はじめに|30万円の経営壁打ちは、価値ベースなのか
最近、経営者向けの壁打ちサービスを、1回数十万円という価格で提供しているインフルエンサーを見かけることがあります。
30万円という価格が高いか安いかについては、特に論じたいとは思いません。
その人との会話によって重要な意思決定が変わり、数百万円、数千万円単位の損失を防げるのであれば、30万円でも十分に安い可能性があります。価格は提供者が一方的に決めるものではなく、その価格で購入する人がいるのであれば、少なくとも市場では成立しているということです。
一方で、それを「工数ではなく、提供する価値に対して価格をつけている」と説明されると、少し違和感があります。
実際には、1回何時間なのか、月に何回実施するのか、何カ月間支援するのか、チャットでの相談が含まれるのかといった条件が設定されています。
30万円という決まった価格と、何時間という提供条件がある以上、それは完全に工数から切り離された価値ベースとは言えません。
むしろ、どれだけ高額なサービスであっても、購入者が価格を受け入れやすいように、時間や回数という物差しを提示しているのだと思います。
「90分で30万円」と言われれば、購入者は無意識に時間単価へ換算します。それが高いと思うか、実績を考えれば妥当だと思うかは人によって異なりますが、時間という共通言語が価格に対する納得を支えていることは変わりません。
ここから考えたいのは、人月と価値ベースのどちらが正しいのかという話ではありません。
なぜ今、価値ベースや成果報酬、SaaS、FDEといったモデルが求められているのか。それを既存のビジネスとどう結びつけるべきなのか。そして、提供方法や請求形態を変えることで、顧客や社会は本当に以前より良くなるのか。
先に結論を言えば、「人月か価値ベースか」という問いの立て方自体が、少し乱暴なのだと思います。
なぜ人月ビジネスは時代遅れと言われるのか
人月ビジネスが、投資家や起業家からあまり好まれない理由は明確です。
人の時間を売上に変えるビジネスでは、基本的に人を増やさなければ売上も増えません。
一人の社員が一カ月に提供できる時間には上限があります。売上を増やすためには採用が必要になり、採用した人を教育し、品質を管理し、組織としてマネジメントしなければなりません。
売上が増えるほど人件費や管理コストも増えるため、利益が指数関数的に伸びる姿を描きにくいビジネスです。
一方、SaaSやプラットフォーム、デジタルコンテンツ、AIプロダクトなどは、一度作った仕組みを複数の顧客へ提供できます。
顧客が増えても、それと同じ割合で人員を増やす必要がなければ、売上に対してコストの増加を抑えられます。いわゆる1対n型のビジネスです。
投資家が、
- 継続収益がある
- 粗利率が高い
- 限界コストが低い
- 売上が人員数に比例しない
- 資本を投下することで急成長できる
といった事業へ投資したくなるのは当然です。
企業側からしても、人月だけに依存せず、より大きなレバレッジがかかる事業を持ちたいと考えるのは自然なことです。
その意味で、価値ベース、成果報酬、サブスクリプション、SaaS、AIプロダクトといったモデルが時代に求められていること自体を否定する気はありません。
むしろ、既存のビジネスと新しいモデルをどう結びつけるのかは、積極的に考えるべきテーマです。
ただし、投資家から高く評価されることと、社会から必要とされていることは、必ずしも同じではありません。
スケールしにくいことと、価値がないことも別の話です。
AIが、人月課金の矛盾を表面化させた
人月ビジネスに以前から存在していた矛盾を、一気に表面化させたのがAIです。
例えば、これまで1人月かかると見積もっていた仕事が、AIを活用することで2週間で終わることがあります。
従来より早く、しかも高い品質で納品したにもかかわらず、実際に使った工数だけで請求するのであれば、売上は半分になります。
つまり、生産性を高めた会社ほど売上が減ることになります。
反対に、1人月分の売上を確保するために、2週間で終わる仕事を1カ月かけて進める方が、提供者側の経済合理性には合ってしまいます。
これは明らかに矛盾しています。
顧客にとっては、早く品質の良いものが届く方が望ましい。一方、提供者にとっては、早く終わらせるほど請求額が下がる。
人月課金には、最初から「早く終わらせること」と「売上を維持すること」が衝突しやすい構造がありました。AIは、その矛盾を無視できない大きさにしたのだと思います。
特に、システム開発、EC構築、デザイン、マーケティング、コンサルティングといった業界は、この変化のど真ん中にあります。
我々が行っているShopifyを中心としたEC支援でも、調査、要件整理、設計、実装、データ分析、文章作成など、AIによって短縮できる工程は増えています。
一方、見積もりや契約、請求の考え方は、依然として人日や人月を基準にしているケースが多い。
現在は、提供速度だけが先に変わり、価格体系や契約体系が追いついていない過渡期なのだと思います。
最新のビジネスモデルを、既存事業へどう接続するか
人月課金に矛盾があるからといって、既存事業をすべて捨てて、明日からSaaS企業や成果報酬型の会社になれるわけではありません。
だからといって、「うちの業界には合わない」と言って、従来のやり方だけを守り続けることも健全ではありません。
経営者が考えるべきなのは、最新のビジネスモデルをそのまま模倣することではなく、自社の既存事業とどう接続するかです。
例えば、人月で提供している業務の中でも、繰り返し発生する作業は標準化できます。
- よくある調査や設定確認をAIやツールに置き換える。
- コンサルティングで繰り返し出てくる課題をテンプレート化する。
- 複数の顧客に共通する機能をプロダクトとして切り出す。
- 固定報酬の中に、一部だけ成果連動の要素を加える。
こうした取り組みは、人月からSaaSへ一気に移行する話ではありません。
既存の顧客、知見、キャッシュフローを残しながら、新しいモデルが成立する条件を小さく試していく話です。
実際、全く新しいプロダクトを机上で考えるよりも、既存の支援業務の中で何度も発生している課題からプロダクトを作った方が、顧客ニーズを外しにくい。
人月ビジネスは、単なる労働集約型の売上ではなく、顧客の現場から課題と知見を集める場所にもなります。
新しいモデルがそのままでは成立しにくいのであれば、なぜ成立しないのかを考える。その原因が権限、契約、顧客の実行体制、価格、提供範囲にあるなら、そこを新しい形に組み直して試してみる。
時代に求められているモデルを否定するのではなく、既存事業と結びつけながら成立条件を探す。その試行錯誤こそ、経営者が行うべき仕事だと思います。
FDEは、価値と実装を近づける一つの試みである
最近、AIの領域を中心にFDE、Forward Deployed Engineerというモデルを目にすることが増えました。
FDEは、完成したプロダクトを顧客へ渡して終わるのではなく、顧客の現場へ入り込み、課題の発見、業務理解、設計、実装、本番展開、定着までを一気通貫で支援します。
そして、個別顧客への支援で得た知見を、再利用可能な機能やプロダクトへ戻していきます。
FDEは課金形態そのものではありません。
ただし、「何時間働いたか」だけではなく、「顧客の現場にどのような変化を実装したか」へ提供価値を近づけようとする試みだとは言えます。
一方、我々の主戦場であるECを中心としたビジネス支援では、AIプロダクト企業ほどFDEの話が盛り上がっている印象はありません。
その理由の一つは、ECの成果が複数の要因によって決まるからだと思います。
どれだけ良いサイトを作り、優れた施策を提案しても、商品力、価格、在庫、広告予算、ブランド力、社内の実行体制、市場環境などによって売上は変わります。
支援会社の貢献だけを切り分けることが難しく、成果報酬がいまいちフィットしない案件が多い。
また、FDE的に現場へ深く入ったとしても、顧客側の意思決定や実行権限まで持てるとは限りません。
その意味で、FDEも人月を置き換える万能な答えではありません。
個別支援で得た知見を、顧客成果や再利用可能な仕組みへつなげるための、一つの試行錯誤として見るのが適切だと思います。
誰を最適化するビジネスモデルなのか
ビジネスモデルの議論が難しいのは、立場によって望ましい形が違うからです。
投資家は、高い成長率、継続収益、高い粗利率、低い限界コスト、1対nのスケーラビリティを求めます。
これは資本を投じる側として合理的です。
投資家が評価するモデルだからこそ、大きな資金を集め、開発やマーケティングに投資し、社会へ急速に普及できるサービスもあります。
投資家最適を否定してしまえば、資本によって実現できた多くの技術革新まで否定することになります。
企業は、売上の安定、利益率の向上、解約率の低下、需要予測のしやすさ、人員配置の効率化を求めます。
企業がサブスクリプションや長期契約を好むのは、継続的な売上を確保し、経営計画を立てやすくなるからです。
サービスを実際に提供する側は、適正な報酬、無理のない業務量、品質を保つための時間、成果に必要な権限、継続可能な働き方を必要とします。
顧客と投資家にとって魅力的な成果報酬でも、提供者だけが過大なリスクを負うのであれば長続きしません。
ユーザーは、支払額以上の便益、分かりやすい価格、不必要な継続課金がないこと、利用や解約の自由を求めます。
企業側のLTVを最大化する仕組みが、必ずしもユーザーにとって最善とは限りません。
さらに社会全体で見れば、必要なサービスへ多くの人がアクセスできること、専門性や雇用が維持されること、限られた資源が有効に使われること、新しい技術が適切に普及することも重要です。
問題は、誰か一者を最適化することではありません。
投資家だけを最適化すれば、成長率は高くても現場が疲弊する可能性があります。
企業だけを最適化すれば、ユーザーが必要としていない継続課金を押しつけることがあります。
ユーザーだけを最適化して価格を下げ続ければ、提供者や企業が持続できなくなります。
どのモデルが正しいのかではなく、そのモデルが誰を最適化し、誰にリスクや負担を移しているのかを見る必要があります。
最も多くの時間を、社会とユーザーの変化に使う
以前、三方よしのバランス感覚について記事を書きました。
今回も、結局は同じ話に戻ってきます。
投資家、企業、提供者、ユーザー、社会。すべての立場を考える必要があります。
ただし、それぞれについて均等な時間を使えばよいとは思いません。
企業側のメリットは比較的考えやすいものです。
売上がいくら増えるのか。粗利率がどう変わるのか。継続収益になるのか。投資家からどう評価されるのか。
これらは数字にしやすく、社内でも日常的に議論されています。
だからこそ、意識的に最も多くの時間を使うべきなのは、
- 「この仕組みによって、社会はどう良くなるのか」
- 「ユーザーは以前より幸せになるのか」
という問いだと思います。
サブスクリプションに変更すれば企業の売上は安定します。しかし、ユーザーが以前は一度購入すれば使い続けられたものに、毎月料金を払い続けることになっただけなら、本当に良くなったとは限りません。
成果報酬にすれば顧客の初期負担は減ります。しかし、提供者だけがリスクを負い、成功に必要な権限を与えられないのであれば、持続可能な仕組みではありません。
AIによって人件費が減り、企業の利益率が上がったとしても、価格も品質もユーザー体験も変わらないのであれば、社会全体に生まれた価値は限定的です。
もちろん、ユーザーのことだけを考えて、企業が赤字になればよいという話でもありません。
サービスが継続しなければ、最終的にはユーザーも困ります。
価値を考える順番
- まず、社会やユーザーのどの不便を解消するのかを考える。
- 次に、その価値を継続して提供できる収益構造を作る。
- 提供者が品質を維持できる条件を整える。
- その仕組みを広げるために、投資家の資本を活用する。
この順番が、三方よし、あるいは四方よし、五方よしに近いのだと思います。
成功したビジネスモデルは、具体的な不便を解消してきた
過去に成功した新しいビジネスモデルを振り返ると、新しい課金方法を採用したから成功したわけではありません。
従来の取引に存在した、具体的な不便やリスクを解消した結果として、新しい提供方法や請求形態が支持されています。
Netflixは、その代表例です。
Netflixの価値は、単に映像コンテンツをサブスクリプションで提供したことではありません。
レンタルショップへ行く必要がない。在庫切れを気にしなくてよい。返却期限や延滞料金を気にしなくてよい。やがてストリーミングへ移行し、好きな場所と時間に視聴できるようになった。
ユーザーが映画やドラマを見る際に抱えていた、移動、在庫、返却、時間という摩擦を減らしました。
その体験と定額制の相性がよかったのです。
一方で、Microsoft OfficeやAdobeのように、以前は買い切りで利用できた製品が継続課金へ移行したケースについては、ユーザーが以前より幸せになったかは意見が分かれると思います。
企業には安定収益という明確なメリットがありますが、利用者からすれば、買い切りの方がよかったと感じる人も少なくありません。
同じサブスクリプションでも、誰のどの不便を解消しているかによって評価は変わります。
航空機エンジンなどで見られる、稼働時間に応じた保守契約も興味深い例です。
航空会社が高額な予備部品や突発的な修理費用をすべて抱えるのではなく、飛行時間や稼働に応じて料金を支払う。
提供者側は、エンジンが安定して稼働するほど利益を得やすくなるため、顧客と提供者のインセンティブが近づきます。
これは単に支払い方法を変えただけではありません。
設備の保有リスク、修理費用の変動、稼働停止のリスク、提供者と利用者の利害のずれを、提供範囲と請求方法を同時に変えることで解消しています。
クラウドサービスの従量課金も同様です。
企業が将来必要になるか分からないサーバーを大量に購入し、保守する代わりに、必要なときに必要な分だけ利用できる。
需要の変動が大きい事業にとっては、初期投資や余剰設備のリスクを減らせます。
ただし、利用量が安定して大きい場合には、自社で保有した方が安くなることもあります。
重要なのは、サブスク、従量課金、リース、レンタルという形式自体が優れていることではありません。
従来の取引にあった具体的な不便、リスク、インセンティブのずれを、本当に解消しているかどうかです。
「買うと高いから、同じ便益を別の支払い方で受けられるようにする」という工夫は素晴らしいものです。
ただし、価値へアクセスしやすくすれば、すべて良いビジネスモデルになるというほど単純でもありません。
保険商品が常に最高のビジネスモデルだという話にはならないのと同じです。
誰のどの問題を、どのように解消したのか。それを具体的に見なければなりません。
価値ベース課金が、成果報酬に近づく難しさ
工数ではなく、提供した価値に対して価格をつけようとすると、議論は成果報酬へ近づいていきます。
売上を1億円増やしたのであれば、その一部を報酬として受け取る。コストを1,000万円削減したのであれば、その何割かを受け取る。
理屈としては分かりやすいモデルです。
しかし、EC支援やコンサルティングの実務では、大きなギャップが生まれます。
自社の商品力や成長性に自信があり、自力でも売れると分かっている企業ほど、増えた利益を支援会社へ分けることを嫌います。
「成功する確率が高いのであれば、固定費を払って支援してもらい、成果は自社で受け取りたい」と考えるのは合理的です。
反対に、成果報酬を強く希望する企業は、自社でも売れる確信がなかったり、初期費用を負担したくなかったり、社内の実行主体が弱かったりすることがあります。
つまり、成果が出そうな案件ほど成果報酬では受けにくく、成果報酬で相談される案件ほど成果を出しにくいという逆選択が起きます。
儲かりそうなビジネスを、成果報酬で支援させてもらえるという話は、実際にはそれほど多くありません。
しかも、ECの売上は支援会社だけではコントロールできません。
商品開発、仕入れ、在庫、価格、広告予算、社内承認、現場の実行速度など、顧客企業側に依存する要素が数多くあります。
提供者が成果リスクを負うのであれば、成果に必要な権限も持たなければバランスが取れません。
成果報酬を成立させるには、報酬の計算方法だけでなく、意思決定、実行権限、予算、顧客側の義務、成果の定義まで含めて設計し直す必要があります。
時代に求められているからと、無理に成果報酬へ移行しても、よほど強い実行権限や契約上の強制力がなければ失敗する可能性が高いと思います。
作業時間が半分になったら、残りの半分で何をするのか
AIによって1カ月の仕事が2週間で終わるようになったとき、同じ成果物を早く、高い品質で納品したのだから、以前と同じ金額を受け取るべきだという主張には合理性があります。
顧客が買っているのは作業時間ではなく、完成した成果物や問題の解決だからです。
しかし、それだけで話を終わらせることもできません。
AIが普及し、多くの会社が同じ成果物を短時間で作れるようになれば、その成果物自体の希少性は下がります。
これまで1カ月かかったという事実だけを理由に、同じ金額を請求し続けることは難しくなります。
そのとき、提供者が考えるべきなのは、どうすれば従来の1カ月分を請求できるかではありません。
短縮された2週間で、何を新しく提供するかです。
短縮された時間で、新しく提供できること
- これまで一つしか検証できなかった仮説を、三つ検証する。
- 成果物を作って終わるのではなく、品質保証を強化する。
- 納品だけでなく、顧客企業で実際に使われるところまで支援する。
- 運用データを蓄積し、次の改善につなげる。
- 顧客自身が使える仕組みやノウハウを残す。
- 複数の顧客に共通する課題を、ツールやプロダクトへ変える。
AIによって生まれた余力を、新しい価値へ転換する必要があります。
それができないのであれば、人月ビジネスという課金方式が悪いのではありません。
従来提供してきたサービスの価値が下がり、その存在意義が時代の変化に追いつけていないというだけの話です。
人月の金額を守るために、作業時間を引き延ばしてはいけない。
同じ金額を受け取りたいのであれば、同じ時間の中で提供する価値を増やすべきです。
それでも人月ビジネスはなくならない
ここまで人月課金の矛盾について書いてきましたが、人月ビジネスそのものが社会から不要だと思われているわけではありません。
顧客固有の事情を理解し、関係者間を調整し、不確実な状況で判断し、実行を最後まで支える仕事には、引き続き人の時間が必要です。
顧客にとっても、必要な専門家を一定期間確保し、支援範囲と予算を把握しやすいというメリットがあります。
提供企業にとっても、人月や月額支援は安定したビジネスです。
- 売上を予測しやすい。
- キャッシュフローが安定する。
- 採用や教育への投資計画を立てやすい。
- 新規事業へ投資するための原資を作れる。
直接契約であっても、マッチングサービスであっても、一定の需要がある限り、ポートフォリオとして持っておきたい収入源であることは間違いありません。
人月ビジネスの価値は、売上だけではありません。
顧客の現場へ入り、実際の課題を知ることができます。
プロダクトだけを販売していると見えにくい、顧客の細かな不満、社内事情、運用上の障壁を理解できます。
その知見が、新しいサービスやAIプロダクトの種になります。
スケールしにくいことと、経営や社会にとって価値がないことを混同してはいけません。
何で名を上げ、何で実を取るのか
マーケティング戦略を考える際に、「何で名を上げ、何で実を取るのか」という話をすることがあります。
会社の認知を広げる商品と、実際に利益を生む商品が同じである必要はありません。
- 新しいAIサービスやプロダクトによって、先進的な会社として名を上げる。
- 人月や継続支援によって、安定した利益を得る。
- コンサルティングを通じて顧客の課題を理解し、その中で繰り返し発生する問題をプロダクトへ変える。
- プロダクトの認知によって、新しい支援案件を獲得する。
このような循環は十分に成立します。
人月とSaaS、コンサルティングとプロダクト、固定報酬と成果報酬は、どちらか一方だけを選ばなければならない関係ではありません。
それぞれに異なる役割を持たせ、会社全体として収益ポートフォリオを作ることもできます。
一方で、ポートフォリオを持つことが常に正解というわけでもありません。
一つの事業に明確な勝ち筋が見えていて、そこへ人材や資本を集中することで大きなレバレッジが得られるのであれば、選択と集中の方が健全です。
勝てると分かっている事業があるのに、安定を求めて複数の事業へ資源を分散しすぎれば、どの事業も中途半端になる可能性があります。
分散か集中かは、思想ではなく戦略です。
- 何が現在の利益を支えているのか。
- 何が将来の成長を作るのか。
- 何が顧客理解を深めるのか。
- 何が会社の知名度を高めるのか。
- そして、今の会社にはどの程度のリスクを取る余力があるのか。
それぞれの事業と収益モデルに、どのような役割を持たせるのかを明確にする必要があります。
おわりに|時代遅れになるのは、ビジネスモデルではなく提供価値である
人月課金には、AI時代に合わなくなっている部分があります。
早く品質の良いものを提供するほど請求額が下がり、ゆっくり進める方が売上を確保しやすいという矛盾は、今後さらに大きくなるでしょう。
一方で、価値ベース、成果報酬、サブスクリプション、FDEも、それ自体が顧客や社会を良くするわけではありません。
新しいモデルが時代に求められていることは間違いありません。
だからこそ、それを否定するのでも、無条件に模倣するのでもなく、既存ビジネスとの接続方法を試行錯誤する必要があります。
その際に考えるべきなのは、どのビジネスモデルが新しいかではありません。
- 誰のどの不便を解消するのか。
- 誰がリスクを負うのか。
- 社会は以前より良くなるのか。
- ユーザーは以前より幸せになるのか。
- 企業と提供者は継続的に価値を提供できるのか。
- 投資家の資本によって、その価値をより多くの人へ届けられるのか。
- そして、自社は何で名を上げ、何で実を取るのか。
投資家最適、企業最適、提供者最適、ユーザー最適のどれか一つを正解にするのではなく、それぞれが長期的に成立する構造を考える。
ただし、企業や投資家のメリットは放っておいても議論されます。
だからこそ、最も多くの時間を使うべきなのは、この仕組みによって社会とユーザーがどう変わるのかという問いです。
AIによって1カ月の仕事が2週間で終わるなら、残った2週間で次の価値を作る。
それができなければ、時代遅れなのは人月というビジネスモデルではありません。
時代が変わっているのに、提供する価値とビジネスモデルの接続方法を変えないことの方なのだと思います。
関連コラム:AI時代に勝つのは専門特化かワンストップサービスか?(AI時代の事業戦略の選び方を、別の切り口から考えたコラム)
関連コラム:モール型ECとは、「商品」を売るビジネスではなく、「トラフィック」を売るビジネスである。(ビジネスの収益構造を分解して見るという、本記事と同じ視点のコラム)



