前回、「海外ECはどこまで世界共通なのか?」という記事で、日本を基準にアメリカ、カナダ、オーストラリア、フランス、ドイツ、台湾のECを横断比較した。
そこで見えてきたのが、ECのUIはかなり世界共通になっている一方、決済、配送・受取、返品など、ECと現実社会が接続する部分では国ごとの差が大きく残っているということだった。
配送・受取で特に日本との差が大きかったのが、フランス、ドイツ、台湾である。
フランスでは街の商店を使う受取拠点、ドイツでは宅配ロッカー、台湾ではコンビニが、自宅配送に加える重要な選択肢になっている。
もちろん、この違いを知るだけでも海外ECの実務には役立つ。
しかし今回は、
なぜ、同じような受取方法が各国に存在するのに、その使われ方や比重はここまで違うのか。
その背景まで少し遡ってみたい。
まず、受取方法はどれくらい違うのか
まず、その差がどの程度あるのかを実際の利用データで確認しておきたい。
前提として、受取方法そのものは各国で大きく違うわけではない。フランスやドイツにも自宅配送はあり、日本にも店頭受取やロッカーがある。違うのは、それぞれがどの程度使われているかという比重である。
フランスではFevadの2024年調査で、自宅配送が54%、自宅外受取が46%。自宅外のうち45%がpoint relaisなので、全配送の約2割がpoint relaisになる。同じくDHLの2025年調査では、希望配送先はフランスで自宅53%、parcel shop(店舗型受取拠点)28%、locker 9%、ドイツで自宅60%、locker 14%、parcel shop 10%だった。どちらも自宅が最多だが、自宅外受取の構成には明確な差がある。
台湾ではMICの2025年調査で、よく使う受取方法はコンビニ75.2%、宅配54.7%、ロッカー27.4%。日本ではMyVoiceの2026年調査で、自宅での対面受取82.4%、置き配40.5%、宅配ボックス16.1%、コンビニ・スーパー等の店頭受取4.4%だった。
調査の設問や集計方法は国ごとに異なるため、4か国の数字をそのまま横並びにはできない。それでも、同じような受取手段が存在しながら、選ばれ方にはかなり違いがあることは確認できる。
では、なぜこの比重の違いが生まれたのか。ここから各国のインフラの歴史を見ていく。
調べていくと、現在のEC配送はEC時代にゼロからつくられたものではなく、通販、郵便、宅配便、小売店、コンビニなど、その国が以前から持っていた商業インフラの上に構築されていることが見えてくる。
フランスでは、普通の街の店が荷物の受取場所になる
フランスでは、街の商店などを荷物の受取・発送拠点として利用する「point relais(ポワン・ルレ)」と呼ばれる仕組みが広く使われている。
Pointは「地点・場所」、Relaisは「中継・引き継ぎ場所」という意味なので、日本語なら「受け渡し拠点」くらいが近い。
ここで少しややこしいのは、point relaisは一企業だけのサービス名ではないことだ。
フランスにはLa PosteグループのPickupなど複数の受取ネットワークが存在する。一方、代表的な民間物流企業Mondial Relayは、1992年に「Points Relais®」を商標登録している。そこで本記事では、方式一般を「point relais」、Mondial Relayのサービスを「Point Relais®」と書き分ける。

Point Relais®になるのは、スーパー、花屋、書店、クリーニング店、眼鏡店など、ごく普通の商店である。店舗側は保管スペースを用意し、荷物を受け渡す代わりに手数料や来店機会を得る。Mondial Relay自身も、Point Relais®化による店舗への集客効果を訴求している。
消費者はECで配送先として受取拠点を選び、荷物が届いたら自分の都合のよい時間に取りに行く。
ここで重要なのは、「自宅配送より不便な代替手段」とは限らないことだ。
La Posteによると、EC利用者の89%がいつも同じ受取場所を選ぶという。受取拠点の配置も、駅、近所の商店、ガソリンスタンド、駐車場、ジムなど、日常の移動経路を意識して設計されている。
つまり、「いつもの受取場所」が生活動線の中にある。
Mondial Relayのレビューで、指定した近所の拠点ではなく遠い場所へ荷物を振り替えられたことに強い不満が出るのも、この感覚を考えると理解しやすい。
フランスの受取拠点網は、ECより古い
そして、この仕組みはEC時代に生まれたものではない。
Mondial Relayの歴史は1974年まで遡る。
当時、フランスで郵便サービスのストライキが発生し、通信販売大手3 Suissesが、郵便に依存しない独自の配送サービスを構築した。
1992年には「Points Relais®」を商標登録。1997年には2,560拠点まで拡大し、同年にMondial Relayという会社が設立されている。
かなり単純化すれば、
- 郵便が止まる
- 通信販売会社が独自物流網をつくる
- 街の商店を受取拠点にする
- 民間物流サービスへ成長する
- ECがそのネットワークを利用する
という流れである。
つまり、ECがフランス人に街の店で荷物を受け取る習慣をつくった、という順番だけではない。
通信販売時代から存在したインフラと、それを長年利用してきた消費者の経験を、ECが引き継いでいる。
現在のMondial RelayはInPost傘下で、フランスに7,000のPoint Relais®と12,000を超えるLockerを持ち、5万社以上のEC事業者と取引している。La Posteグループも、郵便局、商店型Pickup、ロッカー等を合わせて2万6,000を超える受取・発送拠点を展開している。
もはや特殊な配送サービスではなく、一つの巨大な配送市場である。

ここは注意が必要で、現在のフランスを「商店受取」、ドイツを「ロッカー」と綺麗に分けられるわけではない。
フランスでもLockerは急速に増えている。
違いを見るなら、設備の有無ではなく、どのような歴史を経て、何が日常の受取方法になったのかを見た方がいい。
ドイツでは、物流企業自身が「配送先」をつくった
ドイツで象徴的なのがDHLのPackstationだ。
日本にも宅配ロッカーはあるので、写真だけを見ればそれほど特殊には見えない。

ところが規模を比較すると、印象が変わる。
DHLは2003年にPackstationを正式サービス化し、2025年7月時点でドイツ国内に15,500台超を展開している。
日本で比較対象として近いオープン型宅配ロッカー「PUDOステーション」は、2026年時点で全国約7,000拠点である。
人口はドイツ約8,350万人、日本約1億2,305万人なので、単純計算すると次のようになる。
| ドイツ・DHL Packstation | 日本・PUDO | |
|---|---|---|
| 設置数 | 15,500台超 | 約7,000台 |
| 100万人当たり | 約186台 | 約57台 |
| 人口当たり密度 | PUDO比 約3.3倍 | 1 |
もちろん、これは日独に存在するすべての宅配ロッカーを比較した数字ではない。日本にはAmazon Hub Lockerやマンション宅配ボックス等もあり、ドイツにもDHL以外の設備がある。
さらに、設置台数だけでは実際の容量が分からない。
DHLによると、2022年11月時点で11,000台超のPackstationに100万口を超える収納スペースが存在していた。単純平均では1台90口以上になる。
大型設備ではさらに多く、ライプツィヒ中央駅には241口を備えるPackstationも設置されている。
日本のPUDOもS・M・Lなど複数サイズの収納口を組み合わせているが、設置場所ごとにモデルや列数が異なり、全国の総収納口数は公表されていない。
したがって総容量の日独比較まではできない。
それでも、「一社だけで15,000台超、2022年の時点ですでに100万口超」という数字を見ると、Packstationが「不在時のための補助設備」という規模を超えていることは分かる。
実際、Packstationは不在後に使うだけではなく、EC購入時から配送先として指定できる。
フランスが既存の街の商店を物流網にしたとすれば、ドイツは物流企業自身が巨大な受取インフラをつくったのである。
台湾は、コンビニそのものを物流インフラにした
台湾ではコンビニ受取が非常に一般的である。
では、単純に日本よりコンビニが多いからなのか。
2025年8月時点で、台湾のコンビニは14,236店、日本は56,585店。
絶対数では日本の方が約4倍多い。
しかし人口当たりでは、台湾は1,659人に1店、日本は2,180人に1店。面積当たりでは台湾2.57平方キロメートルに1店、日本6.68平方キロメートルに1店となる。
| 台湾 | 日本 | |
|---|---|---|
| コンビニ店舗数 | 14,236店 | 56,585店 |
| 1店舗当たり人口 | 1,659人 | 2,180人 |
| 1店舗当たり面積 | 2.57km² | 6.68km² |
台湾の方が確かに高密度だ。
ただし人口当たりでは約1.3倍である。
日本にも十分すぎるほどコンビニがある。
それでもEC商品の受取場所としての位置づけは同じにならなかった。
つまり、「台湾にはコンビニが多いから」だけでは説明できない。

台湾7-ELEVENは2025年上半期で7,151店、FamilyMartは同年6月末で4,378店。二社だけで台湾のコンビニ全体のおおむね8割を占める巨大な店舗網になっている。
そして、この店舗網が単なる小売網ではない。
台湾のコンビニでは、EC商品の受取、店から店への発送、受取時の代金回収、C2C取引、料金収納などが同じ店舗で行われる。
7-ELEVENは7,200店を超える店舗網で荷物の寄取サービスを展開し、OPENPOINTアプリを使った荷物受取認証だけでも年間3,300万人回利用されている。
FamilyMartは1989年に物流センターを整備し、1998年に代金収納、2008年には店から店への「店到店」を開始した。そのC2C荷物数は開始後10年間で800倍以上に成長している。
つまり台湾は、コンビニが多かったから荷物を置いた、だけではない。
コンビニ自体を、物流、決済、個人間取引まで扱う生活上のトランザクション拠点へ発展させてきた。
ドイツが専用ロッカーを大量につくったとすれば、台湾は、すでに大量に存在したコンビニをロッカー以上のものにした、という違いがある。
では、同じくコンビニ大国の日本はなぜ違ったのか
日本にも5万6,000店を超えるコンビニがあり、コンビニ受取も宅配ロッカーも利用できる。
それでも、ECの基本的な受取場所はいまも自宅である。
ここでは、日本で極めて強い個人宅配送インフラが先に発達したことが重要に見える。
ヤマト運輸は1976年に宅急便を開始。その後、不在時の再配達、夜間配送、365日営業、時間帯指定など、自宅へ届けるサービスそのものを高度化してきた。
コンビニ等を使った宅急便の店頭受取が始まるのは2006年である。
つまり日本は、自宅以外の受取場所を主役にする前に、自宅配送を非常に便利にした。
もちろん日台差は、宅配便の歴史だけで説明できるものではない。
都市構造、住宅事情、人件費、コンビニ企業の戦略なども関係する。
ただ、コンビニ密度だけでは台湾の受取文化を説明できないことは、日台比較からかなりはっきりしている。
「国民性」より、企業とインフラの積み重ねを見る
ここまでの違いをまとめると、こうなる。
4か国の受取インフラの成り立ち
- フランスは、通信販売時代から街の商店を物流網へ組み込んだ。
- ドイツは、物流会社が巨大な専用ロッカー網をつくった。
- 台湾は、コンビニを物流・決済まで扱う生活インフラへ発展させた。
- 日本は、自宅配送そのものを高度化した。
結果だけ見れば、
- 「フランス人は店で受け取るのが好き」
- 「ドイツ人はロッカーが好き」
- 「台湾人はコンビニが好き」
- 「日本人は自宅配送が好き」
という話にもできる。
しかし、今回見てきた歴史からすると、逆方向も考えた方がいい。
- 企業が便利なインフラをつくる。
- 消費者がそれを使う。
- 利用が増えれば、企業がさらに投資する。
その循環が長期間続くことで、「この国では、こう受け取るのが普通」という商習慣が形成されていく。
前回扱った返品と同じく、「国民性が商習慣をつくる」だけでなく、商習慣をつくる制度や企業行動が、消費者の普通をつくると考える方が自然だと思う。
越境ECでは、現地の配送方法を追加するだけでは足りない
ここから実務の話に戻したい。
フランスではpoint relaisが一般的だから対応する。
ドイツではPackstationに対応する。
台湾ではコンビニ受取を用意する。
方向性としては正しい。
しかし、日本から直接商品を送る越境ECでは、その前に輸入通関がある。
例えばDHLでは、EU域外から来る商品入りの荷物や、関税等の追加支払いが必要な荷物はPackstation配送の対象外になる。
EUでは輸入商品にVATがかかり、2026年7月からは150ユーロ以下のEC輸入品についても、暫定措置として関税分類ごとに3ユーロの関税が原則課されるようになった。
台湾でも、輸入品の完税価格が2,000台湾ドルを超えれば原則として関税・営業税等の対象になり、2026年3月からは国際宅配便の通関でEZ WAYによる事前確認も全面実施されている。
つまり、国内ECで普通に使える受取方法と、日本から直接送る越境ECで使える受取方法は必ずしも同じではない。
DDPは、価格の透明性だけの話ではない
Shopifyでも現在は、Marketsを使って国・地域ごとに関税・輸入税をcheckoutで徴収する設定が可能になっている。Global-eのような越境EC支援サービスでは、DDP、DDU、さらに税・関税を商品価格へ内包するHidden Force DDPなどを市場ごとに設計することもできる。
そのうえで弊社では、BtoCのグローバルECについては基本的に、DDP(Delivered Duty Paid)、またはそれに相当する「購入時に税・関税負担まで確定させる体験」を推奨している。
最も分かりやすい理由は価格の透明性だ。
購入後にVAT、関税、通関手数料を追加請求されるより、checkout時に最終的な支払額が分かる方がいい。
実務上は、円安によって現地通貨建てでの価格競争力が残り、関税・税を含めても価格の見え方が大きく悪化しないケースもある。
しかし、配送・受取まで考えると、DDPの意味はそれだけではない。
現地の国内ECなら、
- 購入する。
- いつもの受取場所を選ぶ。
- 通知が来たら受け取る。
で終わる。
越境ECだけ、受取前に税金の支払いや通関手続きが発生すれば、せっかく現地の配送方法を導入しても、現地で普通の受取体験にはならない。
だから、税・関税の負担を購入時に確定させ、着荷時の追加徴収をできるだけ残さないことは、越境ECの商品を現地のラストワンマイルへ自然につなげるためにも重要である。
ただし、DDPにすれば日本から発送した商品をそのままPackstationへ送れる、という意味ではない。
DHLでは非EU圏からの商品入り貨物自体にPackstation利用の制約がある。実現するなら、EU域内で輸入通関を完了させ、その後どの国内配送網へ引き渡すかまで物流スキームを設計する必要がある。
海外ECにおける配送ローカライズとは、現地で人気の配送方法をcheckoutに追加することではなく、輸入通関からラストワンマイルまでを含めて、現地の配送インフラへどう接続するかを設計することなのである。
余談|その国に「自宅」がない人は、どこで受け取るのか
最後に、少し別の角度から考えてみたい。
旅行者である。
訪日旅行者には、日本国内の恒久的な自宅住所がない。
それでも、
日本にいる間に、日本の商品をECで買いたい。
という需要はある。
WAmazingでは、訪日前・旅行中にオンラインで商品を購入し、主要空港・駅周辺の専用設備や、全国160か所以上のホテル等で商品を受け取れる免税ECを展開している。
商品購入ではないが、ヤマト運輸の「空港宅急便」も同じ発想を理解するには分かりやすい。
自宅などから荷物を空港へ送り、搭乗日に空港カウンターで受け取る。逆に、空港からホテルへ送ることもできる。
そして、民泊を運営している知人からは、海外からの宿泊者が日本のECで商品を購入し、民泊の住所を配送先に指定することがよくあると聞いた。
中には、「代わりにネットで買っておいてほしい」と依頼する人までいるという。
少数の友人運営者から聞いた話なので市場データではないが、旅行者のECを考えるうえでは興味深い話だ。
自国への配送ではなく、日本滞在中に受け取りたい理由は様々だろう。すぐに使いたい、日本で購入した商品を自分で持ち帰りたい、対象商品であれば訪日客向けの免税制度を利用したい、といった事情も考えられる。
とにかくその人にとって数日間だけ、民泊施設が住所になり、EC商品の受取場所になり、ときには購入支援窓口にもなる。
ここまで考えると、「配送先=住所」と考える必要すらないのかもしれない。
その時、その顧客が最も自然かつ確実に商品を受け取れる場所。
それが配送先なのである。
おわりに|現在のEC配送は、過去の商業インフラの上にある
今回、配送・受取を縦に掘ってみると、前回の横断比較からもう一段進んだ整理ができた。
- フランスのpoint relaisには通信販売の歴史がある。
- ドイツのPackstationには物流企業による巨大な設備投資がある。
- 台湾のコンビニ受取には、コンビニを物流・決済拠点へ拡張してきた歴史がある。
- 日本の自宅配送には、宅急便を高度化してきた歴史がある。
ECが各国の配送文化をゼロからつくったわけではない。
その国が何十年もかけて構築してきた商業システムの上に、現在のECが乗っている。
だから、同じShopify、同じ商品ページ、同じcheckoutまでつくれても、その先で接続する現実社会は同じではない。
海外ECで見るべきなのは、画面の中だけではない。
顧客がその社会の中でどう生活し、どこなら自然に荷物を受け取れるのか。
そこまで含めて設計することが、配送におけるローカライズなのだと思う。
関連コラム:海外ECはどこまで世界共通なのか?|日本と6市場の商習慣比較から考える、「買い物の常識」とローカライズの境界(本シリーズ第1回。今回の配送・受取は、この横断比較で差が大きかった領域を縦に掘ったもの)



