで、こんな発想にたどり着いた。
欲しいのはゴミ箱ではない。
ゴミ袋を開いた状態で固定しておいてくれる、折りたたみ式の何かだ。
ここまでは自分の中で整理できた。
ところが、その「何か」が何という商品なのか分からない。
「ゴミ袋スタンド」と言われれば、なるほどと思う。しかし、その言葉が出てこない。ホームセンターへ行っても、どの売り場を探せばよいのか分からない。
そこで私はAIに、ほぼそのまま聞いた。
欲しいのはゴミ箱ではなく、ゴミ袋を開いて固定しておいてくれる、折りたたみ式の何かだった。取り急ぎ、そういう商品を探してくれませんか?
AIはいくつかの商品を紹介し、私は最初に提案された山崎実業の商品を実際に購入した。
極端なことを言えば、Google検索でも同じ商品にたどり着けたかもしれない。
それでもAIを使ったのは、正しい検索キーワードを考えるより、欲しい機能をそのまま説明した方が早いと思ったからだった。
商品を探す前に、商品名を探さなければならなかった
従来の検索は、ある程度正しい検索キーワードを知っていることを前提としていた。
「ゴミ袋スタンド」という名前を知っていれば、GoogleやAmazonで簡単に探せる。しかし今回の私は、入口となる単語を知らなかった。
考えてみれば、身の回りには「用途は説明できるが、名前は分からない商品」がたくさんある。
例えば、
- リゾートホテルとかにある天井でくるくる回ってるファンみたいなやつ
- 抹茶を点てる時に使う竹のあれ
- 釣りで釣れた魚を簡単に外すためのあれ
- 筋トレで、握力が先に疲れないように手首とバーベルを補助してくれるもの
商品を見せられれば、「そう、それが欲しかった」と分かる。
しかし、商品の存在やカテゴリ名を知らなければ、検索窓に何を入力すればよいのか分からない。
世の中には、欲しくないから売れない商品だけでなく、存在や名前を知らないために買われていない商品も相当数あるのではないかと思う。
AIは、曖昧な説明を商品カテゴリへ翻訳する
今回、私はAIに、屋上や雨ざらしという詳しい事情を説明していない。
伝えたのは、
- ゴミ箱ではない
- ゴミ袋を開いて固定したい
- 折りたたみ式がよい
という条件だけだった。
AIはそこから、「ゴミ袋スタンド」や「ゴミ袋ホルダー」という商品カテゴリへ私を接続した。
つまりAIは、単に商品を検索しているだけではない。
ユーザーの曖昧な表現を、検索可能な商品名やカテゴリへ翻訳している。
Googleが「知っている言葉から探す」ことに強いとすれば、AIは「何と検索すればよいか分からない状態」から始められることに強い。
商品名を教えてもらった後なら、GoogleやAmazonでの検索は難しくない。
難しかったのは商品の比較ではなく、その前にある、
私は何を探せばよいのか。
という段階だった。
AIはInstagramの代わりにはならない
便利グッズは、InstagramやYouTube Shortsでも頻繁に紹介されている。
SNSの強みは、
こんな便利な商品があったのか。
という偶然の発見やニーズ喚起にある。
一方、AIの強みは、
今、こういうことで困っている。何か解決策はないか。
という、すでに顕在化した課題への対応だ。
SNSは、本人もまだ気づいていない欲求を先回りして刺激できる。しかし、表示された商品が今の悩みにピンポイントで一致するとは限らない。
反対にAIが毎回、
ちなみに、最近はこんな便利グッズも人気です。
と関係の薄い商品まで薦め始めたら、相談相手としては邪魔である。
SNSは需要を生み出し、AIは言葉になりきっていない需要を解決策へつなぐ。
両者は競合というより、役割が違う。
ユーザーは目的によって媒体を使い分ける
AIが登場しても、GoogleやYouTube、Instagram、Amazonが不要になるわけではない。
ユーザーは目的に応じて、すでに自然に媒体を使い分けている。
抹茶を例にすると分かりやすい。
「中村藤吉本店の抹茶が欲しい」とブランドまで決まっているなら、Googleから公式ECへ行く。
どの抹茶が自分に合うか分からなければ、Amazonのレビューを見たり、AIに比較を相談したりする。
おいしい点て方を知りたければ、動きが分かるYouTubeを見る。
泡が立たない、ダマになる、苦すぎるといった問題が起きたら、AIに原因を相談する。
「抹茶を点てる竹のあれ」の名前を知りたければ、それもAIに聞けばよい。
一方、抹茶に関心のない人へ興味を喚起するには、InstagramやYouTube Shortsが向いている。
目的別・最適な媒体とコンテンツ
| 顧客の状態・目的 | 顧客の頭の中 | 主な媒体 | 求められるコンテンツ |
|---|---|---|---|
| まだ興味がない | 何これ、面白いじゃん! | Instagram、TikTok、YouTube Shorts | 興味喚起、世界観、意外性、利用シーン |
| 商品名が分からない | 抹茶を点てる竹のあれは何か | AI、画像検索、店頭接客 | 名称の特定、候補提示、用途との接続 |
| 商品やブランドを知った | どこでいくらくらいで売ってるんだろう? | Google、公式サイト、SNS | 基本情報、特徴、背景、信頼性 |
| 使い方を知りたい | どうやって使うのか | YouTube、公式動画、記事 | 実演、手順、コツ、失敗例 |
| 比較したい | 失敗したくない、実際の使用感どうなの? | AI、Amazon、比較サイト、レビュー | 違い、用途別の選び方、購入者の体験 |
| 指名して探す | 買いたい! | Google、公式EC、ECモール | 価格、在庫、仕様、購入導線 |
| うまくいかない | 説明通りにやってるつもりなんだけど、、、 | AI、FAQ、サポート | 原因の切り分け、個別回答、改善方法 |
| 課題自体が曖昧 | なんとなく使いにくい | AI、店頭接客、診断 | 質問による課題整理、選択肢、解決策 |
企業が考えるべきなのは、「AIかGoogleか」という媒体の勝ち負けではない。
顧客が今どの状態にいて、その時にどの媒体を使い、どのような情報を求めるのかを理解することだ。
それぞれの媒体に適した情報を用意することが、単発の購入ではなく、長期的な利用やブランドへの信頼につながる。
「ドリルを売るなら穴を売れ」が、検索行動に反映され始めた
マーケティングの世界には、「ドリルを売るなら穴を売れ」という有名な言葉がある。
顧客が欲しいのはドリルそのものではなく、ドリルによって開けられる穴だ、という考え方である。ベネフィット志向やJobs to Be Doneにも通じる。
今回、屋上を掃除するだけなら普通のゴミ箱でもできる。
問題は掃除そのものではなく、屋外に置くゴミ箱を管理し続けることだった。
雨風や紫外線で劣化する。雨の当たらない場所へ移動できない。屋内へしまうのも面倒で、劣化すれば買い替えなければならない。
私が求めていたのは、単に屋外で快適に掃除することではない。
ゴミ箱を常設し、管理し続けなくても掃除が成立する状態だった。
AIによって新しい商売の理論が生まれたわけではない。
むしろ、昔から言われてきた「顧客が本当に解決したいことから考える」という商売の原点が、検索や購買行動にまで反映され始めたのだと思う。
具体的に商品ページをどう変えるのか
AIがなぜ山崎実業の商品を最初に薦めたのか、その詳細は分からない。
公式サイトの商品説明、販売店の情報、レビュー、紹介記事、商品データの連携など、さまざまな可能性がある。
それでも、企業が今できることはある。
まず、商品名やスペックだけでなく、「商品名を知らない人の言葉」を商品ページに入れる。
「商品名を知らない人の言葉」を持たせる観点
- 何を固定、保持、防止する商品なのか
- 何の代わりとして使えるのか
- 従来の方法では何が不便なのか
- どんな場面で使えるのか
- 使うことで何が変わるのか
これらを商品説明、FAQ、利用シーン、比較表などに分散して持たせる。
レビューの集め方も重要になる。
星の数だけでなく、
- どこで使っているか
- 購入前は何に困っていたか
- それまでは何を使っていたか
- なぜこの商品を選んだか
- 使って何が変わったか
を聞けば、企業が想像できなかった顧客自身の言葉が蓄積する。
そのうえで、商品名、価格、在庫、素材、サイズ、画像、レビューなどの基本情報を、商品ページ、商品フィード、構造化データで一致させる。
重要なのは、LLMOのために不自然な文章を量産することではない。
顧客が理解しやすい情報を整えた結果として、AIにも理解されやすくなる。
この順序であれば、Google検索、比較、接客、購入率の改善にも役立つ。
良いプロンプトではなく、良い質問をしてくれるAIへ
名前の分からない商品を探す時には、
- 使う場所
- 困っていること
- 避けたいこと
- 理想の状態
を伝えると、回答精度は上がるだろう。
ただ、正直なところ、毎回そこまで整理して入力するのは面倒である。
それをするくらいなら、「もういいや」と探すことをやめてしまう人も多い。少なくとも私は、その可能性が高い。
検索キーワードを考える手間が、長いプロンプトを書く手間に変わっただけでは不十分だ。
理想は、
ベランダの掃除に使いたいんだけど、ゴミ箱だと何か違うんですよね。
程度から始めても、AI側が必要に応じて、
雨ざらしになることが問題ですか。
保管場所がないことが問題ですか。
ゴミ袋が風で飛ぶことにも困っていますか。
と聞いてくれることだ。
文章で答えるのが面倒なら、ボタンで選べてもよい。
AIの価値は、ユーザーに完璧な質問を要求することではない。
曖昧な相談から必要な条件を引き出し、一緒に問題を定義することにある。
これは、優秀な販売員が店舗で昔から行ってきた接客でもある。
AI対策より先に、顧客理解がある
構造化データや商品フィード、レビューの整備は重要である。
しかし、企業が顧客の課題を理解していなければ、整備する材料そのものがない。
どんな人が、どんな状況で、何に困り、既存の選択肢ではなぜ不十分で、何を実現したいのか。
そこに日頃から向き合っている企業ほど、AIにも人にも理解されやすい情報を持っている。
また、すべてをAIに集約する必要もない。
興味を喚起するSNS、指名需要を受け止めるGoogleや公式EC、使い方を伝えるYouTube、購入者の体験が集まるレビュー、比較や相談を担うAI。
それぞれの役割に合った情報を用意する。
長期的に選ばれるのは、最も早くAI対策を始めた企業とは限らない。
顧客の悩みを深く理解し、必要な情報を、必要な媒体で、必要な形で届けられる企業が強い。
AI時代に必要なのは、AIへの最適化というより、商売の原点への回帰なのだと思う。
おわりに|商品名ではなく、欲しい働きから探せる時代へ
AIが紹介した候補の中から、私は実際に山崎実業のゴミ袋スタンドを購入した。
商品名を知った後なら、GoogleやAmazonでも簡単に探せる。
難しかったのは、商品を見つけることではなく、何を探せばよいのかを知ることだった。
AIがどの情報を根拠に、この商品を最初に薦めたのかは分からない。
それでも、
ゴミ箱ではなく、ゴミ袋を開いて固定しておいてくれる、折りたたみ式の何か。
という説明が、実在する商品へ接続された。
企業側に求められるのは、商品名やスペックを並べることだけではない。
顧客が、
これではなく、こういう働きをしてくれる何かが欲しい。
と話した時に、その言葉と自社の商品をつなげられる情報を持つことだ。
AIが変え始めたのは、検索結果だけではない。
企業が「何を売っているか」ではなく、顧客が何を実現したいのかから商売を考えることを、これまで以上に求められるようになったのだと思う。
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