品薄マーケティング入門【後編】|熱狂の裏側で消耗する、ブランドロイヤリティと顧客の信頼 – 株式会社飛躍 | Premier Partners

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品薄マーケティング入門【後編】|熱狂の裏側で消耗する、ブランドロイヤリティと顧客の信頼

前編では、品薄マーケティングがなぜこれほど強いのかを考えました。

品薄マーケティングは、単に商品数を少なくして消費者を焦らせる手法ではありません。

経営面では、在庫リスクを抑え、値引きを避け、キャッシュフローと利益率を改善する合理性があります。

マーケティング面では、Scarcity、FOMO、Hype、Exclusivityといった要素を組み合わせ、商品の発売前から購入後まで、SNS、動画、EC、CRMを横断する顧客接点を作り出します。

さらに、商品そのものに入手困難性や物語を重ね、一般的な商品にも一種のラグジュアリー性を付与できます。

ここまで聞けば、品薄マーケティングを使わない理由はないようにも見えます。

しかし、品薄マーケティングが強力なのは、消費者の欲望や不安、ブランドへの期待に直接働きかけるからです。

そして、その強さは同時に大きな副作用を生みます。

品薄マーケティングは、売上や話題性を高める一方で、購入後の後悔、落選者の離反、転売、通常商品の弱体化、顧客間の分断を招く可能性があります。

後編では、品薄マーケティングがブランドロイヤリティを削る構造と、ブランドを育てる品薄、壊す品薄の違いについて考えてみたいと思います。

品薄マーケティングは、ブランド資産の前借りでもある

品薄マーケティングは、将来発生するはずだった需要を、現在へ前倒しする力を持っています。

いつでも購入できる商品であれば、

  • 「必要になったら買おう」
  • 「もう少し比較してから決めよう」

と考える人も少なくありません。

しかし、数量限定、期間限定、抽選販売、再販未定といった条件が加わると、消費者は今すぐ判断しなければならなくなります。

本来なら数カ月後に購入したかもしれない人が、今すぐ購入する。

場合によっては、本来なら購入しなかった人まで動かす。

短期的な売上を作るという意味では、非常に強力な仕組みです。

ただし、そこで使われているのは、希少性だけではありません。

消費者がそのブランドに抱いている期待や信頼も使われています。

  • 「このブランドの商品なら、きっと良いはずだ」
  • 「これほど人気なのだから、買って後悔しないだろう」
  • 「今回を逃したら、二度と手に入らないかもしれない」

こうした期待を、一度の限定販売によって売上へ変換しています。

商品が期待を上回れば、消費者の信頼はさらに強くなります。

一方、商品が期待に届かなければ、

  • 「限定だから買っただけだった」
  • 「この価格ほどの価値はなかった」
  • 「次はもう応募しなくてもよい」

という評価に変わります。

つまり、品薄マーケティングはブランド価値を新しく生み出す施策であると同時に、すでに蓄積されているブランドへの期待を先に換金する手法でもあります。

言い換えれば、ブランド資産の前借りです。

前借りした期待を、商品品質や購入後の体験によって返すことができれば問題ありません。

しかし、期待を返せなければ、売上と引き換えにブランドへの信頼を消耗します。

即完売した時点では、品薄マーケティングが成功したかどうかは、まだ分からないのです。

当選者を熱狂させる一方で、落選者を量産する

品薄マーケティングでは、購入できた人の反応が目立ちます。

SNSには当選報告や商品写真が投稿され、YouTubeには開封動画や使用レビューが並びます。

企業側の管理画面にも、応募者数、完売速度、売上、会員登録者数といった分かりやすい成果が残ります。

こうした数字を見れば、施策は大成功に見えます。

しかし、その裏には商品を購入できなかった人たちがいます。

例えば、100個の商品に1万人が応募した場合、当選者は100人ですが、落選者は9,900人です。

当選した100人の喜びはSNS上で可視化されます。

一方、9,900人の失望は、必ずしも表には出てきません。

一度の落選であれば、

「次回こそ欲しい」

という期待につながるかもしれません。

しかし、何度応募しても買えない状態が続けば、

  • 「どうせ今回も当たらない」
  • 「自分には縁のないブランドだ」
  • 「毎回期待させられるのに、結局買えない」

という感情に変わっていきます。

品薄マーケティングは、すべての顧客のブランドロイヤリティを均等に高める施策ではありません。

一部の顧客を強烈に熱狂させる一方で、別の顧客のロイヤリティを削る、二極化しやすい施策です。

スマートフォンゲームの限定ガチャも、同じ構造を持っています。

目当てのキャラクターを引けた人は、ゲームへの満足度を高めます。

しかし、何度課金しても目当てのキャラクターが出なければ、ゲーム自体を急にやめたくなることがあります。

運営会社は短期的な売上を獲得できても、その裏で長期的なユーザーを失っているかもしれません。

限定ガチャは、LTVを伸ばす仕組みであると同時に、LTVを壊す仕組みにもなり得ます。

ECの抽選販売も同じです。

企業側が見るべきなのは、応募者数や完売までの時間だけではありません。

抽選後のメール配信解除率、LINEのブロック率、次回抽選への再応募率、複数回落選した顧客のサイト訪問率なども確認する必要があります。

買えた人だけを見ていては、施策全体の効果は分かりません。

むしろ、買えなかった人がその後どう行動したのかまで含めて、初めて品薄マーケティングの成否を評価できます。

FOMOは、購買意欲と購入後の後悔を同時に増幅する

FOMOとは、「この機会を逃したくない」という感情です。

品薄マーケティングは、この感情によって消費者の意思決定を早めます。

  • 今買わなければなくなる。
  • 抽選の締め切りが迫っている。
  • 次回の生産時期は分からない。
  • 残り数量が少ない。

こうした条件が提示されると、「本当に必要か」よりも、「逃したくない」という感情が強くなります。

その結果、

  • 似た商品をすでに持っているのに購入する。
  • 使用する予定がないのに購入する。
  • 通常であれば出さない金額を支払う。
  • 限定でなければ購入しなかった商品まで購入する。

といったことが起きやすくなります。

購入できた直後は、高揚感があります。

  • 抽選に当たった。
  • 他の人が買えなかった商品を手に入れた。
  • 発売直後に完売した商品を所有している。
  • SNSでも注目されている。

この瞬間は、購入したこと自体に大きな満足を感じます。

しかし、数週間、数カ月が経つと、消費者は商品そのものを冷静に見るようになります。

  • 本当に使いやすかったのか。
  • 価格に見合う品質だったのか。
  • 自分の生活に必要だったのか。
  • 限定でなくても購入したかったのか。

そこで、

  • 「結局ほとんど使わなかった」
  • 「通常版で十分だった」
  • 「限定という言葉に反応しただけだった」

と感じれば、購入時の高揚感は後悔へ変わります。

この後悔は、単に商品選びを失敗したという感覚だけではありません。

  • 「企業に焦らされて買ってしまった」
  • 「ブランドにうまく乗せられた」

という不信感に変わる可能性があります。

前編では、承認、自己表現、抽選、開封、コミュニティへの参加も、消費者にとって価値になり得ると整理しました。

その考え方は変わりません。

商品の機能以外に満足したのであれば、その人にとって価値は確かに存在します。

ただし、その価値が本物だったかどうかは、商品が完売した瞬間には分かりません。

品薄マーケティングの価値は、購入者が熱狂から冷めた後に決まります。

希少性が、商品の本質的価値を追い越す

品薄マーケティングが強くなりすぎると、消費者が商品を評価する基準も変わります。

本来であれば、商品は品質、機能、デザイン、耐久性、使いやすさ、価格とのバランスなどによって評価されるものです。

しかし、限定性が強調されると、

  • 何個しか作られていないのか。
  • 何分で完売したのか。
  • 中古価格はいくらになっているのか。
  • 有名人やインフルエンサーが持っているのか。
  • SNSでどれだけ注目されているのか。

といった要素が、商品評価の中心になっていきます。

キャンプ用品であれば、実際に使いやすいか、軽量なのか、耐久性があるのかよりも、「入手困難なガレージブランドの商品である」ということが先に語られる。

植物であれば、育てて美しいか、生活に取り入れやすいかよりも、増殖が難しく、流通量が少ないことが価格を決める。

希少性も価値の一部であることは間違いありません。

しかし、希少性ばかりが評価されるようになると、企業側にも悪いインセンティブが働きます。

  • 商品の品質を改善するよりも、供給量を絞った方が売れる。
  • 新しい機能を開発するよりも、限定カラーを出した方が話題になる。
  • 定番商品を安定供給するよりも、コラボレーションを連発した方が売上を作りやすい。

こうなると、

「良い商品が希少だから売れる」

のではなく、

「希少であれば、商品内容を問わず売れる」

という順番に変わります。

この状態は、短期的には非常に利益が出ます。

しかし、ブランドの競争力が商品ではなく、供給制限と話題性へ依存するようになります。

品薄マーケティングの危険性は、消費者だけでなく、企業自身も希少性へ依存してしまうことにあります。

品薄マーケティングはラグジュアリーに似ているが、ラグジュアリーそのものではない

前編では、品薄マーケティングは一種のラグジュアリーであると書きました。

  • 誰でも簡単に買えない。
  • 所有するまでに時間や手間がかかる。
  • 持っている人が限られている。
  • 入手した経緯を語ることができる。
  • 機能だけでは説明できない満足感がある。

こうした要素は、確かにラグジュアリーとよく似ています。

しかし、品薄マーケティングによってラグジュアリー性を演出できることと、ブランド自体がラグジュアリーとして成立することは同じではありません。

本来のラグジュアリーブランドは、単に供給量が少ないわけではありません。

商品品質、ブランドの歴史、一貫した世界観、接客、アフターサービス、修理可能性、長期的な価格維持、所有後の満足まで含めて価値を支えています。

  • 長期間使い続けられる。
  • 数年後も価値が認められる。
  • 壊れても修理できる。
  • 所有するほどブランドへの理解が深まる。

こうした要素があって初めて、希少性が長期的な価値になります。

一方、単に生産数を絞り、抽選販売にしただけでは、ラグジュアリーの表面的な部分しか再現できません。

発売直後には高値が付いても、数年後に誰も欲しがらなければ、資産価値としての希少性は成立しません。

品薄マーケティングは、ラグジュアリーへの入口にはなります。

しかし、希少性だけでラグジュアリーになることはできません。

本当のラグジュアリーになるためには、手に入れた後にも価値が続く必要があります。

転売市場が、ブランドの価格決定権を奪う

品薄商品には、転売の問題が付きまといます。

商品が定価を大きく上回る価格で取引されると、ブランド側も悪い気はしないかもしれません。

  • 自社の商品に高い市場価値が付いている。
  • 需要が供給を大きく上回っている。
  • ブランドが注目されている。

二次流通価格は、確かにHypeを可視化する指標の一つです。

しかし、転売市場が大きくなりすぎると、商品の価格や価値を決める主体が、ブランドから二次流通市場へ移っていきます。

ブランドが1万円で販売した商品が、転売市場で5万円になったとします。

消費者は、その商品の品質やブランドが提示した価値よりも、「5万円で取引されている商品」という情報によって価値を判断するようになります。

商品の本来の使用価値より、将来いくらで売れるかが重視されます。

購入者も、商品を使う人ではなく、価格が上がることを期待する投機目的の人へ変わっていきます。

さらに、

  • 本当に欲しい人へ商品が届かない。
  • Botや複数アカウントを使える人が有利になる。
  • 転売目的の購入者がコミュニティへ入ってくる。
  • 所有者同士の会話が、使用感ではなくプレミア価格中心になる。
  • ブランドのファンよりも、投機家の存在が目立つ。

といった問題が起きます。

ブランドが作りたかったのは、商品を使い、楽しみ、ブランドの世界観へ共感するコミュニティだったはずです。

しかし、転売市場が支配的になると、コミュニティは希少品を奪い合う市場へ変わります。

高い二次流通価格は、短期的にはブランド人気の証明です。

一方、長期的にはブランドが顧客体験と価格決定権を失い始めている兆候でもあります。

転売を完全になくすことは難しいでしょう。

ただし、購入数の制限、本人確認、Bot対策、再販売の予告、受注生産への切り替えなどによって、投機家よりも実際の利用者へ商品を届ける努力は必要です。

一定規模を超えると、顧客は一種類ではなくなる

小規模なブランドであれば、限定商品や抽選販売を好む、熱量の高い顧客へ集中することもできます。

しかし、ブランドが成長し、顧客数が増えると、顧客データベースの中には異なる価値観を持つ人たちが混在するようになります。

一方には、定番商品を安心して買いたい顧客がいます。

  • 必要なときに、いつでも買える。
  • 壊れたときに、同じ商品を買い直せる。
  • 以前と同じ品質の商品が手に入る。
  • 発売日時を追いかけたり、抽選へ応募したりしなくてもよい。

こうした顧客にとって、ブランドの価値は希少性ではなく、信頼性や継続性にあります。

もう一方には、新商品、限定カラー、コラボレーション、抽選販売といった刺激を求める顧客がいます。

すでに定番商品を持っているため、同じ商品をもう一度買う理由はありません。

新しい物語や所有する理由が提示されなければ、ブランドとの接点が薄れていきます。

この二つの顧客層は、同じブランドの顧客データベースの中に存在します。

顧客データベースは一つでも、顧客がブランドに期待している価値は一つではありません。

限定商品ばかりを出せば、定番商品を安心して使いたい顧客からは、

  • 「欲しいときに買えない」
  • 「最近は話題作りばかりになった」
  • 「昔の方が落ち着いて商品を選べた」

と思われる可能性があります。

反対に、定番商品だけを安定供給していると、刺激を求める顧客からは、

  • 「最近は面白い商品が出ない」
  • 「新鮮味がない」
  • 「別のブランドの方が楽しそうだ」

と評価されるかもしれません。

一定規模以上のブランドにとって重要なのは、品薄マーケティングをやるか、やらないかを決めることではありません。

どの商品を安定供給し、どの商品に希少性を持たせるかを決めることです。

  • 定番商品で信頼を作る。
  • 限定商品で熱量を作る。
  • 受注生産や予約販売で、経営合理性と公平性を両立する。

商品ポートフォリオの中で、それぞれに異なる役割を持たせる必要があります。

CRMの運用も同様です。

定番商品を繰り返し購入している顧客へ、毎週のように限定商品や抽選販売の情報を送っても、必ずしも喜ばれるとは限りません。

反対に、限定商品への応募履歴があり、新商品情報への反応も高い顧客にとっては、発売予告そのものがコンテンツになります。

購入履歴、応募履歴、メールやLINEへの反応、商品ページの閲覧行動などを見ながら、顧客ごとに届ける情報を変える必要があります。

売上が伸び、顧客が増えることは、本来喜ばしいことです。

しかし、成長によって顧客の期待は多様になり、かつて有効だった施策が、別の顧客にとっては不満の原因にもなります。

こうした矛盾を見ていると、つくづくビジネスとは生き物だと感じさせられます。

昨日まで正しかった施策が、ブランドの成長によって今日も正しいとは限りません。

だからこそ、その時点の顧客構成やブランドの規模に合わせて、希少性の使い方を変えていく必要があります。

「誰に買う権利を渡すか」という顧客政策

品薄マーケティングでは、商品の数量だけでなく、誰に購入機会を与えるかという設計も重要になります。

長年購入してきたロイヤルカスタマーを優先すれば、これまでブランドを支えてきた顧客への還元になります。

一方、新規顧客にとっては、古参だけが優遇される閉鎖的なブランドに見えるかもしれません。

完全抽選にすれば、誰にでも当選の可能性があるため公平に見えます。

しかし、長年ブランドを支えてきた顧客が何度も落選し、初めて応募した人が当選することもあります。

そのとき、ロイヤルカスタマーが不公平感を抱く可能性があります。

先着順はシンプルです。

ただし、販売開始時刻にスマートフォンを操作できる人、高速な通信環境を持つ人、Botや自動購入ツールを使える人が有利になります。

会員ランクや購入金額による優先販売は、既存顧客を大切にする仕組みです。

しかし、新しい顧客がブランドへ入ってくる機会を減らす可能性があります。

どの方法にも、公平性とロイヤリティのトレードオフがあります。

誰でも買える状態をやめた瞬間、企業は「誰に買う権利を渡すのか」という顧客政策を問われます。

品薄マーケティングは、単なる在庫や販売方法の問題ではありません。

誰をブランドの内側へ招き、誰を待たせ、誰を優遇するのかという、顧客との関係設計です。

だからこそ、購入条件や抽選ルールには透明性が必要です。

さらに、一度落選した人にも次回の機会があること、定番商品や代替商品を購入できること、受注生産という選択肢があることなど、完全に排除された感覚を与えない工夫も重要です。

人は、「買えない」ことには耐えられるかもしれません。

しかし、「自分には買わせてもらえない」と感じた瞬間、ブランドから離れていきます

品薄を続けるほど、普通に売れなくなる

一度、限定商品が即完売すると、企業側にも成功体験が残ります。

  • 通常販売では動かなかった商品が、数量限定にした途端に売れた。
  • 定番カラーでは反応が薄かった商品が、限定カラーにしたら話題になった。
  • 通常商品より、コラボ商品やシリアルナンバー入り商品の方が高い価格で売れた。

こうした成功が続けば、企業は新商品を出すたびに、

  • 数量限定
  • 期間限定
  • 抽選販売
  • 限定カラー
  • コラボレーション
  • シリアルナンバー
  • 再販未定

といった刺激を加えるようになります。

しかし、限定販売が常態化すると、限定であること自体が普通になります。

消費者も、

  • 「どうせまた新しい限定商品が出る」
  • 「次のコラボを待った方がよい」
  • 「通常版を今買う必要はない」

と考えるようになります。

その結果、通常商品が売れにくくなります。

さらに、毎回前回以上の限定性や話題性を作らなければ、顧客が反応しなくなる可能性もあります。

これは、セール依存とよく似ています。

値引きを繰り返すと、消費者は定価で商品を買わなくなります。

次のセールを待つようになります。

同じように、限定商品を繰り返すと、消費者は希少性のない商品を買わなくなります。

次の限定商品を待つようになります。

品薄マーケティングの最大の経営リスクは、品薄マーケティングをやめられなくなることです。

短期的な売上を作るために始めた限定販売が、通常商品では売上を作れないブランド構造を生み出す。

そうなれば、企業は常に新しい刺激を作り続けなければなりません。

品薄マーケティングを使うこと自体が問題なのではありません。

通常商品にも十分な価値があり、限定商品がブランドの楽しみを広げる役割を担っている状態が理想です。

定番商品が弱く、限定性だけが購入理由になっている場合は、ブランドの基盤が不安定になっている可能性があります。

ブランドを育てる品薄と、ブランドを壊す品薄

ここまで見てくると、品薄マーケティングが良いか悪いかを、一律に判断することはできません。

重要なのは、希少性をどのような理由で作り、どのような顧客体験につなげているかです。

ブランドを育てる品薄には、いくつかの共通点があります。

ブランドを育てる品薄の共通点

  • 生産能力や素材調達に実際の制約がある。
  • 品質を維持するために生産量を限定している。
  • 限定である理由を、顧客に説明できる。
  • 定番商品は必要なときに購入できる。
  • 落選した顧客にも、次回や代替商品の機会がある。
  • 購入方法に一定の公平性と透明性がある。
  • 商品品質が、希少性によって高まった期待に応えている。
  • 購入後の満足や使用状況まで確認している。
  • 転売を抑え、実際に使用する顧客へ商品を届けようとしている。

一方、ブランドを消耗する品薄にも共通点があります。

ブランドを消耗する品薄の共通点

  • 消費者の焦りを煽ることだけが目的になっている。
  • 十分な在庫があるのに、意図的に小出しにしている。
  • 毎回のように限定販売を繰り返している。
  • 商品品質よりも、限定性や話題性が先行している。
  • 転売価格をブランド価値の証明として利用している。
  • 購入者の満足だけを見て、落選者や非購入者の感情を見ていない。
  • 一部の顧客だけが購入できる状態を放置している。
  • 通常商品に十分な魅力がなくなっている。

良い品薄と悪い品薄の違いは、商品数が少ないかどうかではありません。

希少性によって高めた期待を、商品と購入後の体験で返せるかどうかです。

企業が品薄マーケティングを実施する際は、応募者数、完売速度、売上だけを見てはいけません。

購入者については、返品率、利用率、レビュー、リピート率、ブランド推奨意向を確認する。

落選者については、メール解除率、LINEブロック率、次回応募率、サイトへの再訪、定番商品の購入率を確認する。

  • 限定商品が通常商品の売上を奪っていないか。
  • 抽選応募によって集めた会員が、その後もブランドへ関心を持っているか。
  • 限定商品を購入した顧客が、長期的な顧客になっているか。

こうした点まで見て、初めて品薄マーケティングの収支が分かります。

売上だけではなく、ブランドへの信頼を含めて評価する必要があります。

おわりに|品薄を作るのではなく、期待を裏切らない仕組みを作る

品薄マーケティングは、非常に合理的で、強力な手法です。

在庫を抑え、利益率を高め、顧客の意思決定を早める。

商品発売をイベント化し、SNS、動画、EC、CRMを横断する顧客接点を作る。

一般的な商品にも、入手困難性、物語、社会的意味を重ね、一種のラグジュアリー性を与える。

これらは、現在の消費者心理やマーケティング環境を的確に捉えています。

しかし、その強さは副作用と表裏一体です。

当選者の熱狂の裏側では、落選者の失望が積み上がります。

FOMOによって購入を促進する一方で、購入後の後悔も増幅します。

希少性が商品の本質的価値を追い越せば、企業は商品改善よりも供給制限や話題作りへ依存するようになります。

ブランドが成長すれば、限定商品による刺激を求める顧客と、定番商品を安心して買いたい顧客が、同じ顧客データベースの中に存在するようになります。

昨日まで正しかった施策が、成長によって今日も正しいとは限りません。

だからこそ、品薄マーケティングを採用するかどうかという二択ではなく、

  • どの商品を安定供給するのか。
  • どの商品に希少性を持たせるのか。
  • 誰に購入機会を与えるのか。
  • 落選した人に、次の機会をどう提示するのか。
  • 購入後の期待に、どう応えるのか。

を設計する必要があります。

企業が考えるべき問いは、

「どうすれば商品を品薄に見せられるか」

ではありません。

「品薄によって高めた期待を、購入後も裏切らずに済むか」

です。

品薄マーケティングの成否は、何分で完売したかでは決まりません。

購入者が熱狂から冷めた後も商品を気に入り、落選者も次の機会を待ち、定番商品を買い続ける顧客も安心してブランドに残っている。

その状態を作れて初めて、希少性は一時的な話題ではなく、長期的なブランド価値になるのだと思います。

関連コラム:ロイヤル顧客とは何者か?|コンテンツとチャネルを考える前に、定義しておくべきこと(顧客を一括りにせず、その中身を定義することの重要性を考えたコラム)

関連コラム:CRMは短期投資ではない。3年後の売上曲線を変える投資である。(短期の売上と長期の顧客資産のバランスを考えたコラム)

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