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COLUMN

海外ECはどこまで世界共通なのか?|日本と6市場の商習慣比較から考える、「買い物の常識」とローカライズの境界

とあるきっかけから、「国ごとの商習慣について書いてほしい」というリクエストを頂いた。

越境ECの仕事をしていれば、国によって決済手段が違う、配送方法が違う、返品に対する感覚が違う、といった話は日常的に出てくる。

それを国別に並べるというのも面白そうではあるものの、やはりECの文脈における「商習慣」というワードを分解して個別に深堀するようなプロジェクトをやりたいな、そんな風に考えた。

本記事は「世界のECにおける商習慣」シリーズの第一回として、

リアルの商習慣が国によって違うとして、それはオンラインになっても本当に大きく違うのか。

というところをまずは浅くさらって、日本との差分が大きい部分を深ぼっていき、読者の皆様に施策検討の一助になるようなものになればと思った次第であります。

日本を基準に、6市場を同じ物差しで比較した

対象にしたのは、

  • アメリカ
  • カナダ
  • オーストラリア
  • フランス
  • ドイツ
  • 台湾

の6市場。

今回は、私たちが日本企業のグローバルECを支援する際に、現実的に販売先として検討する市場を中心に絞った。

比較項目は、商品検索、商品詳細、レビュー、商品選択、値引き、決済、配送・受取、返品、CRM、会員制度、ギフト、接客、店舗連携、購入後サービスなど。

消費者行動については、DHLの2026年E-Commerce Trends Reportを中心に確認した。同調査は29カ国のオンライン購入者29,000人と、28カ国のEC事業者5,800社を対象にしている。

ただし、国別調査だけでは「国の差」と「企業の差」が混ざる。

そこで企業側では、UNIQLOなど同一ブランドの日本・海外ECを比較したほか、ファッションではDTCとセレクトECを分け、食品・飲料ではGODIVAなど同じ商品カテゴリーの日米ECを確認した。

例えば返品率に違いがあったとしても、それが日本とアメリカの違いなのか、アパレルと食品の違いなのか、単にそのブランドの方針なのかを分けなければ、「国ごとの商習慣」とは言えないからだ。

結論から言うと、「違い」は均等には存在していなかった

比較すると、ECのあらゆる場所で国ごとの差が出るわけではない。

むしろ、差が残っている場所はかなり偏っていた。

大きく3つに分けると整理しやすい。

1.ECの基本的な「形」、つまりユーザーインターフェースはかなり共通化している

商品検索、商品一覧、商品詳細、カート、レビュー、レコメンド、会員機能など。

もちろん細部は違うが、「オンラインで商品を探して買う」という基本構造そのものは、日本と欧米で極端には変わらない。

2.ECと現実社会が接続するところでは、国ごとの差が大きい

決済、配送、受取、返品、税、住所、CRMチャネルなど。

ここでは、その国の金融、物流、法制度、都市構造、生活インフラが入ってくる。

3.「なぜ買うか」「どう選ぶか」には、商習慣や文化がかなり残る

ギフト、接客、商品選択、値引き、ブランドとの付き合い方など。

この領域は、機能だけ比較しても本質を捉えにくい。

今回の比較で重要なのは、同じ機能が存在していても、実際の使われ方や意味は同じとは限らないことだった。

日本との差を一覧にすると、差が出る場所はさらに分かりやすい

ここまでの比較を、日本を基準に「差が小さい・中程度・大きい」で整理すると、次のようになる。

ここでいう「差」は、単にサイトの見た目が違うという意味ではない。

日本のECで一般的な設計や運用をそのまま持ち込んだときに、現地の購買行動や商習慣とのズレがどの程度生じるかという観点で判定している。

商習慣・購買行動 アメリカ カナダ オーストラリア フランス ドイツ 台湾
基本EC UX
商品発見・選択支援
価格・セール・販促
決済
配送・受取
返品・交換 中〜大
CRM・顧客接点 小〜中
会員・Subscription 小〜中 小〜中 小〜中 小〜中
ギフト・贈答 中〜大
店舗・接客との関係
購入後・リユース等 中〜大

もちろん、これは数学的な指数ではない。

統計、制度、実際のECサイト、同一ブランド比較などを横断した上での、実務上の整理である。

また、ギフトや接客などは配送・決済ほど共通指標で測りやすい領域ではないため、今後さらに深掘りする余地がある。

それでも、表にするとかなりはっきりする。

基本EC UXでは「小」が並ぶ一方、返品、配送・受取、決済、ギフトでは「大」が増える。

つまり「海外だからEC全体を変える」のではない。

差が集中しているポイントがある。

そして、その場所は先ほどの3分類ともかなり一致している。

ECの画面の中だけで完結する領域は共通化しやすい。

現実社会の金融や物流と接続すると差が大きくなる。

さらに「贈る」「返す」「どう選ぶ」といった行為の意味になると、商習慣そのものが現れる。

海外ECのローカライズを考える際には、この濃淡を無視しない方がいい。

全部を変えればいいわけではないし、翻訳と決済だけ変えればいいわけでもない。

ここまでは各市場を横に比較してきたが、差の背景まで理解するには横比較だけでは足りない。そこで、日本との差が特に大きかった項目の一つである「返品」だけ、ここから少し縦に掘ってみる。

返品を見ると、「国民性」と「商習慣」の関係が見えてくる

今回比較した中でも、日本との差が特に大きかったのが返品だった。

全米小売業協会(NRF)の推計では、米国では2025年、オンライン販売の19.3%が返品されるとされている。さらに82%の消費者が、オンラインで購入先を選ぶ際に「無料返品」を重要な条件としている。

一方、日本について米国商務省が紹介している調査では、2023年度のEC平均返品率は6.61%。しかも、調査対象ECの68.3%は顧客都合の返品・交換自体は受け付けている。複数の民間調査を見ても、日本のEC返品率はおおむね6〜7%程度とされている。

調査方法が異なるので「米国は日本のちょうど3倍」といった比較はできないが、返品行動に大きな差があること自体はかなり明確だ。

そしてこの数字だけを見れば、多くの日本人が持つアメリカのイメージともよく一致する。

買ってみて、気に入らなければ返せばいい。

日本から見ると、かなり大胆に見える。

余計な配送が発生する。検品や再包装も必要になる。新品として売れなければ値下げや二次流通へ回す必要もある。それらのコストは最終的には商品価格や企業利益、物流コストなど、どこかで吸収される。

「大量に買い、大量に返す」という行動だけ切り取れば、いかにもアメリカの大量消費社会らしい、と受け取ることも難しくない。

私自身、アメリカで生活していたので、この感覚的な日米差にはそれほど違和感がない。

ただ、商習慣として考えるなら、ここで「アメリカ人はそういう国民性だから」で終わらせるのは少し雑だと思う。

「返品する人が多いから返品しやすい」のか、「返品しやすいから返品する」のか

この点を考える上で参考になる異文化比較研究がある。

2018年の異文化比較研究では、中国・インド・メキシコで暮らす消費者と、それらの国で育った後に米国へ移住した消費者などを比較し、苦情や救済を求める行動に文化と環境のどちらが強く影響するかを調べている。

その結果、返品・返金・交換に対して消費者寄りの制度が存在するかといったsituational factorの影響は大きく、文化要因の効果は相対的に小さかった。日本を直接比較した研究ではないので、そのまま日米差の説明には使えないが、「返品しやすい社会で生活すれば、返品を利用する行動も形成される」という可能性を考えるには重要な結果だ。

別の国際的な返品研究でも、返品手続きが消費者寄りであるという制度環境そのものが、再購入意向などに影響することが示されている。

つまり、「国民性が商習慣を作る」だけではなく、「その国で当たり前になっている商習慣が、消費者の行動を作る」という逆方向も考えた方がいい。

アメリカで暮らしていれば、「これは返品していいものだ」という経験を何度もする。

  • 返品しても店員に嫌な顔をされない。
  • 返品ポリシーに堂々と書いてある。
  • 無料返品が購入先を選ぶ条件になる。

それを何年も繰り返せば、返品は「特別な要求」ではなく、普通の買い方になっていく。

しかも、その環境を作ってきたのは企業でもある

アメリカの返品文化にはかなり長い企業競争の歴史がある。

20世紀初頭にはJ.C. Penneyが、理由を細かく問わない寛容な返品を顧客サービスの一つとして展開していたとされる。その後も小売企業が返品保証を顧客獲得や信頼形成のために使い、EC時代にはZapposが無料返品と長い返品期間を前面に出した。Zapposでは複数のサイズやスタイルを注文し、合うものを残すという買い方まで促進された。

そして返品ポリシーに関する消費者研究でも、返品条件を寛容にすることで遠隔購買時のリスク認識を下げ、注文判断そのものを変えられることが示されている。

要するに、消費者が返品を求めたから企業が応えた、だけではない。

企業側にも、

  1. 返品を容易にする
  2. 買うハードルが下がる
  3. 売上機会が増える

という明確なメリットがある。

競合がそれを始めれば、他社も追随する。その便利さに消費者が慣れれば、今度は「返品しやすくない店」が選ばれにくくなる。

こうして企業と消費者の双方が、返品という商習慣を強化してきたと考える方が自然だ。

ところがIKEAを見ると、日本の方が返品条件が寛容だった

この関係を考える上で、IKEAの日米差は示唆的だ。

現在のIKEA USでは、未開封品は365日以内、開封済み商品は180日以内であれば一定条件のもと返品できるようだ。

一方、IKEA Japanでは、購入から365日以内なら、組み立てた家具や試用した商品まで一定条件を満たせば返品できる。

「アメリカは返品に寛容、日本は厳しい」という単純な図式で考えると、この設定は真逆の方向だ。

もちろん、IKEAがなぜこの条件を国別に設定しているのか、その内部の採算判断までは公開情報から分からない。

ただ、企業の意思決定として考えると興味深い。

商品価格を国ごとの競争環境、所得、物流費、需要などに応じて設定するのと同じように、返品ポリシーも市場ごとにメリットとコストを計算して設定できる。

日本ではそもそもの返品率が低い。

だとすれば、返品期間を365日まで広げ、使用済み・組み立て済みの商品まで対象にしても、実際に大量の返品が発生するとは限らない。

その一方で、「家具を買って失敗したらどうしよう」という購入前の不安を取り除く効果は得られる。

つまりIKEA Japanについては、返品を寛容にすることで発生する追加コストより、購入障壁を下げるメリットの方が大きいと判断できる市場なのではないか、という見方もできる。

これはあくまで公開されている返品制度と市場の返品率からの推測であり、IKEA自身がその理由を説明しているわけではない。

しかし、ここが商習慣と企業戦略の関係として面白いところだと思う。

商習慣に企業が合わせるだけではない。

企業は、その商習慣を前提に、自社にとって最も有利なルールを設定する

そしてそのルールを消費者が経験することで、今度は消費者側の「普通」も少しずつ変わっていく。

だから、返品率の違いを「国民性」だけで説明しない

アメリカでは約2割のオンライン販売が返品され、日本ではかなり低い。

この結果だけなら、我々が持っている日米のステレオタイプともよく合う。

ただ、その背景には次の要素が重なっている。

返品という商習慣を形作ってきたもの

  • もともとの文化や価値観
  • 企業が長年作ってきた返品制度
  • それを利用してきた消費者の経験
  • 物流や返品処理を支える商業インフラ

どれか一つが原因というより、それらが長期間相互作用して現在の商習慣になった、と考える方が妥当だろう。

そしてこれは、今回のテーマ全体にも関係する。

ECの画面を世界共通にすることはできる。

しかし、その市場で何十年も繰り返されてきた「こう買っていい」という感覚まで、画面を変えただけでは同じにならない。

返品は、そのことが非常に分かりやすく表れる例だと思う。

配送も、「商品を届ける」という機能は同じでも前提が違う

物流ではさらに分かりやすい。

例えばフランス。

DHLの2026年調査では、主な配送先として自宅等を選ぶ人が49%なのに対し、Parcel Shopが31%、Parcel Lockerが20%。

返品では、自宅集荷16%に対して、Parcel Shopが58%、Lockerが26%だった。

ドイツでは配送自体は自宅中心だが、返品ではParcel Shop 45%、Locker 32%、自宅集荷23%となっている。

日本人の感覚では「ECで買えば自宅まで届けてもらう」が基本になりやすいが、少なくとも欧州の一部市場では、受取拠点やロッカーを使うことが買い物体験の中にかなり自然に組み込まれている。

台湾も独特だ。

台湾のデジタル発展部は2026年、オンライン購入商品のコンビニ受取を「人々の日常生活の一部」と表現しており、コンビニ受取時の本人確認をデジタルIDで行える仕組みまで導入している。

つまり、「商品を配送する」という機能は同じでも、「どこで受け取るのが自然か」は同じではない。

ここではEC画面の設計よりも、その国の物流・生活インフラの方が購買体験を規定している。

GODIVAを日米で比べると、「機能は同じ、意味が違う」がさらに分かりやすい

もう一つ、今回かなり分かりやすかったのがギフトだ。

同じGODIVAでも、日本と米国ではギフトの設計がかなり違う。

GODIVA Japanの法人向けサービスを見ると、お中元・お歳暮の複数配送を前提にしており、配送先リストをExcelやCSVで渡して発送を依頼できる。熨斗にも対応している。

個人向けには、LINEやメール、SNSを使い、相手の住所や電話番号を知らなくても贈れるeギフトも用意されている。

一方、GODIVA USのギフトナビゲーションは、

  • Birthday
  • Thank You
  • Wedding
  • Anniversary
  • Graduation

といったoccasionを中心に構成され、チェックアウトではパーソナライズしたGreeting Cardを付けられる。

ここで実装されているEC機能を抽象化すれば、実はそれほど違わない。

  • 商品を選ぶ。
  • 相手へ送る。
  • メッセージを添える。

ところが、誰に、いつ、何のために贈るのかという文脈を載せた瞬間に、日本と米国の商習慣がはっきり表れる。

これは今回の比較を象徴する例だと思う。

ECとしての「形」はかなり共通化している。

しかし、その機能を何のために使うのかという「意味」は共通化していない。

海外ECにおける「ローカライズする」とは何をどこまでローカライズするのか?

今回の比較から、実務上の示唆もかなり明確になった。

UIにおいては、すでに世界共通の文法になっている領域が多い。

一方で、

  • 決済
  • 配送・受取
  • 返品

のように現実社会と接続するところは、現地のインフラに合わせないと購買障壁になりやすい。

さらに、

  • ギフト
  • 接客
  • 商品選択
  • 値引き
  • ブランドとの付き合い方

のように「買う意味」に関わる領域になると、単なる機能ローカライズでは不十分になる。

GODIVAの日本サイトから「お歳暮」という文字だけを英訳しても意味はないし、逆に米国サイトのBirthdayやWeddingという分類をそのまま日本へ持ってきても、日本の贈答需要をすべて説明できるわけではない。

だから海外ECのローカライズで見るべきなのは、

どこがすでに世界共通で、どこから先にその国の社会や文化が入り込んでくるのか

という境界だと思う。

おわりに|ECの画面は共通化した。それでも「買い物」は共通化していない

国ごとの商習慣について整理しようとして、結果的に一番重要だと考えているのはここだ。

ECの画面は、かなり世界共通になった。

しかし、その画面の外側につながっている金融、物流、店舗、法制度は国によって違う。

そして、その画面の中で行われている「買う」「返す」「贈る」という行為の意味にも、その国の歴史や商習慣が残っている。

だから、

  • 同じカート
  • 同じチェックアウト
  • 同じ返品ボタン
  • 同じギフト機能

があったとしても、そこで行われている買い物まで同じとは限らない。

今回、日本と6市場を横に比較したことで、差が大きい領域もかなり絞れてきた。

  • 返品
  • 配送・受取
  • 決済
  • ギフト
  • 接客・商品選択

ここから先は、全部を一度に説明するより、一つずつ縦に掘った方がいい。

国民性の話で終わらせず、なぜその商習慣が成立したのかまで追う。

このテーマは、しばらくシリーズで続けてみようと思う。

関連コラム:企業がギフトを禁止する理由|人間関係を動かす贈り物と、これからのギフトEC(本記事で商習慣の差が最も大きかった領域の一つ「ギフト」を、贈り物が人間関係の中で持つ意味から掘り下げた回)

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